黒人とヒスパニック系がん患者では新型コロナウイルス感染リスクが高い

ASCO(米国臨床腫瘍学会)の見解
「がん患者は、がん治療を受けるか、それともCOVID-19(新型コロナウイルス)感染リスクを回避するか決定を迫られるべきではありません。医療提供者は、黒人とヒスパニック系のがん患者で感染リスクが高いことを認識し、リスクを軽減するための措置を講じられるようにする必要があります」と、 ASCO専門委員のSonali M. Smith医師は述べた。

本要約文は、アブストラクトに記載されていない最新データを含む。

がん患者477,000人以上を対象とした研究結果によると、黒人とヒスパニック系のがん患者は、白人患者より新型コロナウイルスに感染する可能性が高いことが明らかになった。本研究は、2020年10月9日〜10日にオンラインで開催される米国臨床腫瘍学会(ASCO)のQuality Care Symposium(クオリティケア・シンポジウム)で発表される予定である。

研究の概要

【主題】少数民族のがん患者におけるCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)の発症リスクの増加

【対象】CancerLinQ(キャンサーリンク)データベース中のがん患者477,613人

【結果】黒人とヒスパニック系のがん患者は、新型コロナウイルス感染症の発症リスクが有意に高かった

【意義】高リスク集団において感染リスクを軽減することの重要性を強調する

主な結果

研究者らは、ASCOのCancerLinQ Discoveryデータベースのデータを使用して、新型コロナウイルス感染症陽性の可能性を白人のがん患者と比較すると、黒人のがん患者はほぼ2倍(相対リスク1.69)、ヒスパニック系のがん患者は5倍以上(相対リスク5.25)高いことを発見した。ASCOが開発したCancerLinQデータベースには、全米の腫瘍診療施設から集められた時系列電子健康記録データが含まれている。本データベースには現在、約200万人のがん患者のデータが登録されている。

「がん患者は、残念ながら、がん治療と新型コロナウイルス感染リスクを天秤にかけるという難問に直面しています。この研究は予備的なものですが、患者と医療提供者が、新型コロナウイルス感染リスクが特に高いのはどのような人であるかを理解し、それに応じてがん治療を計画するのに役立つことを願っています」と、CancerLinQのメディカルディレクターであるRobert S. Miller医師( 米国内科学会フェロー:FACP、米国臨床腫瘍学会フェロー:FASCO)は述べている。

さらに、血液腫瘍患者は、固形腫瘍の患者と比較して、新型コロナウイルス感染症と診断される可能性が1.36倍高かった。

研究について

著者らは、2020年1月1日から8月末日までのがん患者477,613人の記録を調査した。研究期間中、がんと新型コロナウイルス感染症に罹患していた患者は、SARS-Cov2(新型コロナウイルス感染症を引き起こすウイルス)検査結果を報告するCancerLinQ診療施設29カ所のうちの23カ所で確認された。

本研究対象者において、新型コロナウイルス感染症を発症する可能性を白人患者と比較すると、黒人患者は約2倍、ヒスパニック系患者は5倍以上高かった。血液腫瘍患者の高リスクは注目に値する。彼らは免疫系に欠陥があることが多く、すでに他の多種の感染症にかかりやすいからである。

「今回のパンデミックの間に、特にがん患者に関するデータを収集することがどれほど重要であるかを強調することが大切です。私たちは、リスク軽減戦略を特定するために、異なる集団におけるリスクをさらに把握する必要があります。 CancerLinQの調査は、パンデミックの間、がん患者に関する情報をより多く得られる方法の一つです」と Miller医師は述べている。

CancerLinQは、ASCOが開発し、全米の腫瘍診療施設の時系列電子健康記録(EHR)データを収集・集計した、現実世界の腫瘍学データ基盤である。その目標は、患者の特徴(分子プロファイル、併存疾患など)、治療法、および長期的副作用に関する膨大な情報を確実にまとめ、調整し、分析し、匿名化することによって、患者ケアを迅速に改善し、発見を加速することである。CancerLinQは、ほぼリアルタイムで約200万人の患者のデータを使用することによって無数の変数間の傾向と関連性を特定でき、それにより医師は新しい仮説を立て、それらの結論を応用して実臨床でのケアを改善できるようになる。

次のステップ

著者らは、この患者集団の増加に合わせてデータの解析を続ける予定である。彼らは、診断時の病期、特定の悪性腫瘍の存在、特定の種類のがん治療法などの他のリスク因子によっても、患者が新型コロナウイルスに感染するリスクが増大する可能性があるかを調査したいと考えている。さらに、がん患者の新型コロナウイルス感染症に関連する死亡のより具体的なリスク因子を探し出すことも計画している。

資金提供

外部からの資金提供はなかった。

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翻訳担当者 畔柳祐子

監修 小坂泰二郎(乳腺外科・化学療法/医療社会法人石川記念会 HITO病院)

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原文掲載日 

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