多種の分子標的薬と遺伝子異常を組み合わせるMATCH試験

原文掲載日 :2015年6月1日

高精度医療(Precision Medicine:プレシジョン・メディシン)を用いた臨床試験として全米で実施されるNCI-MATCH試験(EAY131)について、7月から患者登録を開始すると、ASCO(米国臨床腫瘍学会)年次総会(シカゴ)で試験研究者により発表された。本試験では、特定の遺伝子変異を有する腫瘍の患者を対象に、分子標的薬が癌種に関わらず有効であるかどうかを判定する。

NCI-MATCH試験では、特定の遺伝子変異を標的とする20種以上の治験薬または治験薬の組み合わせを用いて、腫瘍内の分子異常を標的とする治療を行うこの試験にどのがん種の患者も組み込めるようにした。本研究は国立衛生研究所の一部門である国立がん研究所(NCI)とNCIが出資するNational Clinical Trials Network(NCTN)の一部門であるECOG-ACRIN Cancer Research Groupによる協同研究である。また、ECOG-ACRINが主導している。

NCI-MATCH試験は、それぞれの治療薬を検証する多くの小規模な付随試験(治療群)で構成される第2相試験である。およそ10の小治療群から始め、数カ月以内に20もしくはそれ以上に達する予定である。最初の10の治療群の試験データは、7月に開始される患者登録の事前審査に向けてNCTNの2,400の参加施設に送られる。患者の登録を開始する正確な日程についてはASCO総会後すぐに決定される予定である。追加の付随試験を開発中で、試験の進捗に応じて徐々に増やしていく。

NCI-MATCH試験への登録には2つのステップがある。まず、患者を登録し、腫瘍サンプルを採取してスクリーニングする。次に、腫瘍サンプルを用いたDNA解析を行い、腫瘍増殖を促進していると考えられる遺伝子異常で、かつ研究中の幅広い分子標的薬のターゲットとなりうるものをみつける。特定の付随試験の治療が役立つような分子異常がみつかれば、NCI-MATCH試験の患者として受け入れられ、さらに、その治療群においての適格基準に合致しているかどうかを決定することにつながる。いったん登録されると、患者は腫瘍が縮小または安定している限りは標的薬剤を用いて治療される。全体としてみれば、試験の研究者は多岐にわたる治療群に約1000人の患者を登録するためにMCI-MATCH試験全体を通して約3000人の患者をスクリーニングすることになる。

進行した固形腫瘍またはリンパ腫を有し、標準的な全身治療を一つ以上受けている、または標準的な治療法のない腫瘍を有する18歳以上の患者が対象となる。本試験における各治療群は35人までの患者を登録する。希少がんの患者も対象とし、試験デザインによると、登録された1000人の患者の4分の1以上が希少がん患者である。

「NCI-MATCH試験は独自の画期的な研究です」NCIのディレクター代理であるDoug Lowy医学博士は述べた。「これは高精度の医療が持つ考え方をすべて包含する腫瘍学における最初の研究です。この規模でのがんの臨床試験は他に例がなく、特定の遺伝子異常を有するがん患者に分子標的治療をする本当の意義の裏づけとなることを目指しています。がん治療を大きく変える可能性を秘めているのです」。

腫瘍における遺伝子突然変異の多くは稀で特有のものであるため、個々の変異に対するスクリーニングは費用対効果が低く、臨床試験において効率的ではない。一方でNCI-MATCH試験は、一度に多くの分子異常をスクリーニングする高度な遺伝子シークエンシングを使用している。ほとんどの遺伝子変異はがん患者の10%以下にしか起こらないので、多数の患者の腫瘍がスクリーニングされる必要があるだろう。多くの患者は治療可能な遺伝子の変異を1つまたは多くても2つ程度の保有と推定される。単独臨床試験においてはこれらの遺伝子異常に複数の治療を受けることが可能なので、いくつかの異なる治験薬単剤または併用療法を同時に評価することができる。

「本試験では、がん生物学や治療の基本的な側面を明確にすることに加えて、最先端の分子解析を行い、大小問わずがん診療において治療される患者に標的療法の投薬計画の大きな見本を示すこととなるだろう」と、ボストンにあるマサチューセッツ総合病院の腫瘍内科医であり、同じくボストンにあるハーバード大学医学部で准教授を務めるECOG-ACRIN 研究の代表であるKeith T. Flaherty医学博士は話した。

