慢性疼痛を持続的に軽減するスクランブラー療法

ジョンズホプキンス大学

ジョンズホプキンス大学の疼痛専門家2名が共著した新たなレビュー論文で、非侵襲的疼痛治療法であるスクランブラー療法が、慢性疼痛のある患者の約80%から90%で有意に疼痛を緩和し、他の非侵襲的治療法である経皮的電気神経刺激(TENS)よりも効果的である可能性が示された。この論文は、7月13日付New England Journal of Medicine誌のオンライン版に掲載された。

スクランブラー療法は2009年に米国食品医薬品局(FDA)から承認を受けたが、慢性的な疼痛を感じる身体部位の上下に電極を設置し、皮膚を通じて電気刺激を与える治療である。その目的は神経末端を捕捉し、疼痛を感じている部位からの信号を、疼痛を感じていない隣接した部位からの信号と置き換えることで、脳に送られる疼痛の信号を「混乱させる」ことである、と、本研究の筆頭執筆者であるThomas Smith医師(ジョンズホプキンス大学医学部の腫瘍学・医学教授およびジョンズホプキンス大学キンメルがんセンターのハリー・J・ダフィーファミリー緩和ケア教授)は説明する。

すべての慢性疼痛、および神経痛・神経障害性疼痛のほとんどは、2つの要因から生じる。それは、損傷した神経から疼痛インパルスが脳の痛覚中枢に連続して送り込まれること、および、疼痛インパルスを遮断しその慢性化を防ぐ抑制細胞が機能しないことの2つである、とジョンズ・ホプキンス大学医学部の緩和ケア部長でもある同氏は述べる。

「上行性の疼痛インパルスを遮断し抑制系を強化できれば、脳をリセットして慢性的な疼痛をそれほどひどく感じないようにすることができるかもしれません。Ctrlキー、Altキー、Deleteキーを10億回ほど押すようなものです」。

多くの患者の「疼痛がかなり緩和され、それが永続的であることが多いのです」。患者は、30分のセッションを3回から12回受ける。

慢性疼痛を治療する医師としてSmith氏は次のように語る。「スクランブラー療法は、私がここ数年で見た中で最も素晴らしい疼痛治療です。効果的かつ非侵襲的で、オピオイドの使用を大幅に減らし、永続的な効果も期待できます」。

TENS療法も低強度の電気信号を皮膚から与えるが、疼痛部位に一対の電極を使用する。疼痛の緩和は、電気インパルスをオフにすると(またはオフにした途端に)消失することが多い、とSmith氏は述べる。レビュー論文に引用されている研究で381件のランダム化臨床試験でTENSの効果を評価しており、TENSとプラセボ療法とでは疼痛の軽減に統計的な有意差がないことが明らかになっている。

  • 監訳 佐藤恭子(緩和ケア内科/川崎市井田病院)
  • 翻訳担当者 藤永まり
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  • 原文掲載日 2023/07/31

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