2010/04/06号◆スポットライト「高齢癌患者に焦点を:臨床的ニーズと臨床試験の必要性 」 | 海外がん医療情報リファレンス

2010/04/06号◆スポットライト「高齢癌患者に焦点を:臨床的ニーズと臨床試験の必要性 」

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2010/04/06号◆スポットライト「高齢癌患者に焦点を:臨床的ニーズと臨床試験の必要性 」

同号原文
NCI Cancer Bulletin2010年4月6日号(Volume 7 / Number 7)


日経BP「癌Experts」にもPDF掲載中〜

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◇◆◇ スポットライト ◇◆◇
高齢癌患者に焦点を:臨床的ニーズと臨床試験の必要性

癌患者のおよそ60%が65歳以上の高齢者であり、年間の癌による死亡の70%を占めている。米国社会は高齢化に向かっており、老齢人口の比率は今後も数十年にわたり増大するであろう。

しかし高齢患者を治療する最適な方法については、いまだエビデンスが不足しているのが現状である。エビデンスの不足は、最も有効な治療法に関してだけでなく、個々の患者のニーズに応じたアプローチについてもいえる。高齢患者では年齢のため薬剤代謝も違い、また別の疾患を併せ持っている可能性が他の年代より高く、うつ病や認知症、転倒や転落、栄養不良などの問題も起きやすい。これらの全てが治療の有効性に影響を及ぼす可能性がある。

「私たちは今、本気で自問する必要があります。癌患者の大多数が65歳以上という状況にあるとすれば、この多数派を少数派とみなし、腫瘍学と治療を若い年齢層に焦点をあてたシステムとしてしか構築してこなかったのはなぜでしょうか?」とペンシルバニア大学アブラムソンがんセンターの臨床専門看護師で老年腫瘍学研究者のDr. Sarah Kagan氏は問いかけた。例えば、癌の臨床試験では一般的に高齢者はほとんど対象外であり、他に重い疾患を患っていない患者を対象としている、と同氏は続けた。「それは高齢化社会の現実にそくしていません」。

これらの問題に対する認識は非常に高まってきているとデューク大学医療センターの加齢・人間発達研究センター(Center for the Study of Aging and Human Development)長であるDr. Harvey J. Cohen氏は述べた。「しかし、癌コミュニティにより広くこの問題を理解してもらい、高齢患者に対して何ができるかの特異的なエビデンスを得るには、まだ道のりは長いのです」。

高齢の患者

高齢患者の治療と管理を最大限に効果的に行うことは、現在の癌治療において最も大きな挑戦の一つであると、フェニックスにあるBanner Good Samaritan 医療センターの腫瘍専門看護師で高齢癌患者を20年以上にわたり擁護してきたDeborah Boyle氏は述べた。2008年、Boyle氏は癌専門看護師協会により、高齢患者のニーズや、治療にあたる看護師の役割に注目させるべく召集された老年医学調査委員会を主導した。そもそも高齢患者とは何かと定義することから仕事は始まったとBoyle氏は語った。「実年齢は適切な治療のための良いマーカーとはなりません。むしろ私たちが取り組むべきなのは、患者の生理的年齢なのです」。

例えば、腫瘍医が乳癌と診断された70歳の女性2人に会うとする。1人は足腰も丈夫で知力も良好に保たれており、他に大きな疾患もない。もう1人は未亡人で、自宅での介助はほとんど受けられない境遇で、骨粗鬆症と心疾患を患い6、7種類の薬を服用しており、初期の認知症の徴候もみられる。この2人の患者のニーズと治療方法は全く違ったものになるだろう。

まさにそこが問題なのだとKagan氏は論じた。「生物学的老化だけを考えるのでなく、社会で年を取るということが何を意味するのかという心理的、社会的示唆をすべて統合して理解するための、効果的で包括的な方法を、腫瘍学はこれから見つけなければならないのです」。