NCI-MATCH試験では、患者の腫瘍内の遺伝子変異を特定するための一本鎖DNAシークエンシング試験を行う。メリーランド州のフレデリックにあるNCI Frederick National Laboratory for Cancer Research内のNCI Molecular Characterization Laboratoryは、本試験において薬剤による標的となり得る143個のがん関連遺伝子をみつけるこの検査を開発した。確実な品 質管理を行うために、スクリーニングされた3000人の患者から得た生検標本はすべて、1カ所(ヒューストンにあるテキサス大学MDアンダーソンがんセンター内のECOG-ACRIN Central Biorepository and Pathology Facility)に集められ処理される。DNAシークエンシング解析は標準化された方法を使い4施設のうちの1カ所で行われる。

「検体収集、発送、一元化された組織処理に独自のキットを使用することで高品質な解析を確実に行うことができる」と、MDアンダーソンがんセンターにて病理学と医学的検査の長でありECOG-ACRIN 研究所をリードするStanley R. Hamilton医学博士は話した。「分子診断学の4研究室の連携により、本試験においてスクリーニング可能な患者の数を大幅に増やすことができる。4カ所での標本のパイロット試験において、分子の再現性において顕著な結果が示された。これはもう一つの重要な側面であって、こういった広範囲でスケールの大きい試験における品質保証となる」。

NCI-MATCH試験で使用されているがんの治療薬は、米国食品医薬品局(FDA)が承認した薬剤及び多くの製薬会社によって提供された治験薬である。本試験における治療群のほとんどは、商業的に入手可能であるか、まだ臨床 試験段階にある単剤によるものである。しかしながら、治療群の中には特定の遺伝子変異に対して作用し十分に安全性を示すデータとエビデンスのある薬剤を併用している場合もある。

NCI-MATCH試験は薬剤が特定の分子異常に対して有効であるかを判断するために設計されているため、FDAにすでに承認されている薬剤で治療を行うことができる腫瘍のある患者はNCI-MATCH試験にて同じ薬剤を使用することはできない。すでに承認された治療を受けていて新たな薬剤により標的とされ得る異なる分子異常がみつかった場合は、NCI-MATCH試験で他の薬剤の使用を検討される。

NCI-MATCH試験では2つの主な臨床的エンドポイントがある。主要エンドポイントは全奏効率(本試験において一定期間にわたる所定量によって規定される、腫瘍が縮小した患者の割合)である。副次的エンドポイントは6カ月無増悪生存率(患者の病状が安定した状態を保っているかの測定)である。

「われわれの狙いでは、分子的に定義されたある集団において、5%以下の奏効率では有望とは言えず、奏効率が16%から25%であれば有望であるといえる」とNCIのがん診断プログラムの副所長でNCI研究の協同代表であるBarbara A. Conley医学博士は述べた。「NCI-MATCH試験において治療を始めた後、6カ月の無増悪生存が35%であればさらに治療を続けるべきことを示しているが、15%では有望であるとはいえないだろう」。

NCI-MATCH試験への登録はNCTNのサイトを通じて全米で可能である。さらに、本試験はNCI Community Oncology Research Programに登録する国内のサイトを通じても登録できる。試験に参加する約2,400のサイトの全ては、施設内倫理委員会としてNCI Central Institutional Review Boardを採用している。サイトではNCI Cancer Trials Support UnitによるプロトコルID EAY131で本試験にアクセスすることができる。

本付随試験をリードする主要な研究者はNCTNと参加ネットワークグループ(ECOG-ACRIN, the Alliance for Clinical Trials in Oncology、 NRG Oncology 、SWOG)に所属する。研究者は全員が分子研究のエキスパートであり、多くは関連する上位研究者であり、経験豊かな幹部研究者の指導を受けている。患者アドボケートが試験の開発に関わっており、本研究のプロトコル及び他の面を監督するのをサポートしている。

翻訳担当者 池上紀子

監修 東光久(腫瘍内科、緩和ケア/福島県立医科大学白河総合診療アカデミー)

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