一部の病態または社会的要因のあるがん患者ではコロナワクチン接種率は低い

米国臨床腫瘍学会(ASCO)

がん治療中の新型コロナ患者1,100人以上を対象とした研究により、併存疾患、転移性固形腫瘍または非B細胞性血液悪性腫瘍のある患者、および学歴が低く失業率の高い地域に住む患者は新型コロナワクチンの接種率が低いことが明らかになった。ASCO財団(ASCO Foundation)のConquer Cancer®(がん撲滅基金)により資金援助を受けた本研究は3月15日付のCancer誌に掲載された。

 「今回の研究結果は、ワクチン接種率が低く、がんの診断・治療により感染や重症化リスクが高いがん患者における新型コロナワクチン接種率アップの取り組みを実施することの重要性を明確に示しています」とASCO最高医学責任者のJulie R. Gralow医師(FACP:米国内科学会フェロー、FASCO:ASCOフェロー)は語る。「今回の研究で得られた結果は、リスクを抱える集団のワクチン接種格差に対処するための行動喚起となり、がんと新型コロナ患者の転帰が改善されます」。

研究について
本研究は、新型コロナウイルスに感染したがん治療中の患者におけるワクチン接種パターンと要因に関する初めての大規模研究である。「がん登録におけるCOVID-19に関するASCO調査(ASCO Survey on COVID-19 in Oncology Registry)」、すなわちASCO レジストリを利用して、56カ所の診療施設より入手した、ワクチンが利用可能になる前に新型コロナが発症し、ASCOレジストリに接種情報のあるがん治療中の患者1,155人のデータを分析した。

主な知見
研究対象の集団における新型コロナ感染者の年齢中央値は64歳(範囲19〜95歳)であり、患者の41%にがん以外の併存疾患(糖尿病、肺疾患、腎疾患、冠動脈疾患)が1つ以上あった。併存疾患が1つ以上の患者は、併存疾患のない患者と比較して、ワクチン接種率が約20%低い傾向があった。

米国の一般集団におけるワクチン接種率(CDC:米国疾病対策センターより入手)を比較すると、本研究の患者は、2021年6月1日と8月1日の時点で新型コロナワクチンを接種している割合が全体的に高い。2021年4月中旬までに研究対象集団の50%がワクチンを少なくとも1回接種しており、これはがん患者のワクチン接種が可能になってから約100日後のことである。ワクチンを接種した時期について人種や民族による群間の有意差はなく、2021年4月1日までの患者の接種率は、ヒスパニック系が42%、アジア系が39%、黒人が41%、白人が47%である。本研究の患者1,155人の接種率は、ヒスパニック系が9%(109人)、アジア系が2%(24人)、黒人が12%(138人)、白人が71%(818人)、その他または不明が6%(65人)である。

がんの種類別での接種率は、非転移性固形腫瘍が40%、転移性固形腫瘍が34%、B細胞性悪性腫瘍が20%、非B細胞性血液悪性腫瘍が6%であった。転移性固形腫瘍患者のワクチン接種率は、非転移性腫瘍患者よりも約15%低い。非B細胞性血液悪性腫瘍患者のワクチン接種率は、非転移性腫瘍患者よりも約30%低い。化学療法を受けている患者の効果的なワクチン接種の最適なタイミングについてはまだかなりの議論があり、その結果、化学療法を受けている患者のワクチン接種率に影響を与えた可能性があると著者らは指摘する。

2021年の初期に、高齢(50歳以上)のがん患者は若年患者よりも高い割合でワクチンを接種していることが本研究により明らかになった。2021年5月以降、年齢による接種率の差異は減少した。

失業率が高い地域(失業率1.6%以上)に居住する患者は、失業率が低い地域に居住する患者と比較して、接種率が約20%低いことが本研究で明らかになった。教育水準が最も低い地域(高卒者が41%以上)に居住する患者は、高卒者が少ない地域に居住する患者と比較して接種率が約30%低い。

「接種をしたがん患者は、積極的に治療を受け、医療チームと定期的に連絡を取り合っていた可能性が高いです。このような格差は、がん治療チームが患者(特にリスクの高い患者)に対し新型コロナウイルスとワクチン接種の重要性について教育している状況を浮き彫りにしています」とGralow医師は語る。

次のステップ
今回の研究で明らかになった格差の理由をさらに追求し、より狙いを定めた対応方法を特定するため、さらなる研究が必要であると著者らは指摘する。

COVID-19データリソース
ASCOレジストリは、腫瘍学界ががん患者の新型コロナのパターン、症状、重症度、治療の遅れや転機についての知識を深めるために2020年4月に運用が開始された。ASCOレジストリは横断データを収集したもので、現在、米国の約70カ所の診療機関の患者6,000人以上が登録されている。

COVID-19 レジストリ―のデータは、権限を与えられた個人および組織が研究利用を目的にASCOのデータ・ライブラリーより利用が可能であり、レジストリー・ダッシュボードにて双方向に探索することが可能である。取り残された集団や地域社会を含む、がん患者のニーズに対応するプロジェクトを優先している。ASCOレジストリは、COVID Impacts Cancer基金(COVID Impacts Cancer Fund)を通じてASCO財団のConquer Cancer®が支援している。

COVID-19公衆衛生緊急事態の終了について
1月にバイデン政権は、2023年5月11日にCOVID-19国家緊急事態宣言と公衆衛生緊急事態宣言を終了する方針を発表した。ASCOは、現在2023年5月11日から2024年12月31日の間に期限を迎える公衆衛生緊急事態および柔軟性措置の解消に関連する主要な政策について医療提供者が最新情報を入手することのできる資源を提供する。

  • 監訳 太田真弓(精神科・児童精神科/クリニックおおた 院長
  • 翻訳担当者 松長愛美
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  • 原文掲載日 2023年3月15日

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