看護師の役割

高齢患者を診察する際、腫瘍医は癌とは別の患者の問題、例えば精神状態や家庭で受けている介助の内容といったものに気づくことがあると、NCI支援による臨床試験共同研究グループのCohen氏は述べる。「しかし患者の治療に没頭しているときにそういった問題を必ずしも心に留めているわけではありません。医師は癌治療に最善を尽くすことに専念しており、それは理解できることです」。

だからこそ、高齢患者の治療管理に腫瘍専門看護師が重要な役割を果たせるのだとコネチカット州ハートフォードの大規模地域病院であるハートフォード病院の癌専門看護師教育員Mary Kate Eanniello氏は述べた。

「私たち看護師は、高齢の患者は平均的な若い患者とは違うという患者の多様性について知りうる立場にあります」と彼女は述べた。看護師はもっと役割を果たせるのだと彼女は続けた。「年齢別行動特性の知識、つまり、人生の異なるステージにある患者の、個別のニーズに対応する必要があります」。

アメリカでは、高齢者のための看護師の医療やケアを向上させる包括的なプログラムNurses Improving Care for Healthsystem Elders(NICHE)を導入した病院が300以上あり、Eanniello氏の勤務する病院もその一つである。ニューヨーク大学看護学部の老年看護学のためにハートフォード研究所によって開発されたNICHEプログラムは、高齢患者のケアについて看護師の向上を目指した講義と方法を提供する。

ハートフォード病院(ハートフォード研究所とは無関係)においてEanniello氏は腫瘍専門看護部のためのNICHEプログラムの主要な指導者である。NICHEプログラムを通じて受ける訓練により、看護師は、患者が治療法に耐えることができるのか、治療後さらに注意深い観察を要するかなどが予測できるようになると同氏は語った。病院全体のNICHEプログラムを監督した看護師のChris Waszynski氏によれば、トレーニングの成果は、結果が全てを語っているという。患者の転倒・転落の顕著な減少、せん妄の発見の増加、そして入院期間の短縮などである。

「入院患者担当スタッフには、老年医学ではなく腫瘍の専門看護師になりなさいと言っています」とEanniello氏は述べた。「高齢患者の生活の質を改善する機会は看護師がどれだけ役割を自覚しているかにかかっています」。

フロリダのタンパにあるH・リー・モーフィットがんセンターの高齢者腫瘍学プログラムでは腫瘍専門看護師が中心的な役割を果たしていると、プログラムの責任者であるDr. Lodovico Balducci氏は述べた。「看護師は患者の年齢に関連した問題を特定するのに最も適した立場にあります。というのも、看護師は訓練や仕事の経験によって高齢患者が直面している問題などに敏感なのです」。

癌に特化する

現在のところ、病院、大学のがんセンターやコミュニティで高齢患者の管理を特別化したり手順を標準化しているところはほとんどないと、Cohen氏は指摘した。役立つ可能性のあるツールは包括的老年学評価(CGA)であり、医学的、心理あるいは社会的問題について掘り下げた分析が得られるため、これにより患者の治療と管理全般に影響を及ぼすかもしれない。このような評価は、臨床的に重要なものになるかもしれないと米国国立癌研究所(NCI)の癌治療・診断部門のDr. Ted Trimble氏は述べている。「このような初期の評価は、患者がどのように癌に対処するかを予測するのに、患者の全身状態(Eastern Oncology Cooperative Group分類)以上に役立つ可能性があることがわかっています」。

評価をどのように行うかのトレーニング不足に加え、それらを用いたエビデンスが腫瘍学では欠如しているとCohen氏は付け加えた。患者の予後と全般的なケアを一定レベルで改善できたかなどである。しかし状況はすぐに変わるかもしれない。

例えばモーフィットでは70歳以上の患者は2段階に分けた検査を受けるとBalducci氏は説明した。始めの検査は看護師が行い、うつ病の徴候や適切な介護者がいないなどの理由で、患者がさらに綿密な老年医学的評価を要するかを判断する。また患者は高齢者腫瘍学プログラムの腫瘍医からCRASHと呼ばれるツールを使った評価を受ける。これはBalducci氏の同僚であるDr. Martine Extermann氏が開発したもので、化学療法により重篤な合併症を起こすリスクが高い高齢患者を特定するものである。このCRASH評価を含め、モーフィットで行われた研究の結果は6月に開催される米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会で発表される予定である。

