化学療法による末梢神経障害は、オンコロジーマッサージ療法で疼痛軽減

専門家の見解
「化学療法によって誘発される末梢神経障害(CIPN)は最も苦痛で長期にわたり持続する、生活の質(QOL)への影響が大きいがん治療の副作用の一つです」と2019年Supportive Care in Oncology Symposium(がんサポーティブケア・シンポジウム)のニュースプランニングチームの一人、Joseph Rotella医師(MBA、HMDC、FAAHPM)は述べた。「サバイバーの治療後の生活の質を向上させる方法を検討する際に、マッサージ療法などの補完療法の裏付けとなるエビデンスを見つけることが非常に重要となります。本研究が提示する重要な結果は、CIPNに対するオンコロジー・マッサージ療法の役割についてさらに検証を進める将来の研究に役立つ情報となります」。

新たな研究によって、オンコロジー(がん)マッサージ療法は、発生頻度が高く治療が困難ながん治療の副作用の症状を軽減することが発見された。化学療法によって誘発される末梢神経障害(CIPN)の患者は、週3回のマッサージがスケジュールに組み込まれた集中治療を受けた後、下肢の疼痛が最長6週間にわたり軽減した。これらの知見は、カリフォルニア州サンフランシスコで開催される2019年がんサポーティブケア・シンポジウムで発表される予定である。

「CIPNは管理が困難な場合があります。本研究は、がんサバイバーの生活の質を改善するための統合的な腫瘍学の手法に基づいています」と研究著者のGabriel Lopez医師(テキサス州立大学MDアンダーソンがんセンター緩和医療・リハビリテーション医学・統合医療部統合医療センター准教授・医長)は述べた。「これらの結果から、オンコロジー・マッサージが症状の管理に役立つ新たな選択肢であることが示され、患者にとって最も有益なマッサージ療法スケジュールに関する新たな知見も得られました」。

末梢神経障害は末梢神経系、つまり、脳と脊髄を除いた、筋肉、皮膚、内臓に情報を伝達するあらゆる神経の損傷と定義される。その結果、疼痛、しびれ感、刺痛、手足の冷えが生じる。CIPNは特に化学療法薬で引き起こされ、とりわけ高用量または長期にわたって使用されたときに神経が損傷される。症状は進行性で長期間持続し、 かつ不可逆的である。

この予備研究は、各マッサージセッションの時間の長さ(30分)、合計回数(最大12回)、治療頻度(週2回対週3回)などマッサージの実施について重要な問題を検討した。下肢に症状が出ている治療群に標準化されたマッサージ療法を行ったのに加え、本研究では神経障害が認められない対照群にも治療を施した。プロトコルには、がん患者に対する施術に熟練した2人のがんマッサージセラピストが指圧、深部組織マッサージ、他のマッサージ法との比較でスウェーデン式マッサージ法を用いることが記載されていた。

本研究について
CIPNの症状はPain Quality Assessment Scale(PQAS:疼痛の質評価スケール)によって測定された。このスケールの幅は0~10で、さらに詳細に表面痛、深部痛、発作性疼痛のスケールがある。参加者は治療開始時、治療終了時(4週間対6週間、治療群により異なる)、本研究終了時(10週間後)に評価された。

本研究には、オキサリプラチン、パクリタキセル、ドセタキセルが原因で、糖尿病の既往歴など他の原因が認められない、四肢の神経障害を有する18歳以上の患者が登録された。本研究の選択基準の一例として、患者の自己報告による治療開始時の神経障害スコアは10段階評価で3以上(10は最悪の状態を表す)、また、前回の化学療法を受けてから6カ月以上経過している必要があった。

主要目的は2つのマッサージ療法の完遂率を比較することであった(週2回6週間に対し、週3回4週間)。副次的目的は、初期治療の有効性の調査などであった。

患者は2つの治療群(下肢のマッサージを週2回6週間に対し、週3回4週間)および2つの対照群(頭部/頸部/肩部のマッサージを週2回6週間に対し、週3回4週間)から成る4群のうちいずれかの群に無作為に振り分け登録された。

主な結果
最終評価には71人の患者を組み入れた。これらの患者は、最後に神経毒性を有する化学療法を受けてから、平均3年超が経過していた。

主要目的に関して、週3回マッサージを受けた患者の平均マッサージ完遂率は8.9セッション、週2回マッサージを受けた患者の平均マッサージ完遂率は9.8セッションで、統計学的有意差はなかった。

副次的目的(初期の有効性)の調査では、週2回マッサージを受けていた患者に対し、週3回マッサージを受けていた患者のPQAS疼痛スコアが統計学的および臨床的に改善されたことが報告された。持続的な改善は週3回治療群で10週間(本研究終了時まで)観察された。
・PQAS表面痛:週3回で2.3点減少したのに対し、週2回で0.6点減少(p = 0.001)。
・PQAS深部痛:週3回で2.1点減少したのに対し、週2回で0.9点減少(p = 0.008)。
・PQAS発作性疼痛:週3回で2.3点減少したのに対し、週2回で1.0点減少(p = 0.025)。

次の段階
現時点では、本試験によって治療スケジュールおよび初期の有効性についての知見が得られた。Lopez医師らのチームは、週3回のマッサージ施術スケジュールを用いた大規模有効性試験を計画している。

症状管理におけるオンコロジー・マッサージの役割を調査する臨床試験に加え、Lopez医師は、マッサージ効果の背景にある作用機序を追求するよう、研究者に呼びかけている。

本年のがんサポーティブケア・シンポジウムでは、がん患者への支持療法への取り組みに注力した約150件のアブストラクトが発表される予定である。会場において、メディア関係者はワーキング・ニュースルームの利用及び支持療法の第一人者への質疑が可能となる予定である。

アブストラクト111:化学療法によって誘発された末梢神経障害(CIPN)を治療するオンコロジー・マッサージの予備試験
Authors: Gabriel Lopez, Cathy Eng, Michael J. Overman, David Luis Ramirez, Wenli Liu, Curtiss M Beinhorn, Pamela A Sumler, Sarah Prinsloo, Minxing Chen, Yisheng Li, Eduardo Bruera, Lorenzo Cohen; University of Texas, MD Anderson Cancer Center, Houston, TX; The University of Texas MD Anderson Cancer Center, Houston, TX; The University of Texas MD Anderson Cancer Center, and SWOG, Houston, TX; MD Anderson Cancer Center, Houston, TX; University of Texas MD Anderson Cancer Center, Houston, TX

翻訳担当者 太田奈津美

監修 佐藤恭子(緩和ケア内科/川崎市井田病院)

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