OncoLog2013年3月号◆呼吸器学の進歩により、癌の診断と治療が容易に

MDアンダーソン OncoLog 2013年3月号(Volume 58 / Number 3)

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呼吸器学の進歩により、癌の診断と治療が容易に

肺は、癌の診断と治療において特有の課題がある。—例えば、肺癌の正確な診断につながる組織を見つけ採取するには気管支の迷路を通らなければならない。肺の合併症がある場合には、癌の治療を進めるかどうかを決定しなければならない。

これらの理由から、呼吸器科医は癌患者のケアにおいて重要な役割を果たす。「肺癌患者が安心して治療を受けることができるように、私たちは、肺癌の診断、癌と癌治療と関連する肺の合併症の診断と緩和、ならびに呼吸状態の最適化を支援します」とRodolfo Morice医師(テキサス州立大学MDアンダーソンがんセンター呼吸器学部門教授兼介入呼吸器内科科長)は述べた。

肺癌が疑われると、正確な診断法と合併症に対する肺の感受性を適確に考慮することが要求される。そして肺癌が見つかると、理想では、肺癌治療開始前に胸水や肺炎などの疾患を治療して肺機能を最適化しなければならない。高感度で低侵襲の気管支鏡検査と最新の肺疾患管理が、効果的な癌治療の確保に有用な可能性がある。

気管支鏡検査における診断率の増加

X線撮影などの画像診断により、肺癌の最初の兆候が示されることが多い。しかし、疑わしいX線写真所見がある組織を直接診ることでのみ、癌であるか否かを診断することができる。肺病巣と縦隔リンパ節の検体採取方法は、精度、到達範囲、および侵襲性が様々である。縦隔鏡検査などの侵襲的診断法と気管支鏡検査などの低侵襲的診断法のどちらを選択するかは、標的である癌の位置、標的の大きさと見やすさ、ならびに、これらの診断法により起こり得る合併症に患者が耐えられるかによって決まる。

かつて、低侵襲生検を選択することはしばしば精度を犠牲にすることを意味した。しかし、気管支腔内超音波断層法(EBUS)、「ナビゲーション」気管支鏡検査、および自家蛍光気管支鏡検査の使用により、患者に外科生検や経胸郭的針生検を実施して、気胸(経胸郭的針生検を受けた患者の30%以下で発症する)などのリスクを増加させることなく、より高精度で肺癌が疑われる部位を見つけることができる。

EBUS

通常の白色光気管支鏡検査は、気道内部だけを照らし、気管支内の目印に対する位置に基づいて、リンパ節を採取する。この検査の診断率は30%~50%程度である。超音波診断プローブを気管支鏡の先端に取り付けることで、気管支壁を越えて5 cmの範囲までは、気管と主気管支付近のリンパ節が描出され、診断率が約95%に増加する。EBUSは気道を通って、上部縦隔リンパ節、気管傍リンパ節、気管分岐部リンパ節、および肺門リンパ節を採取することができる。肺門リンパ節に近づくことができない縦隔鏡検査とは異なり、さらに気管支周囲の組織に入り込むことができる。

超音波診断をすでに比較的安全な手順である気管支鏡検査に組み込むことにより、リスクはほとんど無い。EBUSは通常の気管支鏡検査と同様に、合併症と禁忌がまれである。

ナビゲーション気管支鏡検査

ナビゲーション気管支鏡検査は、直近で得られたコンピュータ断層撮影(CT)のデータに基づいて、気道の3Dレンダリングの範囲内で、気管支鏡の位置をリアルタイムで追跡し、そのマップを作製する。採取カテーテルの先端には電磁石位置センサーが取り付けられる。この位置センサーは患者の肺を取り囲む磁界を乱し、それ故、この磁界内でこの位置センサーを特定することができる。または、自分の位置を示す電気信号を発信するセンサーが取り付けられる。計画段階の間に選択される重要な箇所に、このようなセンサーを送り込む。次に、実際の気道内でのこれらの箇所のそれぞれを、デジタル・レンダリングで対応する箇所にマップ化する。そして、リアルタイム画像とデジタル・レンダリングを一まとめにする。このようにして、担当医は、気道の即時白色光気管支鏡検査だけでなく、CT画像と統合された精密なマップも使用することで、気管支を見ることができる。