またNCIの臨床試験協力団体であるCALGB共同研究グループは、高齢の試験参加者に用いるためにCGAを複数の臨床試験に組み込みつつある。Cohen氏の説明によれば、このCGAは高齢者の診療施設で用いられる同様のツールよりも項目がしぼられており、待合室で患者自身が記入を済ませることができる。このアセスメントの結果が生存率および毒性といった患者の転帰と関連するかを試験によって明確にすることで「腫瘍学のスタッフが薬剤レジメンを選んだり、レジメンの強さを判断するのに役に立つでしょう」と同氏は述べた。

これらの評価は高齢患者にとっての重要なニーズに対応するとBoyle氏は言う。「治療の途中からではなく治療を始める前に、高齢患者の転帰に影響を与える可能性がある問題を特定する必要があります」と同氏は強調した。

癌患者の人口は変化しており、腫瘍専門家はこの変化を認識するだけではなく、高齢患者に対するアプローチを変え始めなければならない、とBalducci氏は述べた。「医者と看護師は高齢者の評価について経験を積んでいかなければなりません。なぜならばそれが将来の医学の姿だからです」。

— Carmen Phillips

臨床試験と高齢患者臨床試験の参加者を日常の診療でみられる患者の代表的なタイプとなるよう組み入れるのは、特に高齢患者においては非常に難しいことであると、米国国立癌研究所(NCI)の癌治療・診断部門(DCTD)のDr. Ted Trimble氏は述べた。併存疾患があったり、医者も患者も乗り気でないなどが高齢患者の臨床試験への参加を制限する要因の一つになっている。加えて、高齢患者はNCI指定のがんセンターでの治療に紹介されることは少なく、多くの場合、臨床試験を提供することのない医療施設で治療を受けている。NCIは状況を変えようと多方面に働きかけている。「私たちは臨床試験共同グループとともに、高齢者、特に併存疾患を持つ患者を対象とした臨床試験を増やそうとしています」とTrimble氏は説明する。「高齢者より健康状態が良好な人々から得られた試験の結果が、高齢者および併存疾患を持つ患者にも安全に適用可能なのかを解明したいと考えています」。現在のエビデンスからは、こうした情報不足のために多くの高齢患者が十分な治療をうけていない可能性が示されているとTrimble氏は付け加えた。

またDCTDには、臓器不全のような問題がある患者について、新しく開発された化学療法剤を検証するプログラムがある。「新しい薬剤が臨床試験で使用されたり、標準療法になれば、併存疾患を持った患者への投薬に関して情報が得られるでしょう」とTrimble氏は語った。

癌看護協会が高齢患者の看護のため新たな訓練を始める癌看護協会(Oncology Nursing Society, ONS)は、癌専門看護師のために高齢患者に関する新たな研修プログラムを現在開発していると、同協会の教育ディレクターMichelle Galioto氏はいう。この研修プログラムは、全米の老年腫瘍学と高齢者看護の専門家が結集したチームが開発を行っており、他の専門家による見直しを経て必要に応じて改善されると同氏は説明した。プログラムは今年後半から一部の地域で開始される予定であり、以下の項目を網羅することになる。
・高齢者における正常な変化と病的変化
・高齢者における癌と癌治療による副作用の違い
・疾患症状と治療の副作用を管理する方法
・心理社会学的検討事項
・患者と家族の教育

–—Carmen Phillips

次号NCIキャンサーブレティンは、4月17〜21日に開かれる101回米国癌学会(AACR:The American Association for Cancer Research)年次総会ハイライトをお届けします。

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岡田 章代 訳
*枠囲み記事(下部)市中 芳江 訳
林 正樹(血液・腫瘍内科医/敬愛会中頭病院)監修

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