ハイリスク医療機器承認時の試験、厳密さに欠けるおそれ

医療機器変更の根拠となる試験の多くは厳密さに欠け、バイアスの可能性がある

カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)およびイェール大学医学部の研究者らの新しい研究によると、ハイリスク医療機器の設計または使用の際の変更を検証する臨床試験では、設計が不十分なことが多く、不適切なまたはバイアスが生じているデータに依存している可能性がある。

2017815日にJAMA誌で発表された研究では、過去10年間にわたる米国食品医薬品局(FDA)のハイリスク医療機器の変更承認の根拠となる臨床試験が再検討された。その結果、医薬品の臨床試験の「ゴールドスタンダード」である無作為化、盲検化、または比較対照が実施されている試験は半数に満たないことが明らかになった。

FDAは、ハイリスク医療機器を「人間の生活を支え、維持するもので、人間の健康を損なうことを予防する上で非常に重要なもの、もしくは病気または怪我のような不当なリスクをもたらす可能性のあるもの」と定義している。

医療機器の不十分な試験の結果が深刻な問題となる場合もあり、この新しい論文で分析された臨床試験の調査対象には、安全性または有効性の問題のためにリコールされた機器も含まれていた。

「革新的または人生を変えるような治療法を市場に出すために審査を早く進めるようにという大きな圧力がFDAにはかかっています」と、本研究の統括著者でUCSF医学部教授のRita Redberg医師(理学修士)は述べた。「しかし、慎重に試験を実施しないと、革新的または人生を変えるような治療であるかどうかも分かりません。検討対象となった臨床試験は、短期間の研究でデータの質が低く、承認後の追跡調査もほとんど行われていませんでした」。

本論文は、医薬品の承認までのプロセスの短縮化について同様の問題を指摘しているロンドン・スクール・オブ・エコノミクスおよびハーバード大学医学部の研究者らの論文と共に掲載されている。また、本論文の付随論説では、前FDA長官のRobert Califf医師(米国心臓病学会MACC)は、承認プロセスの継続的な議論と改革を訴えている。

調査の結果、短期間の試験、不完全なデータが明らかに

FDAでは、ハイリスク医療機器の潜在的な危険性を軽減するために、それらの機器の販売前に、市販前承認(PMA)と呼ばれる厳密な初期臨床試験を行うことを義務づけており、Redberg医師および共同研究者らはそのプロセスについて長年研究してきた。

2009年の研究では、PMAの根拠となる臨床試験が盲検化、無作為化または適切な比較対照に欠けている場合が多いことを、研究チームは明らかにした。この研究は、医療機器の規制当局への警鐘となった。「誰も言及していなかったこの重要な問題を明らかにしたことに対して、感謝する多くの方々からメールをいただきました」と、Redberg医師は述べた。

しかし、元のPMAの内容に変更が生じないことはまれである。医療機器製造業者は、設計変更または元の目的とは異なる用途での使用を行う場合に、FDAに「補足資料」を提出する必要がある。

「多くの医療機器には、数百種類ものさまざまな補足資料が添付されています」と、本論文の共著者でUCSF医学部精神医学科研修医のSarah Zheng医師は述べた。「したがって、これらの重要な変更の根拠となるエビデンスの質を確認しようと考えました」。

Redberg医師およびZheng医師は、本論文の共著者で、イェール大学医学部ロバート・ウッド・ジョンソン財団臨床研究員のSanket S. Dhruva医師(2009年にUCSFで医学博士を取得し内科で研修を修了)による研究に参加していた。

追加承認のプロセスはさまざまであるが、臨床データが必要となるのは1つのみで、パネル追跡と呼ばれるプロセスである。研究チームは83件の試験を根拠とした78件のパネル追跡補足の承認の厳密さを調査した。その結果、補足資料の根拠とする試験がPMA試験と同じ問題を抱えていることが分かった。

