2012/07/24号◆‘癌の看護’特別号「癌ケア向上のための看護師と医師との協働」

同号原文NCIキャンサーブレティン一覧

NCI Cancer Bulletin2012年7月24日号(Volume 9 / Number 15)

日経BP「癌Experts」にもPDF掲載中~
PDFはこちらからpicture_as_pdf
____________________

◇◆◇ ’癌の看護’特別号 ◇◆◇

癌ケア向上のための看護師と医師との協働

セントルイス郊外にあるDr. John Wilkes氏らの癌専門施設では、新たな治療計画を開始する患者はみな、ナース・プラクティショナー(NP)と会って1時間程度の教育セッションを受ける。

「それが患者さんに自己紹介する最初の機会になります。そこで彼らとの関係を築き、治療時に患者さんと会うときには、すでに患者さんは私が誰であり、その医師のチームの一員であることを知ってもらうようにします」と同施設の2人のNPのうちの1人、Melanie Maze氏は説明した。

NPは「われわれの試みのあらゆる面に携わります」とWilkes氏は言う。NPは患者のケアを手伝い、サバイバーシップ・ケアプランを作成し、それを患者とともに見直して、施設の医師と他の看護師との仲介役を務め、看護師が化学療法剤や生物学的製剤の投与を行う治療室を管理する。

Maze氏とWilkes氏の間にあるような協働関係は、共同実務契約によって法的に確固たるものとすることが多く、珍しいものではない。

また、米国においては高齢化が進み、癌サバイバーの数が増加して癌専門サービスの需要が高まっていることから、癌専門医は、その需要を満たすために、高度実践看護師、すなわちNPおよび臨床専門看護師を求めている。こうした看護師は、地域密着型の施設の他に、病院や大学病院で癌専門医と連携し、多様な役割を果たしている。

高度実践看護師は医師の作業負担を軽減させる上で役立つばかりでなく、技術や能力、見通しを補い、患者ケアに広がりと深みを加えると、米国腫瘍看護学会の元会長であるニューヨーク州アルバニーのNP、Georgia Decker氏は述べた。

「癌に対するケアの提供はとても複雑になってきたため、最新の質の高いケアを提供するにはチームが一丸となることが必要です」と、米国臨床腫瘍学会(ASCO)の労働力諮問委員会の共同委員長である、ベスイスラエル・ディーコネス医療センターのDr. Michael Goldstein氏は言う。

労働力不足の軽減

ASCOの「共同医療実務管理に関する調査」で調査対象となった226の癌専門施設の半数超が、医師以外の医療提供者としても知られるNPあるいは医師助手を雇用していると報告した(調査ではNPと医師助手とを区別していない)。

調査結果は昨年9月にJournal of Oncology Practice誌で報告され、NPおよび医師助手を雇用している地域の癌専門施設では、患者の満足度は一様に高く、医師と医師以外の医療提供者の満足度も概して高いことを示していた。この調査では、診療において、NPや医師助手が全ての医師と協働して多岐にわたる患者を診た方が、生産性が高いことも明らかになった。

協働診療に関する調査へのASCOの関心は、2020年までに癌専門医が著しく不足することを予測した同組織の2007年の研究に端を発する。

「(協働診療の)調査は、医師-NPチームの一員としてNPが癌のケアを提供することに患者が不満を感じているかもしれないという、誤った通念のひとつを払拭しました」と、Goldstein氏とともに労働力諮問委員会の共同委員長を務める、スローンケタリング記念がんセンターの癌専門医、Dr. Dean Bajorin氏は話している。

患者と医師の双方の満足

「こうした協働は多くの点で患者さんのケアを向上させます」とDecker氏は言う。同氏は、一次診療で癌患者や癌サバイバーを診療し、開業看護診療も行っている。

癌専門看護師は「ベッドサイドで訓練を受け、癌専門医が時として目を向けられないような点で、患者さんの身体的、精神的、感情的なニーズにとてもよく注意を払っています」とWilkes氏は言及した。

また、地域の診療所であれ、病院や大学病院であれ、患者や患者の家族と意思疎通を図る上で、看護専門家は医師よりも大きな役割を果たす傾向がある。「一般的に言って、特に(癌専門医が)不足していることから、医師は看護師や高度実践看護師または医師助手に大きく依存して、意思疎通の窓口を保っています」とDecker氏は述べている。

患者やその家族と意思疎通を図ることが、Karen Stanley氏の業務の中心となっている。米国腫瘍看護学会の元会長で、臨床専門看護師のStanley氏は、コネチカット州のスタムフォード病院で疼痛・緩和ケアを管理している。「患者さんやそのご家族と時間を過ごすことで、難しい決断を下す際に不可欠なことを知ることができます」と同氏は説明する。

Bajorin氏の働くスローンケタリング記念がんセンターでは、癌専門医と患者が一様に、入院患者への骨髄移植チームにNPを加えることの利点について言及している。

「NPは治療法と患者さんについてよく知っているため、ケアの継続性が向上するのです。たとえて言えば、NPはずっと患者さんの脈をとっています。また、外来治療への移行やその調整に長けています」とBajorin氏は言う。

Maze氏は、共同医療実務管理により、医師には自由な時間ができ、新患を診察したり症例の相談に病院へ出向いたりといったことで、「診療の実行可能性に経済的な影響を与えることができる」といった、癌の診療における経済的利点もあることを指摘した。

