【AACR2025】AI活用バイオマーカーにより、がん悪液質検出が向上する可能性

日常的に収集される画像情報と臨床情報を解析するマルチモーダルな人工知能(AI)型モデルにより、標準的な方法と比べてがん悪液質をより正確に予測できるようになったとの結果が、4月25日から30日に開催された米国癌学会(AACR)年次総会で発表された。

「がん悪液質は多くのがん患者が罹患する深刻な合併症で、全身性炎症、重度の筋力低下、著しい体重減少が特徴です」と、サウスフロリダ大学およびモフィットがんセンターに在籍する大学院生Sabeen Ahmed氏は述べた。

「がん悪液質を特定することで、生活習慣の改善や薬理学的介入が可能になり、筋力低下の抑制、代謝機能の改善、そして患者の生活の質の向上につながります」とAhmed氏は指摘する。「残念ながら、がん悪液質の現在の検出方法は、臨床観察、体重減少閾値、そして間接的なバイオマーカーに依存しており、これらはしばしば一貫性がなく主観的であり、病勢進行で手遅れとなる時期に検出されるケースが多い」。

Ahmed氏らは、AI活用バイオマーカーの利用によってがん悪液質の検出能力が向上する可能性があるという仮説を立てた。Ahmed氏によると、AI活用バイオマーカーとは、機械学習を使って学習したがん悪液質指標をアルゴリズムで導き出したものである。「従来のバイオマーカーと比較して、AI活用バイオマーカーは、従来の解析では見逃されていた複雑なパターンを明らかにすることで、がん悪液質をより高感度かつ正確に検出できる可能性があります」と、Ahmed氏は述べる。

今回の研究では、マルチモーダルAI活用多層パーセプトロン・モデルが開発、評価された。このモデルは、画像スキャンと複数種類の日常的臨床データからの情報を統合し、AI活用バイオマーカー(この場合は、患者ががん悪液質を発症している、または発症する確率)を報告する。

膵臓がん患者の画像診断と、患者の人口統計学的情報、体重、身長、がんステージの情報を組み合わせたところ、本モデルは症例の77%で悪液質を正確に特定した。この精度は、検査結果を加えると81%に向上し、構造化された臨床記録を組み込むとさらに85%に向上した。

研究者らは、マルチモーダルAI活用バイオマーカーモデルが患者の相対生存率を予測する能力も評価した。臨床データのみに基づく標準的な方法と比較して、マルチモーダルAI活用生存率解析の精度は、膵臓がん、大腸がん、卵巣がんの患者において、それぞれ6.7%、3%、1.5%高かった。

AI活用バイオマーカーモデルは、主に2つのステップで機能する。まず、コンピューター断層撮影(CT)スキャンなどの診断画像を調べ、筋肉を自動的に検出して測定するアルゴリズムを使用して患者の体内の骨格筋の量を定量化する。モデルは定量化の信頼性の見積もりを出し、これは、手動による評価から大きく逸脱する可能性のある、信頼性の低い結果にフラグを立てるのに役立つとAhmed氏は説明し、これにより情報に基づいた解釈と人間によるレビューが可能になると付け加えた。次に、モデルは、がん診断の精密検査の一環として日常的に収集される複数種類の臨床データ(検査結果、電子カルテの所見、体重・身長など)をまとめ、これらのデータを最初のステップで出した骨格筋定量化と統合して、AI活用バイオマーカーを算出する。

このモデルの骨格筋定量化機能は、胃食道がんまたは膵臓がん患者の注釈付きCTスキャン画像を用いて学習され、膵臓がん、大腸がん、卵巣がん患者の別々の画像セットで検証された。検証テストでは、AIモデルによる骨格筋定量化結果は、熟練した放射線科医による手動定量化結果と中央値で2.48%の差があった。

「中央値で2.48%という差異は、平均すると、モデルによる骨格筋の測定値が専門の放射線科医の測定値に非常に近いことを示し、私たちのAI活用アプローチの信頼性が高いことを示しています」と、Ahmed氏は説明した。

「私たちのAI活用マルチモーダル・アプローチは、がん診断時に収集された複数種類のデータを用いてがん悪液質を検出するための、拡張可能で客観的なソリューションを提供します。これにより、医療従事者は疾患進行の早期段階で悪液質を軽減するための介入を開始できる可能性があります」と彼女は指摘した。「この研究結果は、機械学習ががん治療に革命をもたらし、個別化治療計画を可能にする可能性の高まりを浮き彫りにしています」。

本研究の限界は、AI活用モデルが少数のがん種のデータを用いて学習・検証されたため、他のがん種の患者におけるモデルの性能を把握できないことである。もう一つの限界は、本研究では骨格筋の解析にCTスキャンのみを用いていたことであり、Ahmed氏は、他の種類の画像スキャンを組み込むことでモデルの堅牢性が向上する可能性があると述べる。さらに、モデルの性能は解析対象となる臨床データと画像データの質に依存するため、実際の臨床応用においては欠損データやノイズデータが精度に影響を与える可能性があるとも説明した。

本研究は、国立科学財団、米国国立衛生研究所(NIH)、James and Esther King財団、および国防総省の支援を受けて行われた。Ahmed氏は利益相反がないことを宣言している。

  • 監修 石井一夫(計算機統計学/公立諏訪東京理科大学)
  • 記事担当者 山田登志子
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  • 原文掲載日 2025/04/27

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