ナビゲーション気管支鏡検査は、EBUSと比較して、肺のさらに奥の方、すなわち気管と主気管支だけでなく、幅が2 mmの第5次気管支などの末梢気管支にも入り込むことができる。ナビゲーション気管支鏡検査により、末梢肺病巣の検体を容易に採取することができ、かつ、縦隔リンパ節と肺門リンパ節の採取におけるEBUSの役割を補完する。これにより、1回の介入で肺癌の全面的な精密診断とリンパ節分類が可能になる。

自家蛍光気管支鏡検査

自家蛍光気管支鏡検査は、白色光と共に青色光を使用して、癌の前兆となる気道の変化を検出する。またこの検査は、非侵襲的な画像検査、または、白色光気管支鏡検査で診断ができるようになる前の前癌病変や粘膜内癌の生検を進めることができる。

気管支鏡の光は自家蛍光を発するよう、フィルターを通して約400~450 nmの波長(青色光)にする。この青色光により、気道内の正常の化学物質は主に緑色光を発するが、前癌組織は主に赤色光を発する。自家蛍光気管支鏡検査は、造影剤を必要とする他の蛍光検査と異なり、光だけで済む。自家蛍光気管支鏡検査は、高リスク気道腫瘍患者や切除後の切除断端陽性に対する放射線治療を受けた肺癌患者に最も有用かもしれない。

通常の気管支鏡検査に青色光を組み込むことで、気管支鏡検査の感度が、特に高悪性度病変の発見で高くなるが、偽陽性率も増加することがある。自家蛍光により、異常に見えるが悪性ではない領域が多くあきらかになる可能性があるため、悪性組織が存在する可能性が最も高い位置を選択するために、別の検査法である狭帯域光観察が、自家蛍光気管支鏡検査と併用して頻繁に使用される。ヘモグロビンにより吸収される特定の波長の青色光と緑色光により、隠れた血管が明らかになり、まとまりがない入り組んだ血管系から、癌が示唆される。これにより、異常自己蛍光だけでなく疑わしい血管系がある病巣だけを生検することができる。

癌に付随する肺疾患の管理

以前受けた治療による副作用、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、胸水、および肺炎などの肺に影響を及ぼす疾患により、癌治療が制限され、生活の質(QOL)が低下する可能性がある。患者が癌治療を開始できる、または、継続できるように、これらの併存疾患を治療し、呼吸機能を改善させる必要があることが多い。George Eapen医師は(呼吸器学部門准教授)はこう述べた。「患者が気分をよくして癌治療に入り、最高の転帰が得られるよう、私たちは手助けをします」。

胸水、特に胸腔穿刺後に再発する胸水は、癌治療の準備を常に妨げる可能性がある。再発性胸水の有効な管理法は、留置カテーテル(皮下に穴を開けて、浸出部位内に挿入する)である。留置カテーテルにより、胸膜間の空間の水分が除去され、癒着形成が生じて空間が塞がれ、最終的には、体液の再貯留を防ぐ。かつて、胸水がある患者は入院し、硬化剤による治療や、胸腔穿刺を繰り返し受けた。しかし、現在では、自宅で胸水を排出することができ、効果的に症状を消失させることができる。患者が自分の胸水を排出できることで、患者とその家族は患者のケアに関わっているという意識も大きく持つ。「留置カテーテルにより、患者は自分の体の管理を回復することができます。力がついたという意識は、心の健康の維持において、非常に重要です」と、Eapen氏は述べた。