PMA試験と同様に、ほとんどの補足試験で盲検化、無作為化、または比較対照が行われていなかった。しかしながら、補足試験のほぼ4分の1で研究開始後に統計解析手順が変更され、すべての参加者からのデータを得ることができない場合が多く、研究結果にバイアスが生じている可能性があった。多くの研究は、試験期間が6カ月未満で、年齢や性別に関するデータが不足していたため、医師が特定患者において医療機器のリスクを評価することが困難であった。

「医者と患者は、これらの医療機器について実際にはほとんど理解していないということに気づくべきです」と、Zheng医師は述べた。「患者が、医療機器が正常に機能しないために取り外す必要がある場合、そうすることは非常に危険であり、大きな費用がかかる可能性があります」。

患者が医療機器で健康被害を受けても補償は困難である

FDA承認機器によって被害を受けた患者には法的選択肢がほとんどないため、この調査は特に重要な意義があります。 2008年に米国最高裁判所は、FDA承認が医療機器の安全性または有効性に関する訴訟から製造業者を守ること、この原則がベストプラクティスに従わない試験に基づいて承認されたとしても保持される可能性が高いことを根拠として、Riegel v. Medtronic, Inc.社に対して判決を行った。「FDAがそれを承認すれば、それで決まりです」と、Redberg医師は述べた。

承認後の手順を改善するために、FDAは、医療機器の故障に関するデータの標準化を検討し、電子カルテを活用し、各医療機器に固有のIDを割り当て、医師が簡単に機器故障や安全上の脅威を報告できるようした。「FDAは、承認後の手順をさらに改善したいと考えていますが、まだ準備が整っていないと述べています」と、Redberg医師は述べた。 FDAが承認後の試験を依頼しても、完了していない、またはまったく実施されていない場合が多くあります」。

「医療機器の承認前に安全性および有効性の合理的保証を求める一般市民および議会の呼びかけを増やす必要があります」と、Redberg医師は述べた。「そうしていかないと、市場に出ている多くの医療機器の安全性または有効性が、未だ示されていないということが分かっているに過ぎません」。

新しい研究のすべての著者が国際医学雑誌編集者委員会(ICMJE)利益相反(COI)開示フォームを記入し提出した。開示すべき利益相反はなかった。

翻訳担当者 会津麻美

監修 辻村信一(獣医学・農学博士、メディカルライター/メディア総合研究所)

原文を見る

原文掲載日 

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

がん医療に関連する記事

抗がん剤不足の危機的状況をASCO副会長が議会で証言の画像

抗がん剤不足の危機的状況をASCO副会長が議会で証言

米国臨床腫瘍学会(ASCO)米国臨床腫瘍学会(ASCO)副会長および最高医学責任者Julie R. Gralow医師(FACP:米国内科学会フェロー、FASCO:ASCOフェロー)は、...
米国がん免疫療法学会 2023(皮膚、大腸、肺がん他):MDA研究ハイライトの画像

米国がん免疫療法学会 2023(皮膚、大腸、肺がん他):MDA研究ハイライト

MDアンダーソンがんセンター特集:微生物叢への介入、皮膚がんや転移性メラノーマ(悪性黒色腫)に対する新しいドラッグデリバリー法、肺がんやリンチ症候群の治療戦略など

アブストラクト:153...
​​​​MDアンダーソン研究ハイライト:ASTRO2023特集の画像

​​​​MDアンダーソン研究ハイライト:ASTRO2023特集

MDアンダーソンがんセンター特集:新しい併用療法や分析法に関する研究テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究ハイライトでは、がんの治療、研究、予防における最新の画期的な発...
がんリスクの遺伝カウンセリングや遺伝子検査を受けやすくする、オンラインでの新規ケア提供モデルの画像

がんリスクの遺伝カウンセリングや遺伝子検査を受けやすくする、オンラインでの新規ケア提供モデル

MDアンダーソンがんセンターがんリスクの遺伝子検査は遺伝性がんの予防や治療の向上に役立つが、複数の研究によれば、遺伝学的ながんリスクの可能性があっても検査を受けない人も多い。Makin...