がん疼痛に対する画像ガイド下コルドトミー

MDアンダーソン OncoLog 2018年8月号(Volume 63 / Issue 8)

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CTガイド下コルドトミーはがん性難治性疼痛を緩和する

コルドトミーは、重度疼痛の管理の一つとして長年にわたり用いられてきた治療法であり、脊髄を通る痛覚伝導路を遮断するために観血的あるいは経皮的手術が用いられる。観血的手技を用いるコルドトミーは、いくつかのリスクが伴うことから、その臨床的有用性に限界があった。しかし、術中に画像撮影を行うようになったことで、難治性疼痛を有するがん患者に対する経皮的コルドトミーへの関心が再び高まっている。

「コルドトミーは、疼痛に対する確立された治療法ですが、以前は、手術手技の限界から合併症の発生率が高い治療法でした」とテキサス大学MDアンダーソンがんセンターの神経外科臨床准教授であるAshwin Viswanathan医学博士が述べた。「現在は術中画像が得られるため、安全性、有効性ともに大きく改善されています。一部の患者さんでは、この治療により、劇的に疼痛が軽減されます」。

嚥難治性疼痛を有するがん患者において、画像ガイド下経皮的コルドトミーにより、支持療法よりも優れた疼痛管理が行えるかどうかを実証するために、Viswanathan氏らは、2つの疼痛管理法を比較するという、これまでに類を見ない臨床試験に取り組んでいる。

何故コルドトミーなのか?

がんの疼痛管理に最も多く用いられる方法はオピオイド療法である。しかしオピオイドは、たとえ投与量を増やしたとしても、すべての患者で効果が得られるわけではない。さらに、そう痒、悪心、便秘などのオピオイドの副作用に耐えられない患者もいる。

オピオイドで効果が得られない場合や、副作用に耐えられない場合、外科的介入が有効な場合がある。このような介入には、くも膜下腔内投与の鎮痛ポンプの植え込み(オピオイドの投与量を大幅に減量して直接髄液へ投与することが可能)、脊髄切開術(腹部のがんによる疼痛に対して)、コルドトミー(肩より下の片側疼痛に対して)などがある。コルドトミーは通常、経皮的に行われ、コンピューター断層撮影(CT)ガイド下で行われることが多くなっている。

CTガイド下経皮的コルドトミーでは、まず、腰椎穿刺を行い髄液にX線造影剤を注入し、脊髄を可視化する。その後に外科医がリアルタイムCTガイド下で、頭蓋底で針を脊髄に進め、さらに針の先端からラジオ波電極を脊髄視床路まで進める。電極を正しい位置に刺入すると、電極を加熱し、脊髄の痛覚伝導路を切断する。この治療は、患者との意思疎通ができるよう、局所麻酔で行われる。

「脊髄では、中心となる伝導路に電極を挿入することが必要です。このため、患者さんが痛む場所を確実に感じることができるように、患者さんと会話をしながら、電極に刺激を送ります。そうすることで、その痛覚伝導路を遮断できるのです」とViswanathan氏は述べた。

処置には通常1~2時間を要する。考えられる副作用としては、下肢脱力があり、患者の約1%に生じる。また、一部の患者では、処置により起こるしびれが気になる場合もある。

ランダム化試験で有効性が認められる

今日まで、コルドトミーの有効性は、後ろ向き研究や単群前向き研究でしか検討されてこなかった。コルドトミーなしでは管理できないがん性疼痛を、コルドトミーを用いればどの程度まで軽減できるのかを検証するために、Viswanathan氏らはランダム化比較試験に着手した。

「これは、新しい手法を用いた疼痛に対する外科的介入と支持療法を比較した初めてのランダム化試験です」とViswanathan氏は述べた。

臨床試験(No. 2014-0833)は、がんの種類を問わず、腫瘍の浸潤による難治性疼痛を肩より下の高さで片側に認める進行がん患者を対象としている。患者は、すぐにCTガイド下経皮的コルドトミーを行う群または1週間の支持療法(その後CTガイド下経皮的コルドトミーを受けることが可能)群のうち、いずれかに割り付けられる。コルドトミーを施行する患者は、処置前および処置後に、疼痛と症状に関する質問票に回答し、鋭利刺激および熱刺激による痛み感知について定量的感覚検査を受ける。処置後すぐに核磁気共鳴画像(MRI)検査を行い、脊髄に対する処置の効果を確認する。

これまでの2年間で患者16人が登録された。7人はすぐにコルドトミーを行う群に割り付けられた。9人は支持療法群に割り付けられ、そのうちの7人は最終的にコルドトミーも受けた。臨床試験は予定の登録期間を終了し、正式な比較解析が進行中である。

長期的な治療効果はまだ確認されていないが、これまでのところ、優れた結果がえられている。「14人に対してコルドトミーを行いましたが、このうち13人で痛みがかなり緩和されました。また、支持療法と比較しても、十分な痛みの緩和が認められました。私は通常、痛みを緩和できる確率は70%だと患者さんに話していますが、われわれの試験では、これよりも若干高い奏効率が示されています」とViswanathan氏は述べた。

さらに、「本試験の初期結果は、がん性疼痛の治療におけるCTガイド下コルドトミーの重要度が高まっていることを明確に示すものです」と述べた。

「モルヒネ、オキシコドンのような強い薬物を使用してもなお、痛みに苦しむようであれば、私は間違いなくこの治療法を薦めるでしょう。がんのケアに悪影響を及ぼすことなく、すぐに効果を得ることができる可能性があります」とViswanathan氏は述べた。

キャプション】
左:患者の脊髄に挿入されたコルドトミー電極(矢印)を示す術中CT画像。
右:同患者における脊髄内の切断部位(矢印)を示す処置後MRI画像。
両画像はAshwin Viswanathan氏の許可により転載。

For more information, contact Dr. Ashwin Viswanathan at 713-792-2400 or aviswanathan@mdanderson.org. For more information about the trial of CT-guided cordotomy, visit www.clinicaltrials.org and search for study No. 2014-0833.

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翻訳担当者 竹原 順子

監修 佐藤 恭子(緩和ケア内科/川崎市井田病院)

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