腎臓/膵臓がんに対する新たな免疫ベース治療法、実現の兆し?
腎臓がんと膵臓がんに対する新たな免疫療法が、2つの小規模臨床試験で有望な結果を示した。どちらの試験でも、腫瘍摘出手術が成功した患者において、これらの治療法ががん再発を予防する効果が示唆された。
この治療法は、免疫系が既存のがんを排除するのを助けるため、治療用がんワクチンと呼ばれる。
両試験では、手術中に採取された腫瘍サンプルの徹底的な遺伝子解析に基づき、各患者に合わせた治療薬が特別に開発された。研究チームはこの解析により、各患者のがん細胞に存在する「ネオアンチゲン」と呼ばれる変異タンパク質を特定することができた。これらの異常タンパク質は、免疫系に対して作動する警報装置のように作用し、がん細胞が排除すべき脅威であることを警告する。
しかし、さまざまな理由により、この警報システムはうまく機能しない。ネオアンチゲンをベースとした今回の治療法は、この欠陥に介入して、変異タンパク質を有する細胞はすべて排除すべきことを免疫系に認識させるように設計されている。
両研究ともに、患者は手術後数カ月にわたり、個別化治療薬を複数回投与された。手術後に治療を行うことで、体内に残存するがん細胞をすべて死滅させ、将来的に発生するがん細胞を認識して殺傷できる免疫細胞の小集団を確立することが期待される。
スローンケタリング記念がんセンターで行われた膵臓がん臨床試験に参加した16人の患者のうち、8人が治療に対して強い免疫反応を示し、6人は最初の手術から3年以上経った今でもがんが再発していないとの研究結果が2月19日付けNature誌で報告された。
ダナファーバーがん研究所で実施された腎臓がん臨床試験には、9人の患者が参加した。試験に参加した患者のうち、がんを再発した患者はおらず、4人は手術から3年以上経過後も、がんが再発していなかったと、2月5日付けNature誌で研究結果として報告された。
両試験の参加者の多くにおいて、患者個別ワクチンに含まれる標的ネオアンチゲンを認識できる免疫細胞は、最後の治療薬投与から数年経っても血液中に存在していた。また、両試験とも治療法は安全と思われ、軽度の副作用のみが報告された。
これらの研究を実施した研究チームは、治療法の可能性について楽観視していると述べた。しかし同時に、これらの初期結果を確認するには、すでに開始されている、より規模の大きい臨床試験が必要であると強調した。
変異が少ない?個別化ネオアンチゲンワクチンはどうか?
免疫チェックポイント阻害薬として知られる免疫療法薬は、腎臓がん、特にがんが体全体に転移した患者の治療に通常使用される。
しかし、膵臓がん患者の場合、免疫療法革命はまだ到来していない。臨床試験では、免疫療法薬は単独、あるいは他の治療法との併用を問わず、腫瘍を手術で切除できる患者を含め、何の効果も示していない。
しかし、腎臓がんと膵臓がんの患者の腫瘍には共通点がある。それは、通常、遺伝子変異が多くないことである。そして、これが問題なのである。なぜなら、変異が少ないということは、がん細胞に免疫系の注意を引くネオアンチゲンが少ないことを意味するからである。
しかし、技術の進歩により、あらゆる種類のがんにおける潜在的なネオアンチゲンの発見や、どのネオアンチゲンが免疫系の関心を最も刺激するかの予測が容易になった。
腎臓がん患者9人、再発なし
腎臓がん臨床試験において、研究チームは各患者の腫瘍において、最も強い免疫反応を引き起こすと思われるネオアンチゲンを最大20種類特定した。そして、その変異タンパク質の小さな断片(ペプチド)を化学合成し、各患者の治療薬に使用した。
手術後まもなく、各患者は1カ月間、週1回の治療薬投与を受けた。さらに、約12週間後と20週間後にブースター投与を受けた。5人の参加者は、各治療薬投与時に免疫チェックポイント阻害薬イピリムマブ(販売名:ヤーボイ)の低用量投与も受けた。
臨床試験に参加したどの患者にもがんが再発しなかったという事実は「励みになり、興奮させられる」と、NCIのMark Ball医師は言う。同医師は腎臓がんの治療を専門としているが、今回の臨床試験には関与していない。
しかし、Ball医師は次のように警告する。手術可能な腎臓がん患者が手術後、再発することなく数年以上生存することは珍しくない。そのため、この試験で再発がみられなかったのは、その免疫ベース治療法が原因なのかどうかは不明である。
