臨床試験における全生存期間(OS)解析の考察:米国AACR、ASA、FDAによる概説

ベネフィット・リスク評価改善のためのベストプラクティス、新たな統計的手法、提言をClinical Cancer Research誌に掲載

米国癌学会(AACR)の学術誌Clinical Cancer Research誌は、本日、現代の治療法という状況での全生存期間(OS)の収集と解析を強化するための臨床試験デザインに関する考察を概説する論文を発表した。

全生存期間(OS)は、治療後に患者が生存している期間を示すもので、薬剤の有効性と安全性の重要な指標であり、長い間、腫瘍学臨床試験のゴールドスタンダードと考えられてきた。

この論文は、研究者、臨床医、統計学者、業界代表者、患者アドボケート(支援・擁護者)、そして、米国癌学会(AACR)、米国統計学会(ASA)、米国食品医薬品局(FDA)に所属する専門家によって執筆されたもので、2023年7月に開催されたFDA-AACR-ASA Workshop on Overall Survival in Oncology Clinical Trials(がん臨床試験におけるOSに関するFDA-AACR-ASAワークショップ)での議論を基礎としている。ワークショップでは、医薬品開発に関わる人々が、従来のOS解析の障壁を克服する方法を探った。

「OSは、過去においては新薬承認のための優れたエンドポイント(評価項目)でしたが、ここ数十年、その有用性について課題が生じてきています」と、本論文上級著者でワークショップ共同議長であるKenneth C. Anderson医師(FAACR)は、AACRの公式ブログCancer Research Catalyst(AACRの正式ブログ)のインタビューで述べている。「多くのがんの治療が目覚ましく進歩している状況では、単純に測定に時間がかかりすぎるのです」。

無増悪生存期間のような早期エンドポイントは、薬剤の有効性に関する知見を早期に提供できるが、これらが必ずしもOSと一致するとは限らないとAnderson医師は指摘する。「試験治療を受けた患者は対照群の患者よりも無増悪生存期間が長かったが、その後の大規模試験におけるOSは両群間で差がなかったという例があります」とAnderson医師は述べた。試験治療で無増悪生存期間が有望な結果であったにもかかわらず、OSが悪くなったという例もある。

2023年7月に開催されたワークショップの出席者は、この問題に加え、不均等なランダム化、ある試験群から別の試験群へのクロスオーバー、その後の治療法、サブグループ考察、副作用がOSの解釈にどのような影響を与えるかなどについて議論した。

「急速なペースでの新薬開発と承認を継続するためには、OSをめぐる疑問点に対処しなければなりません」とAnderson医師は述べた。

Clinical Cancer Research誌の論文は、ワークショップ出席者とセッションのワーキンググループによる議論を集約したもので、以下の内容が含まれる。

・OSを主要評価項目とすべき場合の考慮事項を含む、臨床試験デザインと計画におけるベストプラクティス

・有効性評価におけるOSの役割に関わらず、登録意図のあるすべての臨床試験は、患者安全性に情報を提供するためにOSを収集・評価するようにデザインすることの推奨

・OSが有効性の主要評価項目でない場合、特定の安全性懸念を排除するためにOSおよび他の安全性評価項目を含む有害性指標を事前に規定することの推奨

・クロスオーバー要素を含む試験はOSの解析を複雑にする可能性があるが、場合によっては適切であるとの認識

・不均等なランダム化はOS解析の統計学的検出力を低下させる可能性があるが、状況によっては使用可能であるとの認識

・疾患設定、患者集団、見込み生存期間などの要因に基づき、適切な追跡期間を計画することの重要性

・無益性および安全性解析のために、独立したデータモニタリング委員会がOSデータにアクセスできることの推奨

・OSの事前規定解析および事後解析、サブグループの計画および解析に関する考慮事項

・早期または限定的なOSの結果を、医薬品の審査・承認におけるベネフィット・リスク評価に組み入れることに関する考慮事項と規制上の意味合い。

「腫瘍学臨床試験において、OSは有効性のエンドポイントとして注目されることが多いが、安全性のエンドポイントとしても重要です。無増悪生存期間や全奏効率などの早期エンドポイントに依存する場合、安全性エンドポイントとして事前に定めたOSの統計解析は、製品のベネフィット・リスクプロファイルに関して貴重な情報を提供します」と、FDAの Oncology Center of Excellenceのエンドポイント開発担当アソシエイトディレクターであるNicole Gormley医師は述べた。「安全性指標としてのOSの確固たる評価は、FDAが承認をサポートするために早期エンドポイントを使用する上で重要です」。

「論文やワークショップを通して紹介された重要な取組みは、分野横断的な協力の成功例を示している」と Ruixiao Lu博士(FASA)は述べる。本論文共著者でワークショップ共同議長であるLu氏は、ASAのPartnership for Clinical Research and Statistics(PCRS:臨床研究および統計のためのパートナーシップ)の議長を務め、ASAの前書記・理事である。「これらの努力は、最終的にがん研究の質を向上させ、より良い患者ケアにつながるでしょう」。

「科学的卓越性の促進と、公衆衛生の転帰向上のために献身してくれた関係者全員に心から感謝します」と、ASAエグゼクティブ・ディレクターRon Wasserstein博士は述べた。「私たちは、腫瘍学をはじめとする分野におけるイノベーションを推進するための今後の話し合いを楽しみにしています」。

  • 監修 石井一夫(計算機統計学/公立諏訪東京理科大学工学部情報応用工学科)
  • 記事担当者 山田登志子
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  • 原文掲載日 2024/07/22

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