共同医療実務管理によって医師が診察できる患者の数が増えることに「疑いようはありません」とWilkes氏は断言した。「ただし、それが主要な目的となってはいけません」。

成功の秘訣

癌専門医と高度実践看護師とがうまく協働していくために必要な要素は、よい結婚生活を送るために必要な要素と変わらない。「人生におけるあらゆる関係のように、コミュニケーションの問題です」とWilkes氏は言う。

お互いの信頼と尊重も不可欠となる。「医師は、プラクティショナーが自分自身が何をしているのかわかっていると信頼して、プラクティショナーが診療できる範囲内で最大限に診療できるようにしなければなりません」とMaze氏は言う。うまくいっている協働では「各プラクティショナーの強みと、その強みを行動に移す能力が認められています」とDecker氏は詳細に説明した。

「一人の人間として他人に敬意を払うだけでなく、その人が持っている技能ともたらす知識にも敬意を払うこと」が大切であるとStanley氏は主張する。

2人の医療提供者間の密接な協働関係が重要であるとWilkes氏は強調し、次のように言う。「NPと医師が協働診療を行っていても、診療を行う両者がいつも日常的に患者を診察するわけではないならば、コミュニケーションのすれ違いが起こる可能性があります」。

さらなるトレーニングの必要性

NPがケアの提供における隙間を埋めてくれることを癌専門医が求めている一方、高度実践看護師の現場も人手不足と闘っている。

NPが一般的に不足していることに加え、癌分野における高度実践看護師向けの正式なトレーニングプログラムがほとんど存在しない(そのような修士号プログラムは南フロリダ大学のものが最大)。「私が問題だと考えていることの1つは、(癌専門の)NPがほとんど見習い職人のような形で地域において(協働する医師から)教育を受けていることです」とBajorin氏は述べた。

米国腫瘍看護学会は高度癌専門認定NPとしての資格を付与しているが、ほとんどの州の看護師委員会はそのような資格を認定していない。「多くの州は、癌のような細分化された専門分野よりも、救急治療のような、より幅広い領域での資格を持ったNPを求めています」とジョンズホプキンス大学看護学校の准教授、Dr. Anne Belcher氏は言う。

それが修士号レベルの癌専門看護プログラムが十分にないことの主な理由の1つであると、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターで高度実践看護師向けの大学院腫瘍学フェローシップを監督するDr. Joyce Dains氏は説明した。1年間にわたるプログラムへの出願プロセスは非常に競争が激しく、入学を許可される特別研究員は毎年わずか2、3人である。

そのようなプログラムの助成は困難となることがある。「(MDアンダーソンの)看護学校の副学長はこの教育プログラムの実施を強く切望しているため、(2006年の開始以来、毎年)フェローシップに出資しています」とDains氏は述べ、MDアンダーソンは自施設で働いてもらうために雇用した高度実践看護師向けに癌の分野でレジデント制度を開始することも考えている、と続けた。

さらに、もう一つの課題は、「癌専門NPを指導する癌専門NPが多くないことです」とBelcher氏は述べた。そうした高度なトレーニングを受けた人の大半は、フルタイムの教職員より臨床現場を好み、健康管理分野で教職員より多くの収入を得ています」と同氏は説明し、次のように結論した。「古い学部ほど、事態は悪くなります」。

また、癌専門のトレーニングを受けたNPの不足は、共同医療実務管理の発展を妨げる可能性がある。「われわれが協働診療モデルを望むほど、また、そのモデルがうまく機能するほど、それを担う十分なNPがいなければ、それが問題点となります」とGoldstein氏は言う。

— Elia Ben-Ari

******
川瀬真紀 訳
廣田 裕(呼吸器外科/とみます外科プライマリーケアクリニック) 監修 
******

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

がん緩和ケアに関連する記事

がん患者の抑うつ、疼痛、疲労の管理を改善しうる新たなアプローチの画像

がん患者の抑うつ、疼痛、疲労の管理を改善しうる新たなアプローチ

がん治療中の人の多くは、うつ、痛み、疲労の症状を経験する。しかし、研究者たちは依然として、がん患者においてこれらの症状をどのように管理するのが最善であるか研究のさなかにある。

一つの方法...
慢性疼痛を持続的に軽減するスクランブラー療法の画像

慢性疼痛を持続的に軽減するスクランブラー療法

ジョンズホプキンス大学ジョンズホプキンス大学の疼痛専門家2名が共著した新たなレビュー論文で、非侵襲的疼痛治療法であるスクランブラー療法が、慢性疼痛のある患者の約80%から90%で有意に...
がん性疼痛へのオピオイド利用に人種格差の画像

がん性疼痛へのオピオイド利用に人種格差

終末期が近い黒人およびヒスパニック系がん患者は、痛みをコントロールするために必要なオピオイド薬を入手する確率が白人患者よりも低いことが、新しい研究結果で明らかになった。

2007年から2019年...
ステロイドはがん患者の呼吸困難の緩和に最適か?の画像

ステロイドはがん患者の呼吸困難の緩和に最適か?

進行がん患者には、生活の質を損なうさまざまな症状が現れる。呼吸困難といわれる呼吸の障害に対しては、症状を緩和するため副腎皮質ステロイドという薬剤がしばしば処方される。 しかし、進行がんにより引き起こされる呼吸困難を対象としたステロイドの臨床