癌患者のうつ病:成果と課題

キャンサーコンサルタンツ

大うつ病は癌の重要な合併症であり、QOL(生活の質)をさらに低下させるおそれがある。Lancet誌で発表された一連の3つの論文において、癌患者におけるうつ病に関する新たな研究結果が発表された。また、うつ病は一般的で、治療が不十分なのが現状だが、ひとたび診断され、統合的な治療プログラムを使って管理すれば、大うつ病であっても改善する可能性があることが確認された。

1つめの論文では、2008~2011年に英国のスコットランドで行われた癌患者21,000人を対象としたスクリーニングで得られた結果が発表された[1]。大うつ病の有病率は、肺癌で13.1%、婦人科癌で10.9%、乳癌で9.3%、大腸癌で7.0%であった。若年者で社会的剥奪のスコアが悪いほど、大うつ病の有病率が高くなった。さらに、うつ病患者の73%が潜在的に有効な治療を受けていなかった。

Depression Care for People with Cancer (DCPC:癌患者のうつ病治療)として知られる新たな多職種協働アプローチが、2つの臨床試験で評価された。Lancet誌で発表されたSMaRT-2試験、およびLancet Oncology誌で発表されたSMaRT-3試験である[2][3]。これらの試験で検証された統合的協働治療モデルでは、専門的な訓練を受けた看護師、プライマリーケア医、精神科医で構成されたチームが用いられた。また、この戦略は「通常治療」と比較して、うつ病を有する癌患者の転帰を大幅に改善する可能性があることが証明された。

SMaRT-2試験では、外来癌患者500人における統合的治療プログラムの大うつ病に対する有効性を、プライマリーケア医による通常治療と比較した。全体として、治療効果があった患者は、うつ病を対象とする統合的治療プログラムを受けたグループで62%であったのに対し、通常治療グループでは17%にとどまった。抑うつ、不安、疼痛、疲労の申告は、統合的治療プログラムを受けている患者の方が少なかった。また、患者の申告によれば、統合的治療プログラムを受けている患者の方が機能、健康、QOL、うつ病治療に対する認識が良好であった。

SMaRT-3試験では、大うつ病を有する肺癌患者における統合的うつ病治療プログラムが評価された。この試験結果により、予後不良な癌患者において、大うつ病の場合も治療が有効となる可能性が示唆された。

癌患者におけるうつ病は、診断も治療も十分には行われていない。これら最近の研究結果は、患者におけるうつ病の有病率を反映しており、SMaRT試験で用いられたDCPCアプローチおよび体系的なスクリーニングの併用が、癌患者によりよい治療を提供する1つのモデルであることを証明した。

支援を得る

米国の多くのがんセンターが癌患者におけるうつ病の診断と管理を目的として、SMaRT試験におけるDCPCアプローチと類似したプログラムを展開してきた。これまでは、多くの総合がんセンターで心理的支援への統合的アプローチを癌患者に提供していたが、現在はすべてのがんセンターがこうしたサービスの提供を求められている。かかりつけの治療センターで統合的アプローチが利用できるか、確認いただきたい。

ネット上の支援グループ:いつでも、どこでも

癌患者にとって、ソーシャルメディアの最大の恩恵は社会的および精神的支援である。CancerConnectのようなネット上のオンライン支援グループは、いつでもどこでもアクセス可能な非公開で匿名の自主的コミュニティにおいて、患者や介護者、友人、家族に対してピアツーピア(仲間同士の)支援を提供している。「癌患者とその介護者は、支援への継続的なアクセスを必要としている。短い診察時間の間だけでなく、帰宅して調べものをしている時も。多忙な昼間と同じように、眠れぬ夜も支援を必要としている」と、OMNI Health MediaのCEOでCancerConnect開発者の腫瘍内科医Charles Weaver医師は説明している。

参考文献:
[1] Walker J, Hansen C, Martin P, et al. Prevalence, associations and adequacy of treatment of major depression in 21?151 cancer outpatients: a cross-sectional analysis of routinely collected clinical data. The Lancet Psychiatry, Early Online Publication, 28 August 2014

[2] Sharpe M, Walker J, Hansen C, et al. Integrated collaborative care for comorbid major depression in cancer patients (SMaRT Oncology-2): a multicentre randomised controlled effectiveness trial. The Lancet, Early Online Publication, 28 August 2014

[3] Walker J, Hansen C, Martin P, et al. Integrated collaborative care for major depression comorbid with a poor prognosis cancer (SMaRT Oncology-3): a multicentre randomised controlled efficacy trial in patients with lung cancer.The Lancet Oncology, Early Online Publication, 28 August 2014


  c1998- CancerConsultants.comAll Rights Reserved.
These materials may discuss uses and dosages for therapeutic products that have not been approved by the United States Food and Drug Administration. All readers should verify all information and data before administering any drug, therapy or treatment discussed herein. Neither the editors nor the publisher accepts any responsibility for the accuracy of the information or consequences from the use or misuse of the information contained herein.
Cancer Consultants, Inc. and its affiliates have no association with Cancer Info Translation References and the content translated by Cancer Info Translation References has not been reviewed by Cancer Consultants, Inc.
本資料は米国食品医薬品局の承認を受けていない治療製品の使用と投薬について記載されていることがあります。全読者はここで論じられている薬物の投与、治療、処置を実施する前に、すべての情報とデータの確認をしてください。編集者、出版者のいずれも、情報の正確性および、ここにある情報の使用や誤使用による結果に関して一切の責任を負いません。
Cancer Consultants, Inc.およびその関連サイトは、『海外癌医療情報リファレンス』とは無関係であり、『海外癌医療情報リファレンス』によって翻訳された内容はCancer Consultants, Inc.による検閲はなされていません。

翻訳担当者 前田愛美

監修 太田真弓(精神科、児童精神科/さいとうクリニック院長)

原文を見る

原文掲載日 

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

がん緩和ケアに関連する記事

慢性疼痛を持続的に軽減するスクランブラー療法の画像

慢性疼痛を持続的に軽減するスクランブラー療法

ジョンズホプキンス大学ジョンズホプキンス大学の疼痛専門家2名が共著した新たなレビュー論文で、非侵襲的疼痛治療法であるスクランブラー療法が、慢性疼痛のある患者の約80%から90%で有意に...
がん性疼痛へのオピオイド利用に人種格差の画像

がん性疼痛へのオピオイド利用に人種格差

終末期が近い黒人およびヒスパニック系がん患者は、痛みをコントロールするために必要なオピオイド薬を入手する確率が白人患者よりも低いことが、新しい研究結果で明らかになった。

2007年から2019年...
ステロイドはがん患者の呼吸困難の緩和に最適か?の画像

ステロイドはがん患者の呼吸困難の緩和に最適か?

進行がん患者には、生活の質を損なうさまざまな症状が現れる。呼吸困難といわれる呼吸の障害に対しては、症状を緩和するため副腎皮質ステロイドという薬剤がしばしば処方される。 しかし、進行がんにより引き起こされる呼吸困難を対象としたステロイドの臨床
デキサメタゾンはがん患者の呼吸困難緩和に投与すべきではない【MDA研究ハイライト】の画像

デキサメタゾンはがん患者の呼吸困難緩和に投与すべきではない【MDA研究ハイライト】

デキサメタゾンはがん患者の呼吸困難緩和のためには投与すべきではないとの試験結果 がん患者の呼吸困難や息切れを緩和するための全身性コルチコステロイド使用を支持するエビデンスは今のところほとんどない。David Hui医師が率いる研究チームは、