2010/05/18号◆癌研究ハイライト

同号原文
NCI Cancer Bulletin 2010年5月18日臨床試験登録特別号(Volume 7 / Number 10)


日経BP「癌Experts」にもPDF掲載中〜

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癌研究ハイライト

・携帯電話の使用によって総体的な脳腫瘍のリスクは上昇しないことが研究で判明
・米国での癌医療費が過去20年間で2倍に(翻訳略)
・米国の肝臓癌症例は2006年も連続して増加
・抗VEGF療法で治療した癌患者の高血圧をモニターすべきとの報告
携帯電話の使用によって総体的な脳腫瘍のリスクは上昇しないことが研究で判明

大規模な国際研究から、携帯電話使用者において2つのタイプの脳腫瘍のリスクは総体的に上昇しないことが判明した。その症例対照インターフォン研究では、13カ国5,000人以上の神経膠腫もしくは髄膜腫患者および対応比較群を対象に、携帯電話使用に関するデータを解析した。

通話回数、使用時間、携帯電話使用開始後の期間の増加に従って結果を解析したが、総体的なリスクが高まるとのエビデンスは認められなかった。使用頻度の高いごく一部の患者においては神経膠腫のリスク増大が認められたが、決定的なものではなかった。

「インターフォン研究のデータで脳腫瘍のリスク増加は実証されない」と今回の研究を調整した国際がん研究機関のDr. Christopher Wild氏は述べた。しかしながら、使用頻度の高い患者に関する結果および使用パターンが特に若者の間で変化し続けていることから、さらなる調査が必要であると言及した。

5月18日付のInternational Journal of Epidemiology誌電子版に掲載された試験結果は、携帯電話と悪性もしくは良性脳腫瘍に関してこれまで発表された報告の大部分と一致している。しかしながら、今回の研究ほど多数の、携帯電話の使用歴、特に長期間かつ頻度の高い使用歴を有する脳腫瘍および中枢神経系癌患者が含まれている研究は過去にない。

「インターフォン研究は、当面、携帯電話と脳腫瘍および中枢神経系癌のリスクに関する最も信頼のおける研究となるだろう」と米国国立癌研究所(NCI)癌疫学・遺伝学部門放射線疫学支部主任のDr. Martha S. Linet氏は述べた。同氏は、癌患者を対象に携帯電話の使用を研究する際の方法論的問題を理解しそれに対処するために尽力する試験担当医師らを称賛した。

研究では、30〜59歳で脳腫瘍を発症した患者が対象となった。Linet氏によると、数年以内には児童に関する何らかの結果が北欧の研究から明らかになると期待される。10〜24歳の人々を対象に携帯電話などの新たな通信技術およびその他の環境要因がもたらすリスクを評価する、MOBI-KIDSと呼ばれる研究の計画も進んでいる。

携帯電話は高周波エネルギーとして知られる電磁波の一種を放出するが、これが癌のリスクにどのように影響するかは明らかになっていない。携帯電話の使用は増え続けているが、携帯電話から人への高周波エネルギーの暴露は着実に減少してきた。その一因としては、技術が向上したこと、および携帯電話塔が多くなりそれによって使用者への高周波エネルギーの暴露量が減少していることが挙げられる。携帯電話が基地局アンテナから遠いほど、接続を維持するために必要となる電力レベルは高くなるためである。

Linet氏らは、携帯電話の使用が増加する間、米国における脳腫瘍の発生率をモニターしてきた。「携帯電話使用による癌のリスク増加があるとすれば予想されるような、脳腫瘍発生率の増加は認められなかった」と同氏は述べた。「これは公衆の健康に関する重要なメッセージである」(詳細については、NCIのCellular Telephone Use and Cancer Riskのファクトシートを参照のこと。)

米国の肝臓癌症例は2006年も連続して増加

米国疾病管理予防センター(CDC)Morbidity and Mortality Weekly Reportで5月7日に発表された解析によると、最も一般的な肝臓癌である肝細胞癌(HCC)の発生率は米国で上昇を続け、2001年から2006年まで年平均3.5%増加した。世界中のすべての癌のほぼ5分の1は、B型肝炎ウイルス(HBV)およびC型肝炎ウイルス(HCV)による慢性感染症を含む感染性病原体によって発生する。

