OncoLog2013年8月号◆House Call「癌患者の抑うつ」

MDアンダーソン OncoLog 2013年8月号(Volume 58 / Number 8)

 Oncologとは、米国MDアンダーソンがんセンターが発行する最新の癌研究とケアについてのオンラインおよび紙媒体の月刊情報誌です。最新号URL

うつを管理することでQOLが改善、癌治療成果の向上も期待

うつは、主要な公衆衛生問題であり、アメリカ人の5人に1人が、常にうつの症状に苦しんでいる。

癌患者におけるうつのリスクはさらに高く、うつを発症する可能性は、一般集団の3倍である。疼痛管理が不良な癌患者では、このリスクがより一層高い。

癌患者は、ボディ・イメージや、知的機能、社会的機能の変化など、感情面における多くの課題に直面する。また、死に対する不安や失望感、自責の念、または絶望感を抱えている患者もいる。これらの課題は、治療の副作用とともにうつの原因となり得る。

うつとその症状

うつとは、日常における感情の変調から、精神的および肉体的状態が衰弱するようなものまで、幅広い。ある特定の状況への反応として、うつの症状が現れる場合もあれば、慢性的な病気で寛解しても常に再発の可能性があるような場合にうつの症状が現れる場合もある。

うつの症状に挙げられるもの
・抑うつ気分
・以前は楽しんでいた活動などに興味を失う
・食欲や睡眠パターンの著しい変化
・疲労感
・思考力、集中力の低下
・優柔不断
・繰り返し起こる希死念慮

これらの症状のうち複数(もしくは最初の2つのうちいずれかひとつ)が2週間以上続く場合は、臨床的うつ病の可能性がある。臨床的うつ病は、治療を行わなくても罹患者の66%が1年以内に、80%が2年以内に回復する。

うつと癌

残念なことに、うつの症状の多くは、癌、もしくは癌治療の副作用によるものでもあるため、癌患者のうつ病診断は困難である。さらに悪いことに、化学治療薬、放射線療法、外科的手術など、癌治療の多くは、うつ、またはうつに似た症状を引き起こす原因となり得る。しかし、自身の精神面における健康状態を、担当の癌専門医に報告しない患者が多い。

「恥と治療に支障をきたすことへの恐れ から、患者自身が、うつの症状に苦しんでいるという事実を認めないという、精神疾患に関連した徴候があります」と、テキサス州立大学MDアンダーソンがんセンターの精神医学科長 であり、うつと癌を専門とする、Alan D. Valentine医師は、述べた。「うつは癌患者が経験する一般的な症状のひとつであり、対処の必要はないと考える医師もいます」。

しかし、癌患者のうつは、治療を行わなければ、患者に多くの悪影響を及ぼすことになる。うつの発症により入院期間が延び、費用が増大する可能性があるほか、治療の遅れや、ノンコンプライアンス(予約を守らない、服薬を忘れる、など)をもたらす場合もあり、介護人のストレスも増加する。未治療のうつがもたらす最も重大な危機は、自殺である。癌患者が自殺をする傾向は、一般集団の2倍である。

研究と治療

うつは、癌そのものに物理的影響をおよぼす場合もある。うつ、ストレス、または社会的支援が不十分であるといった事実に影響を受けている患者では、病気の見通しが前向きで、十分な社会支援を受けている患者に比べ、発癌性タンパク質(インターロイキン6および血管内皮増殖因子)レベルが高いことが、複数の研究により証明されてきた。

肺癌、乳癌、脳腫瘍の患者を対象とした、過去10年間の研究により、うつは全生存および無病期間に対して悪影響を及ぼすことが分かった。

しかし、癌患者のうつは、効果的に管理することが可能である。2011年のある研究では、行動的介入を行うことで癌患者の生存を延ばすことが示された。これらの介入には、カウンセリング、認知行動療法、抗うつ剤使用などの手法が挙げられる。

カウンセリングおよび認知行動療法では、患者が効果的なストレスの対処法を習得し、それぞれの現状に応じて独創的に対処できるよう、医師やカウンセラーが指導する。

薬には、複合すると副作用が出るものもあるため、抗うつ剤は、癌の治療に合わせて、慎重に処方する必要がある。しかし、すべての副作用が悪いというわけではない。一部の抗うつ剤には食欲を増加させる副作用があり、それが癌患者に有利となる場合もある。

癌患者にうつはよく見られるものだが、正常ではないと、Valentine医師は強調する。「うつの治療により、癌患者や介護者の生活の質が向上するというのは明確です。 また、生存率においても効果的であるという、有望な研究エビデンスがますます増えています」と、同医師は述べた。

どんな癌患者でも、うつの徴候がみられる場合は、躊躇せずに、担当医師に伝える必要がある。うつを管理することで、患者の生活を改善することが可能となり、場合によっては命を救うことにもなる。

— J. Delsigne

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翻訳担当者 内山佳代子

監修 太田真弓 (精神科、児童精神科/さいとうクリニック院長)

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