同医師は続けて、それが治療の結果であるという「より説得力のあるデータ」は、治療を受けた患者の免疫系の挙動の解析によるものであると述べた。
治療の標的となったネオアンチゲンに対する「非常に強い免疫反応が研究で確認されていました」と、Ball医師は述べた。
研究者らの報告によると、こうした免疫反応は各投与から数週間以内に発生し、多くの患者には、最後の投与から数年経っても標的のネオアンチゲンを認識できるT細胞がまだあった。
「がんのどの標的が免疫攻撃に最も影響を受けやすいかが特定でき、このアプローチによって長期にわたる免疫反応を生み出せることを実証した」と、本臨床試験の主任研究者で、元ダナファーバー所属、現在はイェールがんセンターに所属するDavid Braun医学博士はプレスリリースで述べた。
膵臓がん患者における持続的な反応
膵臓がん臨床試験では、スローンケタリング研究所の研究者らがドイツのBioNTech社と提携した。この臨床試験において、mRNA技術を用いてネオアンチゲンが作製された。
BioNTech社は各患者のワクチン用に最大20個の標的ネオアンチゲンのmRNAを構築し、各患者向けにautogene cevumeran(オートジーン セブメラン)という最終治療薬を作成した。
研究に参加した患者は、オートジーン セブメランの初回投与時に免疫チェックポイント阻害薬アテゾリズマブ(販売名:テセントリク)の単回投与を受け、その後、数カ月にわたりワクチンの複数回投与を受け、最後に4剤化学療法レジメンの短期コースを受けた。
膵臓がん試験に参加した患者16人のうち8人が治療に反応を示し、研究者らはこれを、免疫系が標的ネオアンチゲンを有する細胞を攻撃するようにうまく刺激された証拠とみなした。
治療に反応しなかった8人のうち、がんが再発するまでの期間の中央値は約13カ月であった。治療に反応した8人のうち2人は最終的に再発したが、残りの6人は約3年経過後の現在もがんは再発していない。
反応を示した人の一部は、最後の投与から最長4年経っても標的抗原を認識できるT細胞をもっていた。
今後、より大規模な臨床試験で、安全性・有効性を解明
どちらの研究でも、患者には軽度の副作用しか出なかった。特に、手術で切除可能な腎臓がん患者の場合、安全性は最重要課題であるとBall医師は言う。
進行した腎臓がんの患者は、「延命につながるのであれば、ある程度の[副作用は]我慢しようとすることが多い」と同医師は述べた。しかし、手術で腫瘍を切除できる患者の場合は、また違ったバランスのとり方が必要である。
「がんが再発する確率ははるかに低くなります」と彼は述べた。このような免疫療法がこれらの患者の日常的治療の一部となるためには、「忍容性と安全性に優れた治療法が必要になるでしょう」と彼は続けた。
今後数年間で、こうした治療法の有効性や安全性について、さらに多くの情報が得られるはずである。
ダナファーバー試験の初期結果を基に、Merck社とModerna社は、手術可能な腎臓がん患者に対する術後補助療法として、個別化されたネオアンチゲンワクチンを検証する中規模の臨床試験を実施している。
そして、Genentech社とBioNTech社は現在、手術で切除可能な膵臓がん患者の術後補助療法として、スローンケタリング試験で使用されたものと同じmRNAベースの治療法を検証する試験を実施している。
- 監修 高光恵美(生化学、遺伝子解析)
- 記事担当者 山田登志子
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- 原文掲載日 2025/04/23
【この記事は、米国国立がん研究所 (NCI)の了承を得て翻訳を掲載していますが、NCIが翻訳の内容を保証するものではありません。NCI はいかなる翻訳をもサポートしていません。“The National Cancer Institute (NCI) does not endorse this translation and no endorsement by NCI should be inferred.”】
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