米国の対象集団の約90%を網羅する45の癌登録(SEERデータベースおよびCDCの米国癌登録プログラム(National Program of Cancer Registries))から入手した対象集団データを用い、CDCの研究者らは、その期間中48,596症例のHCCを同定し、発生が人口100,000人当たり2.7症例から3.2症例に増加したことを明らかにした。

HCCにおける人種および民族的格差は根強く残っていた。アジア/太平洋諸島系は亜集団で最も高い発生率であったが(人口100,000人当たり7.8症例)、研究期間中その比率は増加しなかった。ヒスパニック系はそれに次ぐ高い発生率であり(5.7)、年当たり1.7%だけ増加した。対照的に、ヒスパニック系以外の発生率ははるかに低かったが(2.8)、年当たり3.6%と2倍の速さで増加した。アフリカ系アメリカ人はヒスパニック系よりもわずかに低い発生率であったが(4.2症例)、年当たり4.8%という最も速いスピードで増加した。白人はそれに次ぐ年当たり3.5%の速度で増加したが、発生率は最も低かった(2.6症例)。

「HCC患者の年齢および人種プロファイルは、慢性ウイルス性肝炎患者の人口統計学的特性を反映している」と付随論説の著者らは記した。「HCCのこのような傾向を食い止めるために、HBVもしくはHCVに慢性的に感染している患者に対するケアを伴うスクリーニングを含む、ウイルス性肝炎に関連するサービスの展開、B型肝炎撲滅のためのワクチンをベースとした方法の完全実施、および健康監視の強化が必要となる」。

抗VEGF療法で治療した癌患者の高血圧をモニターすべきとの報告

5月5日付Journal of the National Cancer Institute誌に掲載された勧告によると、ある種の抗血管新生剤による治療を受けた癌患者の血圧は、注意深くモニターし、治療前および治療中に管理される必要がある。その勧告は、NCIの癌治療・診断部門Investigational Drug Steering Committeeが招集した専門委員会によって作成された。

報告書では、腫瘍への血管成長の主な調節因子である、血管内皮増殖因子(VEGF)シグナル伝達経路を標的とする薬剤の使用について論じている。この薬物クラスで米国食品医薬品局(FDA)の承認を得た薬剤は、ベバシズマブ(アバスチン)、パゾパニブ(ボトリエント)、スニチニブ (スーテント)、およびソラフェニブ(ネクサバール)である。これらVEGFシグナル伝達経路阻害剤のすべてに心血管系の副作用、特に高血圧、が認められた、と委員長であるシカゴ大学のDr. Michael Maitland氏および彼の研究仲間は説明した。彼らは、その結果、「腫瘍専門医および心臓血管内科専門医は、延命の可能性がある抗癌剤ができる限り多くの患者に効果をもたらすためにはこれらの毒性作用の予防および管理が重要である、との認識を一層深めることになった」と記した。

勧告は、これらの薬剤の使用および開発に関する委員会の経験並びに現行の高血圧管理基準に加え、これらの薬剤による治療を受けた患者の高血圧に関する入手可能な公開データを基に作成された。審査に基づいて、委員会は、VEGFシグナル伝達経路阻害剤の投与を受ける患者は治療による心血管系の合併症に対する正式なリスク評価を受けること、いずれの療法による治療についてもその開始前に血圧をコントロールする努力を始める必要があること、並びに高血圧の積極的なモニターおよび管理は治療開始後も継続すること、と忠告した。

必要に応じて(例:高血圧関連症状があるもしくは血圧のコントロールが難しい場合)、高血圧をコントロールするためにVEGFシグナル伝達経路阻害剤による治療を一時的に中断もしくは投与量を減量してもよいと委員会は勧告した。それでもなお、これらの阻害剤の「耐えられる最高用量を患者に投与し続けるように努力するべきである」と忠告した。

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豊 訳
辻村 信一(獣医師・農学、メディカルライター)監修 

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翻訳担当者 

監修 辻村 信一(獣医師・農学、メディカルライター)

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