閉経後のホルモン補充療法は卵巣癌の発症リスクを上昇させる可能性

キャンサーコンサルタンツ

閉経後にホルモン補充療法(HRT)を受ける女性は卵巣癌の発症リスクが29%上昇するとみられる。 本知見は米国癌学会の癌予防研究最前線会議(American Association for Cancer ResearchFrontiers in Cancer Prevention Research conference)の第9回年次会議で発表された。

エストロゲンによるホルモン補充療法は、プロゲスチンの併用の有無に関わらず、多くの閉経後の症状に有効である。しかし過去数年間の研究では閉経後のホルモン補充療法が健康に重大な問題を与えることが示されてきた。具体的には、エストロゲンとプロゲスチンの併用治療を受けている女性の心疾患、乳癌、脳卒中、および血液凝固のリスク上昇、エストロゲン単剤療法を受けている女性の脳卒中のリスク上昇などである。また、閉経後にホルモン補充療法を受けている女性の肺癌や卵巣癌の発症リスクの懸念も示されている。

研究者らはEuropean Prospective Investigation into Cancer and Nutritionのデータを使用し、 ホルモン補充療法と卵巣癌の発症リスクとの関連性と、様々な種類のホルモン補充療法(エストロゲン単剤使用またはエストロゲンとプロゲスチンの併用使用など)のリスクを評価した。研究は9年間追跡調査した126,920人の女性を対象とし、研究期間中に424人が卵巣癌と診断された。

研究に参加したホルモン補充療法使用者の内訳を以下に示す。

• ホルモン補充療法を受けたことがある人が45%(56,534人)、現在ホルモン補充療法により治療中の人が30%(37,630人)であった。
• 現在ホルモン補充療法を受けている人のうち、エストロゲンとプロゲスチンの併用者は69%、 エストロゲン単剤使用者は18%であった。
• 現在ホルモン補充療法で用いられていた他の種類のホルモン補充療法薬にはチボロン(3%)および他の製剤(2%)が含まれていた。8%の女性が受けているホルモン補充療法の情報は不明であった。

ホルモン補充療法と卵巣癌の発症リスクについての知見は以下のとおりである。

• ホルモン補充療法を受けたことがない人と比べ、現在ホルモン補充療法を受けている人は卵巣癌のリスクが29%上昇した。
• ホルモン補充療法使用者の卵巣癌の発症リスクはホルモン補充療法の使用期間にともなって上昇し、5年以上治療を受けた人の卵巣癌の発症リスクは、ホルモン補充療法を受けたことがない人に比べて45%上昇した。
• 現在エストロゲンを単剤使用している人は卵巣癌のリスクが63%上昇する。しかしながらプロゲスチンとエストロゲンを現在併用使用する人の卵巣癌のリスクの有意な上昇はみられなかった。
• チボロンの使用により卵巣癌の発症リスクは2倍に上昇すると考えられるが、チボロン使用者群は人数が不十分のため、この知見には統計学的有意性がみられなかった。
• 疾病背景と患者背景などの要因を考慮してもホルモン補充療法が卵巣癌発症リスクを上昇させるといえる。

研究者らはホルモン補充療法の使用、特にエストロゲンの単剤使用は閉経後の女性における卵巣癌の発症リスクを上昇させると結論づけた。本知見はホルモン補充療法と卵巣癌の関連性を示す過去のデータと一致すると付け加えた。

参考文献:
Tsilidis KK, et al. Menopausal hormone therapy and risk of ovarian cancer in the European Prospective Investigation into Cancer and Nutrition. Presented at the 2010 AACR Frontiers in Cancer Prevention Research Conference. November 7-10, 2010. Philadelphia, PA. Abstract B101.


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翻訳担当者 芝原広子

監修 辻村信一 (獣医学/農学博士、メディカルライター)

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