進行がん患者に対する早期からの緩和ケア効果を試験で確認

進行がんの標準治療と並行して緩和ケアを受ける患者では、早期からの緩和ケアを受けなかった患者と比較して、QOL(生活の質)や気分が良い状態にあることがランダム化臨床試験の結果で示された。

また、早期からの緩和ケアを受けた患者では疾患への対処能力が高く、終末期ケアの希望について医療提供者と話し合いをする傾向も強かった。

「これまでの二つの臨床試験によって、早期緩和ケアが進行がん患者にもたらす効果が示されました」と、マサチューセッツ総合病院の医師 Joseph A. Greer氏は述べた。同氏は先月、サンフランシスコで開催された米国臨床腫瘍学会協賛の腫瘍学における緩和ケアシンポジウムで試験の結果を発表した。

Greer医師らにより2010年に発表された前回の試験では,進行肺がん患者のみが参加したもので、早期緩和ケアがQOLと気分にもたらす効果が発表された。今回の試験では、研究者らは肺がん患者に加え消化器がん患者を登録し,早期からの緩和ケアが、患者の対処能力および終末期ケアの話し合いにどう影響するかといった新しい課題を調査した。

「これはGreer医師らのグループによる以前の研究をベースにして良く指揮された試験でした」とNCI(米国国立がん研究所)の癌予防部門の看護師,看護学修士であるDiane St. Germain氏は述べた。「早期からの緩和ケアの効果をほかの癌でも確認することが重要です」。

QOLの向上

緩和ケアとは、生命を脅かす疾患を有する患者のQOLを向上するためのケアである。多くの専門家は、症状の管理や、ケアの目標の設定、また診断当初から終末期に渡ってがん患者として経験することを心理面からサポートするケアと位置付けている。

「緩和ケアは、患者が大切にしている活動を維持することを助けます」と、 Greer氏は述べた。緩和ケアチームは医師、看護師、ソーシャルワーカー、また心理面や精神面から重篤な疾患の患者を支援する経験を持つ病院所属の牧師らで構成される。

今回の試験では、進行した肺がんあるいは消化器がん(膵臓・胃・食道)を有する350人を、標準治療と並行して緩和ケアを受ける患者群と、標準治療のみの群に無作為に割り付けた。緩和ケアを受ける患者群は、最低でもひと月に一度の緩和ケア専門家の面談を受けた。両群は治療開始から、12週間と24週間の時点で評価された。

早期緩和ケアを受けた肺がん患者ではQOLと気分の面での改善が報告された。しかしながら消化器がん患者においては、12週あるいは24週における両群間での評価に差異は見られなかった。

「この知見は今後の研究の上で、がん種によって緩和ケア介入の内容を調整すべきかといった重要な疑問を提示しました」とSt. Germain氏は述べた。

この試験では早期緩和ケアを受けた患者の30%が終末期医療の希望について話し合いを持った一方で、標準治療のみを受けた患者で同様の話し合いをしたのは14%であったことが報告された。

「この試験結果が衝撃的だったのは、治療不能な進行がん患者において、終末期について話し合いをする人の少なさです」とSt. Germain氏は述べた。なぜ話し合いをする人が少ないのか、そしてどうすれば話し合いを促進できるのかについては「もっと研究が必要です」と加えた。

24週の時点で、緩和ケアを受けた患者群は、適応コーピングと研究者が呼ぶ手法を使う患者が他の群より多い傾向があった。このコーピングスタイルには、診断を受け入れたり、感情面での支援を利用したりといった人生をより良くする行動を取ることが伴う。

「がんの診断は患者にとって簡単に受け入れられるものではありません。だからこそ、現在我々が持つ早期からの緩和ケアという戦略を用いて患者がそれぞれのQOLを向上させる助けとなることが期待できます」と、メモリアル・スローン・ケタリングがんセンターAndrew S. Epstein医師はニュースリリースで述べた。同氏はこの試験には参加していなかった。「緩和ケアががん治療の一環に組み込むことによる効果を広め,積み上げていくために,このような試験を続けます」。

先を見つめて

次のステップとして研究者らは、早期からの緩和ケアの手法をより広範にがん治療に組み込むことが出来るかの実現可能性を探り始めている。彼らは米国内の約20カ所の医療現場でモデルを評価している。この評価が行われる施設は、半数が学術研究センターで、半数は地域病院である。

この研究はマサチューセッツ総合病院のJennifer S. Temel医師に率いられた新しい、根治不能肺がんあるいは消化器がんを有する患者を対象とした早期緩和ケアについてのランダム化臨床試験を含む。本試験は地域病院で治療を受けていた患者による2010年の大規模な試験で得られた知見を再現することを目指している。

「この試験は米国国立がん研究所腫瘍学研究プログラム(NCORP)から資金援助を受け、根治不能消化器がんの患者における早期からの緩和ケアの効果について多くの情報を提供するでしょう」とGerman氏は述べた。

研究者らは現在の方法よりも少ない資源で実施できる手法を研究しようと考えている。例えば、診断の時点で比較的健康な患者では、すでに疾患が増悪した患者ほどには緩和ケア専門家の定期的な面談を必要としない可能性もある。

「この“段階的ケア(stepped-care)モデル”においては、患者の必要に応じたレベルのケアを行い、必要となれば頻度を上げていくことになります。」とGreer氏は説明した。

新しい試験において、進行がんを有する患者の一部では、治療期間に受けた早期緩和ケアが患者のQOLを改善する可能性がある。

【写真の解説】

新しい試験において、進行がんを有する患者の一部では、治療期間に受けた早期緩和ケアが患者のQOLを改善する可能性がある。

翻訳担当者 岡田章代

監修 小杉和博(緩和ケア内科/川崎市井田病院)

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