ミトコンドリアシャペロンは抗癌剤開発の新たな標的となる可能性

NCIニュースノート

米国国立癌研究所(NCI)の研究者らは、ミトコンドリアシャペロンタンパク質であるTRAP1が間接的に腫瘍抑制因子として作用し、また抗癌剤開発の新たな標的となる可能性があることを見出した。TRAP1などのシャペロンタンパク質は、他のタンパク質がストレスに適応するのを助けるが、他の機能も持つことがわかってきている。たとえばこの場合は腫瘍発生に対する影響である。一部の癌ではTRAP1を多く発現するが、膀胱癌や腎癌ではほとんど発現しないことが知られている。この研究の主要目標は、癌の発生に関連するものではなく、細胞内でミトコンドリア活性を制御する際にTRAP1が果たす役割を明らかにすることであった。ミトコンドリアの主な役割は、細胞内でのエネルギー変換である。NCI泌尿器腫瘍科のLen Neckers博士が率いるこの研究は、2013年4月1日の週の全米科学アカデミー会報誌(PNAS)オンライン版に掲載されている。

この研究の一環として、Neckersらは、TRAP1の発現がみられないヒト細胞株を樹立した。その後、この細胞株および実験用マウスの細胞を用いて、ミトコンドリアの代謝を研究した。彼らは、TRAP1がミトコンドリアの呼吸と解糖のバランスを制御していることを明らかにしたが、それは細胞内の要素の分解を助け、エネルギーを産生するプロセスである。TRAP1の過剰発現は直接的にミトコンドリアの呼吸を抑制し、間接的に解糖を増加させる一方、TRAP1発現の減少には反対の作用があることがわかった。最終的には、TRAP1の持つミトコンドリア代謝を調節する能力は、細胞がエネルギーを産生する方法と核酸・タンパク質・脂質の合成の両方に影響することがわかった。研究者らは、TRAP1が減少している細胞は過度に活動的で、TRAP1過剰発現の認められる同じ細胞よりもずっと侵襲性が高いことに気づいた。この発見の結果、TRAP1などのミトコンドリアシャペロンを薬理学的標的とすることは、細胞がエネルギーと細胞構成要素をつくる際に栄養素を利用する方法を変えるための新たな戦略になると研究者らは考えている。さらに、栄養代謝とエネルギー産生に及ぼすTRAP1の影響の結果として、TRAP1は癌転移を制御するという予期されていなかったが重要な役割も果たしている可能性があるようだ。

翻訳担当者 鈴木久美子

監修 北丸綾子(分子生物学/理学博士)

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