高頻度で癌と併存し、治療を妨げることがあるもう1つの肺の併存疾患は、肺炎(肺癌患者や白血病患者における死因の上位の1つ)である。肺炎が疑われると、診断と治療に関する問題がいくつか生じる。具体的には、化学療法の副作用などによる炎症と病原体が引き起こす疾患の鑑別、病原体がウイルス、細菌、または真菌であるか否かの推定、これらのうち実際に肺炎を引き起こしている病原体(通常は非癌患者に影響を及ぼさない病原体であることが多い)の特定、ならびに、癌治療を妨げることがある副作用を引き起こさない有効な治療の選択である。

肺炎の原因となる病原体を特定するために研究されている実験的方法は、患者由来肺細胞(気管支肺胞洗浄を使用して採取されることが多い)のマイクロアレイ法を使用する全ゲノム解析の実施である。前臨床試験では、他の検査ができない場合でも、肺炎の原因となっている病原体を特定することができる特定の宿主遺伝子発現応答を引き起こすことが示されている。本方法や同様の方法が将来は肺炎診断に臨床上有用なことが証明されるよう期待される。

呼吸器科医は、特定の併存疾患の治療に加えて、患者の心肺機能を改善することで、患者が癌治療を受ける手助けをする。入念に調整されたリハビリテーション(例:特定のニーズに合わせた運動プログラム)を介して、一般状態を改善することができる患者もいる。これらのプログラムの目標は、さらなる治療計画の有無に関わらず、患者の心肺機能を改善して治療に耐えられる力をつけ、生活の質(QOL)を改善することである。

肺機能が望ましいとは言えない患者が難しい治療を受け入れることができるかどうかを確定するのに、より良質な情報しかないこともある。肺切除や肺葉切除などの外科手術に先立つ評価はここ数年でさらに包括的になり、人体の一部の検査だけでなく、患者が耐えられるかどうかが検討される。肺機能、心機能、および筋機能を個々に評価することはできるが、運動負荷試験などのより広範囲にわたる評価から、これらの器官の協調した機能が示され、術後機能をより正確に予測することができる。そして、これらのより正確な予測により、より多くの患者が治療を受け入れるようになったことが明らかになった。「肺機能だけに基づいて、従来は外科手術や他の治療法に不適格と判断されたであろう患者のうち、このより包括的な評価によると、実際は3分の1は適格です」とMorice氏は述べた。

癌の根治治療に耐えるには心肺機能が不十分な患者でもより快適にさせることができる。また、喀血や呼吸困難の患者の苦痛をすぐに緩和することができる。気管支鏡を介して実施される介入治療により、気道から癌を切除し、出血を焼灼し、そして、ステントを設置して気道を拡張することができる。Eapen氏が述べたように、彼が提供する最も重要な医療の1つは単に、気道が閉塞したり、肺が圧迫した患者が、再び十分に呼吸ができるよう支援することである。「私たちは必ずしも治癒させることはできません。しかし、呼吸困難に関する患者の不安を和らげ、苦痛を取り除くことはできます」。

呼吸器学では継続的に肺疾患の生検を手助けし、肺にかかわる疾患を管理し、患者のQOLを改善させるために、ツールを新しく開発し、改良してきた。呼吸器科医と癌専門医は、医療の社会の中で対話を継続して、専門知識と展望を共有することができるという期待をMorice氏は述べた。

【画像キャプション訳】
[上段] 右主気管支を塞いでいる癌(上)、と、癌切除後の右主気管支(下)を示す気管支鏡画像。
[中段] 白色光を使用する気管支鏡画像(上)、自己蛍光を使用する気管支鏡画像(中)、および狭帯域光観察画像(下)により示される、下部気管内の扁平上皮癌(矢印)。
[下段] 気管支腔内超音波断層法により示される、大動脈下リンパ節(点線部)。

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翻訳担当者 渡邊 岳

監修 後藤 悌 (呼吸器内科/東京大学大学院医学系研究科)

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