放射線療法スケジュールを逸することで、がん再発のリスクが増加

米国国立がん研究所(NCI)ブログ~がん研究の動向~

新たな研究によると、がん治療において放射線治療スケジュールを逸すると、最終的に放射線治療を完遂したとしても、がん再発のリスクは上昇した。

その影響の大きさは研究者の予想より高く、そのため、放射線治療に対するノンコンプライアンスが転帰にマイナスの影響を与えうる他のリスク因子の指標になるのでは、と研究者は考えている。

本研究はInternational Journal of Radiation Oncology ・Biology・Physics誌1月30日号に掲載された。

転帰の増悪

研究では、Nitin Ohri医師およびMadhur Garg医師(ニューヨーク州アルバート・アインシュタイン医科大学所属)らが、同院で2007年から2012年の間に頭頸部がん、乳がん、肺がん、子宮頸がん、子宮体がん、直腸がんの根治を目的に外照射治療を治療の一環として施行された患者1,200人以上のデータを分析した。

予定された放射線治療の予約を2回以上逸した患者をノンコンプライアンスの患者と分類した。ノンコンプライアンスの患者(全体の22%)が逸した放射線治療の予約は平均で4回であった。予約を2回以上逸したことで放射線治療の期間は平均で7.2日延長した。すべての研究対象患者は、最終的には予定された放射線治療を完遂している。

追跡調査期間中、患者の9%にがんの再発がみられ、19%は死亡した。がんの種類など、人口統計学的および臨床的項目(がんの種類など)に合わせて補正を行ったところ、放射線療法に対してノンコンプライアンスの患者は、がんの再発リスクが上昇し、無再発生存率が低下した。

「結論は割と直観的なものです。つまり治療をサボると、その後の転帰は同じにはならないのです」と、Bhadrasain Vikram医師(NCI放射線研究プログラム臨床放射線腫瘍学部門長)は語った。「しかし、客観的かつ科学的なデータでそれを裏付けることは重要です」。

著者らは、がんの再増殖、つまり放射線治療休止後に残存したがん細胞の分裂が加速することが再発リスク上昇の原因の一部なのではと考えている。しかし本研究で取り上げた多くのがん種については、がんの再増殖が再発率と生存率のどちらにも大きな影響を与えないことが過去の研究で示されている。

その一方で、放射線治療に対するノンコンプライアンスは、未解決な精神衛生的問題、社会的支援の不足、化学療法など他の治療法に対するノンコンプライアンスなど、転帰にマイナスの影響を与えるリスク因子に対して幅広く警告する役目があるのでは、と著者は示唆している。

ノンコンプライアンスを解消するには

ノンコンプライアンス患者を調べたところ、年齢、性別、人種、社会経済的地位などといった項目が再発率や生存率に与えた独立した影響は、分析の中で見られなかった。

この研究結果をもとに、アルバート・アインシュタイン医科大学の放射線腫瘍科は新たな方針を策定したとOhri医師は説明した。「来院ごとに受診状況を調べ、患者がその週に治療を毎日受けていたかを確認し、(受けていない場合は)その場で『なぜ来なかったのですか』と聞くようにします」と同医師は語った。

その結果、放射線腫瘍科医は緩和ケア、精神衛生サービス、移動支援をはじめとする社会資源をただちに紹介することが可能である。

そうすることで、より迅速にこうした問題に対処することができ、残りの治療に対する患者のコンプライアンスが得られる、とOhri医師は続けた。

「われわれは、2つの戦線でがんと戦っているのです」とOhri医師は語った。「1つはがん治療の効果を高める努力を行い、現在あるものより効果の高い新たな治療法を見つけることです。しかし同じくらい重要なこととして、そうした進歩の賜物をすべての患者が受けられるようにしなければいけません。それが、我々がこうした研究で目指す真のゴールなのです」と同医師は話を締めくくった。

すべての治療の開始前にノンコンプライアンスを確実に予測できる因子を特定するには、さらなる研究が必要であるとVikram医師は語った。「治療を開始する前に『この方にはコンプライアンスを得るために個別の支援が必要だ』と指摘できるような何かがあれば非常に役立つことでしょう」。

翻訳担当者  渋谷武道

監修 河村光栄(放射線腫瘍学・画像応用治療学/京都大学大学院医学研究科)

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原文掲載日 

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