心理的因子と社会的支援が、がん性疼痛に影響する

専門家の見解
「医師は患者の痛みを軽減するよう修練を積み、熱心に取り組んでいますが心理的健康の評価は見過ごしがちです」2019年がんサポーティブケアシンポジウムのニュースプランニングチームメンバーであるMonica S. Krishnan医師は述べた。「本研究では、精神の健康が身体的健康や症状と直接関係していることがわかり、患者の健康を総合的に診察する大切さが強調されています」。

レヴィンがん研究所の新たな研究により、不安や抑うつのレベルが高いと報告したがん患者は、疾患に関連する、より激しい痛みを認めていることがわかった。さらに、質の高い社会的支援を受けた患者は、痛みのレベルが低いことを報告した。これらの知見は、間もなくカリフォルニア州サンフランシスコで開催される2019年がんサポーティブケア・シンポジウムで発表される。

研究について
がん専門医との最初の面談で、ステージ1~4のがん患者およそ12000人が、タブレットを用いて心理的苦痛、一般的ながんの症状、まだ対処されていないニーズについての一連の質問の答えを入力した。統計学的モデルは、自己申告の不安、抑うつ、社会的支援から当時痛みの予測指標とみなされていた。 

「私の知る限りでは、この研究は、がんの痛みに関するさまざまな指標を全て示した、最も大規模なものです」レヴィンがん研究所心理学者であり筆頭著者の Sarah Kathryn Galloway博士は述べた。「この研究では、がんによる痛みに対処する時、心理的症状を早期に評価する必要性を強調しています。これは定期的に評価されておらず、評価するべきものなのです。さらに痛みや疾患に関する家族、対人関係、コミュニティの重要性も強調しています」。

主な知見
著者らは、人種、低所得、腫瘍の部位、進行がんなどの患者の特性が痛みの強度を予測することに気づいた。加えて不安、抑うつ、社会的支援は、痛みの強度に影響する重要な因子であり、これらの関係性は患者の特性を考慮した後にも残っていた。興味深いことに、診断から1年の苦痛スクリーニングを完了した患者では、痛みに対する不安と抑うつの影響が、社会的支援をどの程度受けられたかという感じ方の程度により異なっていた。

痛みが、がん、がんの治療、あるいはその他の何らかに起因するものであるのかを確認する方法はないが、患者が心理的健康を守るために実行できる具体的な行動により痛みを軽減できる可能性がある。著者らは、抑うつ気分、心配、社会的支援の問題点などを医師と話し合うよう、患者に働きかけた。認知行動療法、マインドフルネス、アクセプタンス&コミットメント・セラピーのような介入から学んだ特有のツールは、心理的苦痛や痛みの軽減、生活の質の改善に役立つ可能性がある。

「不安、抑うつ、社会的支援は、患者が感じる痛みに大きな影響を与える可能性がある、修正可能な因子です」Galloway医師は述べた。「研究結果で、がん関連の痛みに対し、学問分野の垣根を超えた、薬剤および非薬物学的な多様な介入の必要性が明らかになりました」。

次のステップ
著者らが集めたフォローアップデータを基に、今後の分析では、社会的支援による影響が、診断、急性期治療、がん治療後にわたり気分、不安、痛みにどのように異なる影響を与えるかを調査する予定である。

今年のがんサポーティブケア・シンポジウムには、がん患者の支持的ケアを改善する取り組みに焦点をあてた、およそ150のアブストラクトが含まれている。レポーター対象のオンサイトにはワーキングニュースルームがあり、支持的ケアの主要な専門家にアクセスできる。

メディア向け情報はこちら:https://www.asco.org/about-asco/press-center/media-resources-meetings/supportive-care-oncology-symposium-media-resources

アブストラクト76:大規模な代表的がん集団の不安、抑うつ、痛み、および社会的支援

著者:Sarah Kathryn Galloway, Patrick Meadors, Danielle Boselli, Declan Walsh; Levine Cancer Institute, Charlotte, NC; Levine Cancer

背景:痛みはがんの最も一般的な症状の一つである。痛みのある人々は、不安や抑うつという形で心理的苦痛を経験することが多い。社会的支援は、がんに対処するために患者が利用する重要なリソースである。目的は次のようなものである。(1)がんの痛みに影響を及ぼす臨床人口動態的因子を確認する(2)不安、抑うつ、がんの痛みの関係の調停役としての社会的支援を検討する。

方法:参加者(N=11815)には大規模な学術混在性の多施設コミュニティベースがん研究所で、日常で診療で行うタブレット拠点の心理社会的苦痛スクリーニングを完了した、ステージ1~4のがん患者を対象とした(2017年1月~2019年1月)。参加者は、キャンサーレジストリーと一致しており (N = 7,333)、 臨床人口動態的因子はなげなわ回帰モデルに組み込まれた。モデルは自己申告の不安、うつ、社会的支援から、痛みの予測因子を特定した。解析では、痛みに対する不安や抑うつの影響が、社会的支援のレベルにより異なるかを分析した。

結果:年齢中央値は59歳(範囲18歳~101歳)、61%が女性、77%が白人だった。腫瘍部位(消化管、婦人科系、頭部/頸部)、進行がん、黒人、低所得者層は独自に激しい痛みに関連していた。不安(β = 0.48, p < .001)と抑うつ(β = 0.69, p < 0.001)は、臨床人口動態的因子を考慮した後の痛みの強さに関連していた。痛みに対する抑うつの影響は、社会的支援のレベルにより異なった(p = 0.009)。同様に痛みに対する不安の影響は、移動に関する問題を報告した患者の間で異なっていた。

結論:本試験は、がんの痛みの強さ、不安や抑うつなどの心理的因子、および社会的支援を調査した、これまでで最も大規模な試験である。われわれのデータでは、人種、所得、腫瘍の部位、疾患のステージなどの患者の特性が、独立して痛みの強さを予測することを示唆している。不安および抑うつは痛みの強さの重要な要因であり、これらの関係性は、患者の特性を考慮した後も残っている。社会的支援は、痛みに関する不安や抑うつのマイナスの影響を緩和する。がんの痛みを治療する医師らは、患者の痛みに大きな影響を及ぼす可能性をもつ、修正可能な心理的要因に適応する必要がある。研究結果は、がんの痛みに対し、学問分野の垣根を超えた多様なアプローチの必要性を強調している。

開示:Declan Walsh, MD: Consulting or Advisory Role with Tesaro, Leadership Role with Nualtra, Travel, Accommodations, Expenses from Tesaro, Stock and Other Ownership Interests with Nualtra, Honoraria from Tesaro, Research Funding from Nualtra.

研究資金提供:受けていない

助成金:なし

翻訳担当者 白鳥理枝

監修 吉松由貴(呼吸器内科/飯塚病院)

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原文掲載日 

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