術後化学療法後の個別化がんワクチンPGV-001は安全かつ有望

ネオ抗原がんワクチンPGV-001による治療を標準術後化学療法の後に行った第1相臨床試験で、再発リスクが高い多様な腫瘍の患者に対して忍容性が良好であり、臨床上有益である可能性が示された。この知見は、米国がん学会(AACR)バーチャル年次総会2021の第1週(4月10日~15日)に発表された。

「免疫療法はがん治療に革命をもたらしましたが、そうした治療法でも有意な臨床効果が得られない患者が大半です」とThomas Marron医学博士は述べる。同氏は本研究論文の著者であり、ティッシュがん研究所における初期相および免疫療法試験アシスタントディレクター兼ニューヨーク市マウントサイナイ・アイカーン医科大学医学部助教(血液・腫瘍内科)である。「がんワクチンとは通常、腫瘍特異的なネオアンチゲン(ネオ抗原)と免疫反応を促進する免疫賦活剤とを結合させたもので、既存治療で抗腫瘍反応を示さない患者にとって、有望な治療戦略となる可能性があります」。

「試験的な個別化がんワクチンの大半は、がんが転移した状態で投与しますが、免疫療法は、腫瘍組織量が少ない患者ほどより有効である傾向が先行研究で示されています」と本研究著者のNina Bhardwaj医学博士は述べる。同氏はティッシュがん研究所の免疫療法プログラム責任者、マウントサイナイ・アイカーン医科大学Ward-Coleman Chair in Cancer Researchでもある。「そこで私たちは、標準術後化学療法を行った後、患者の残存病変が微小な時点(通常は顕微鏡レベル)で投与するネオ抗原ワクチンを開発したのです」。

Marron氏らの方法では、個別化がんワクチンを生成するために各患者の腫瘍および生殖細胞系DNA、ならびに腫瘍RNAの配列を決定する。さらに、特定したがん抗原に対する免疫認識の可能性を予測するために、患者のHLA(ヒト白血球抗原)型を識別する。マウントサイナイ医科大学で開発されたOpenVaxと呼ばれるデータ解析パイプラインの手法により、免疫原性ネオ抗原を特定して優先順位をつけて、それらを合成してワクチンに組み込むことができる。患者のHLAに特異的な最大10種類のネオ抗原ペプチドが、各人の個別化ワクチンに加えられたとMarron氏は語った。

手術および何らかの標準術後化学療法に続いて、患者らは個別化ワクチンを6カ月間にわたり10回投与され、免疫賦活剤Poly-ICLCが併用された。「Poly-ICLCは、合成の安定した二本鎖RNA合成ウイルス模倣体であり、複数の自然免疫受容体を活性化することができるため、腫瘍のネオ抗原に対する新たな免疫反応を誘導するのに最適な免疫賦活剤です」とBhardwaj氏は説明する。このワクチンには破傷風ヘルパーペプチドも使用されている。破傷風に対するワクチンは大半の人が接種した経験があるため、このヘルパーペプチドによって、併用投与されたネオ抗原に対する免疫反応はさらに活性化するでしょう、と同氏は語った。

合計15人の患者が試験に登録され、ワクチンの合成に成功した。患者全員が根治目的手術(固形がんの場合)または自家幹細胞移植(多発性骨髄腫の場合)を受けており、再発の可能性は統計学的に30%以上であった。ワクチンを受けなかった患者は2人(1人は疾患が進行、もう1人は別の臨床試験を選択したため)であった。PGV-001ワクチンの投与を受けた患者13人のうち、10人は固形がん、3人は多発性骨髄腫と診断されていた。患者は全員、ワクチン接種を最低7回受け、ワクチン接種を全10回受けた患者は11人であった。

平均925日間の追跡調査の結果、疾患の根拠が認められないままであった患者は4人、後に一連の治療を受けた患者は4人、死亡した患者は4人、追跡調査不能となった患者は1人であった。手術または移植を受けた時点からの無増悪生存期間中央値は618日であった。およそ3分の1の患者でグレード1の注射部位反応が報告され、ワクチンの忍容性は良好であった。疾患の痕跡が消失した患者のがん種は、骨髄腫、肺がん、乳がん、および尿路上皮がんであった。

「OpenVaxパイプラインは、安全で個別化されたがんワクチンを生成するための有望なアプローチであり、さまざまな種類の腫瘍の治療に使用できる可能性があることを今回の結果は示しています」とMarron氏は述べる。

この研究の限界は、小規模である点、また多様な臨床集団、腫瘍の病因、および術後の治療方針を考慮に入れた場合も適用可能かという点であるとBhardwaj氏は指摘している。

翻訳担当者 佐藤美奈子

監修 喜安純一(血液内科・血液病理/飯塚病院 血液内科)

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