欧州ESMO、臨床試験に新たなQOLチェックリストを導入

欧州臨床腫瘍学会(ESMO)は、がん医療の臨床的有用性を評価するための検証された、再現性のあるツールESMO-MCBS(Magnitude of Clinical Benefit Scale)に現在不可欠となっている生活の質(QOL)チェックリストを開発した。本日、Annals of Oncology誌に掲載された同チェックリストは、がんの治療法の開発においてQOLの重要性が高まりつつあることを反映しており、QOL調査のデータがESMO-MCBSによる評価の一部として信頼性や妥当性などの特定の基準を満たすよう確保することを目的としている。

「ESMO-MCBSの基調には、新しい治療による臨床的利益は、既存の標準治療と比較して、全生存期間の延長で示される『より長く生きること』だけでなく、QOLの改善や毒性の低減などで示される『より良く生きることでもある』という考え方があります」と筆頭著者でESMO-MCBS拡張作業部会のメンバーであるSjoukje Oosting医師(オランダ、フローニンゲン大学医療センター)は述べる。

同氏はまた、治癒させる可能性が低く、QOLが主要評価項目または副次評価項目となっている新しい治療法を例に挙げ、状況によってはQOLデータがESMO-MCBSの最終スコアを決定することもあり得ると付け加えている。「このような治療法では、全生存期間または無増悪生存期間に基づいてESMO-MCBSによる予備評価が行われますが、標準治療群と比較して全体的QOLが改善されれば1点可算されます」

ESMO-MCBSでの評価には、チェックリストに定められた基準を満たしているQOLデータのみが用いられる。「このチェックリストが、方法論的にQOLを尊重したより優れた試験計画の促進につながり、解析の質および報告の質を向上させることを私たちは期待しており、また、そうなると予想しています。このようにして、患者さんは、選択肢となる新しい治療法の影響についてのより深い知識を得られるようになるのです」とOosting氏は述べている。

ESMO-MCBS作業部会は、欧州がん研究治療機構(EORTC)のQOL部門と協力してこのQOLチェックリストを開発した。EORTC QOL部門の長であるアシスタントディレクターのAndrew Bottomley医師は、次のように述べている。「このQOLチェックリストが加わったことは、ESMO-MCBSの大幅な改善、およびESMOががん臨床試験における患者さんの視点をいかに重要視しているかを示しています。また、チェックシートの更新においてESMOと協力できたことは、EORTCチームにとっての誇りであり、EORTCやESMOのような学会が患者さんの視点に真にどれほどの価値を置いているかを示しています」

ESMO-MCBS作業部会会長のNathan Isaac Cherny 教授(イスラエル、エルサレム、シャーレ・ツェデクメディカルセンター、腫瘍内科、がん疼痛および緩和医療サービス)は、QOLデータの高い水準を確保することの重要性を説明した。「QOLは複雑な複合概念であり、QOLの正確な評価には、適切なツールが用いられていること、患者さんがデータの漏れのない記入と返却を遵守していること、差が生じたときには、その差が統計的に有意であるだけでなく臨床的に意味があることが確保されていなければなりません」

Cherny教授はさらに、多くのがん研究は無増悪生存期間を基準としているとはいえ、無増悪生存期間は代替アウトカムとしては長期予後の信頼できる予測因子ではないことを考慮すると、医薬品開発におけるQOLチェックリストは有用であると述べる。「延命に関する信頼できる予測因子がない以上、せめて『よりよく生きられるのか』を知りたいのです。QOLに関する結果が治療評価に組み入れられてこそ、その治療がQOLを向上させていること、少なくともQOLの悪化を遅らせていることを示すことができるのです」

評価システムは、以下の短い4項目のチェックリストに基づいている。総合的・全体的QOLの明確な仮説と方法、遵守データおよび欠損データ、仮説に基づく結果、統計的有意性および臨床的意義である。

「このQOLチェックリストの重要性は、ESMO-MCBSスコアに組み入れられるデータが確実な根拠に基づく頑健なデータであることを確保するところにあります。これは、ESMO-MCBSでの評価に用いるQOL調査の認定の際、客観的で透明性のある判定を促すために不可欠です」とCherny博士は述べる。また、ESMO-MCBS作業部会は、正確なQOL評価を促すために、好ましくない調査結果も含め、すべてのQOL結果を既存のQOL調査ガイドラインに従って適時に報告するよう奨励していると著者らは付け加えている。

Oosting SF, Barriuso J, Bottomley A, Galotti M, Gyawali B, Kiesewetter B, et al. Methodological and reporting standards for quality of life data eligible for European Society for Medical Oncology – Magnitude of Clinical Benefit Scale (ESMO-MCBS) credit. Annals of Oncology. 2022 December 20.


  • 監修 佐藤 恭子(緩和ケア内科/川崎市井田病院)
  • 翻訳担当者 八木 佐和子
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  • 原文掲載日 2022/12/20

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