がん専門医の管理および安全手順のない在宅抗がん剤治療は、外来の代替として安全ではない

ASCOは患者の安全を最優先に考えることを何よりも強く主張

米国を代表するがん団体の一つは、在宅での抗がん剤点滴治療は、現時点において外来治療に代わる安全な手段ではないと述べている。米国臨床腫瘍学会(ASCO)は、最近ではCOVID-19パンデミック時のがん治療の手引きを、それ以前には危険薬物の安全な取り扱いに関する基準を発表したばかりだが、本日、抗がん剤の在宅点滴療法とその実践に関するメディケア・メディケイド・サービス・センター(CMS、*米国の公的保険サービス)規定についての懸念を提起する立場声明を発表した。

「COVID-19によって治療が困難になった例もあり、外来施設での治療の代わりとして在宅点滴医療が利用されていることは理解していますが、この手段のリスクを上回るメリットがあるかは不明です」「今回のパンデミック以降、患者の安全を最優先に考えるべきであり、在宅での抗がん剤治療を行うことは、その方法が患者の最善の利益になると主治医および患者の両者が同意した場合にのみ決定されるべきです」とASCO会長であるLori J. Pierce医師(FASTRO、FASCO)は言及した。

従来の外来治療とは異なり、在宅での抗がん剤点滴治療は、治療のために患者ががん治療専門施設に行く代わりに治療チームの有資格者(通常は看護師)が患者の自宅を訪問し治療を行うという点で異なる。これにより患者側のハードルは軽減されるが、在宅での抗がん剤治療の安全な取扱いに関する懸念や、主治医との調整不足の可能性など、患者と治療チームメンバーの両者に多くのリスクが生じる。さらに、抗がん剤治療による副作用は急速に悪化する可能性があり、患者の自宅では十分に解決できない命にかかわる緊急事態に発展する場合が考えられる。

『21世紀の治療法(21st Century Cures Act)』案の規定により、CMSは2019年に、2021年から施行される在宅輸液療法制度に給付金を設ける最終規則を指示した。COVID-19の危機がパンデミックに発展したため、CMSはさらに、医療従事者と患者を支援するため個々の患者の状況に応じて最適で安全な環境で治療を提供することを可能にする規制上の柔軟性を多数発表した。これは、在宅での抗がん剤点滴治療の増加につながる可能性がある。

2016年に、ASCOとオンコロジー看護学会(Oncology Nursing Society:ONS)は、化学療法の指示、準備、投与におけるエラーの危険性を最小限に抑えるよう意図された化学療法投与安全基準を更新して発表した。ASCOの2019年基準では、職場での危険な抗がん剤の安全な取扱いに焦点を当てている。ASCO特別報告書『COVID-19の世界的流行下におけるがん治療の実施に関する指針(ASCO)』は、がん治療での実務に対し、COVID-19による公衆衛生的な危機の間、日常診療を復旧する前に、患者と医療従事者の安全を守るために講じることができる即時的かつ短期的な措置についてパンデミックに特化した指示を出している。

在宅と外来での抗がん剤点滴治療の安全性を直接比較したエビデンスはほとんど見当たらない。確立された基準や予防策の多くは、在宅点滴中に満たすことは不可能とは言えないまでも困難な場合がある。

「例えば、当学会の安全指針では、複数の医師を介して投与量や輸液量を確認し文書化し、ミスを最小限に抑え、患者さんへの危害を防止するように設計された安全策を重視しています」「腫瘍内科の診療では訓練を受けたスタッフを追加し診療を行うことができますが、在宅での点滴治療の場合はそれができません」とPierce博士は言及した。

ASCOの意見報告書では、在宅での抗がん剤治療の実施決定は、主治医が患者と相談の上行うべきであり、点滴や廃棄の際に、医療従事者、患者、介護者を保護するために必要な予防措置があるかどうかを考慮した上でのみ決定すべきであるとされている。くわえて、以下の6つの推奨事項を記している。

• 抗がん剤治療の在宅点滴の安全性と有効性を評価するために、公的資金による独立した研究を行うべきである。

• CMSは、パートB抗がん剤(公衆衛生上の緊急事態への対応の一環として承認された薬剤でmedicareのパートBでカバーされる抗がん剤)の在宅点滴治療に関連する一時的な融通性を広げるべきではない。

• CMSは、2021年の在宅輸液給付金の実施に先立ち、患者の必要性と治療計画に基づき、主治医と患者が在宅輸液が最も適切な環境であると判断した場合にのみ利用されることを確実にするために、腫瘍内科の専門家と緊密に協議すべきである。在宅輸液療法サービスの品質報告は、抗がん剤投与における安全性の評価を可能にするために、がん領域に特化した尺度の収集を義務付けるべきである。

• 抗がん剤治療では、公的保険者や民間保険者による在宅輸液給付保険は、在宅輸液の利点が患者の潜在的なリスクを上回る例外的な状況に厳密に限定されるべきである。

• 事前に準備された抗悪性腫瘍薬を医療スタッフに届けるシステムを計画している保険事業者は、実施前に腫瘍内科医に相談する必要がある。

• 公的・民間の保険会社の在宅輸液給付保険は、医療従事者、患者、介護者を保護するために必要な安全手順と予防措置が整備されていることの検証を求めるべきである。

参照(英語)“American Society of Clinical Oncology Position Statement: Home Infusion of Anticancer Therapy.”
(*日本語で読みたい場合は、ウェブ翻訳機能をご利用ください)

抗がん剤治療に関する詳しい情報は、ASCOの患者情報サイト「Cancer.Net」に掲載されています。
(*当サイト日本語翻訳ページ

翻訳担当者 佐々木亜衣子

監修 川上正敬(肺癌・分子生物学/東京大学医学部附属病院 呼吸器内科)

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原文掲載日 

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