化学療法による聴覚障害(難聴)の過小評価と予防薬/オレゴン州立大学 | 海外がん医療情報リファレンス

化学療法による聴覚障害(難聴)の過小評価と予防薬/オレゴン州立大学

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化学療法による聴覚障害(難聴)の過小評価と予防薬/オレゴン州立大学

OHSU(Oregon Health & Science University)の研究、白金製剤性聴器毒性の小児における有病率を示す、しかし新規薬剤が予防をもたらす可能性

2005年12月8日 原文へ

ポートランド、オレゴン州 – Peter Johnson氏は、14歳までに脳腫瘍を克服し、肩の癌再発を免れた。しかし、彼の人生に大いなる困難をもたらすことになったのは、最後の腫瘍に対する治療であった。

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現在33歳に達したJohnson氏は、1986年以降、聴器毒性の影響に苦しんでいる。聴器毒性とは、カルボプラチンやより一般的であるシスプラチンなどの白金製剤を基にした化学療法剤が音波に対して反応し振動する内耳にある極めて小さな有毛細胞にダメージを与える状態である。この聴器毒性は、進行性で回復不可能な聴覚障害に至り、患者の生活の質の低下につながる。

脳腫瘍を除去する外科手術や集中放射線療法も受けたが、Johnson氏は、肩の腫瘍に対する化学療法の聴覚損失が最も大きな障害であった、と言う。

「難聴は困難である。」と、ポートランド在住のJohnson氏は言う。彼は、肩の腫瘍に対する化学療法終了約1年後の1986年に聴覚障害が発現し始めた。「癌を克服することは足の骨折とはわけが違うということを一般の人々が理解していないように思う。いったん足が回復するとほぼ通常通りに戻る。が、癌を克服した場合、後遺症が数多く存在し、それらの後遺症にただ気づく毎日である。」

Oregon Health & Science University(OHSU:オレゴン健康科学大学)の科学者らにとって、Johnson氏の経験は驚きではなかった。聴器毒性の発生頻度と重症度、発現における長期的影響が医学会により長い間過少報告されていたことを発見した新しい研究が雑誌Clinical Oncologyの最新号に掲載された。

研究では、患者における毒性を報告するために医師が使用するよく知られている分類体系である米国国立癌研究所のCommon Terminology Criteria for Adverse Events(CTCAE、有害事象共通用語基準)が、高周波の聴覚障害を考慮しておらず白金製剤で治療を受けた小児における聴器毒性の程度を誤って算出させていることを発見した。

その試験の目的は、「これは人々が考えるより一般的であり、われわれがこの問題を追跡調査する必要があることを人々に知らせるためである」とOHSUのDoernbecher Children’s Hospitalの小児聴覚学者であり、その試験の主執筆者でもあるKristy Gilmer Knight理学博士は述べた。

Knight博士は、医師らが聴器毒性から生じる聴覚障害の診断を試みる際の主な問題は、聴覚障害とはそれほど明確でない、ということであると述べた。「聴覚障害の現れ方は、子供達が全聴覚を損なうというわけではない。」と博士は述べた。「発現のしかたは微妙である。典型的な発現は、高周波の聴覚障害であるため、問題があるようには見えないことである。静かな部屋で一対一で会話をしているときは特にそうである。そして子供達が非常に小さい場合、言われたことを理解できないと訴えることはないだろう。」

そしてそれが小児に対する発育問題につながる可能性がある。約1,200人の最も軽度の聴覚障害を持つ小児の学業成績と社会的情緒的機能を評価した1998年の試験では、通常3パーセントであったのと比較して、37パーセントが少なくとも1学年留年した。それらの小児は、言動や行動力、ストレス、自発性や社会的支援に多くの問題があった。

OHSUの研究者らは、年齢が8ヵ月から23歳までの白金製剤の化学療法で治療を受けた67人の患者の聴覚を検査した。American Speech-Language-Hearing Association(ASHA、米国音声言語聴覚学会)の基準を用いた聴覚障害までの期間の特定と、聴器毒性の発現率と重症度における治療と患者特性の影響を割り出すためのデータ分析が行われた。

その試験によると、聴覚障害は患者の61パーセントで認められ、化学療法後平均135日で発現開始が認められた。このうち、シスプラチン治療を受けた小児55パーセント、シスプラチンの毒性が少ない誘導体であるカルボプラチン治療を受けた小児38パーセント、両剤で治療を受けた小児は84パーセントであった。骨肉腫、神経芽細胞腫、そしてJohnson氏が患った脳腫瘍の髄芽細胞腫の治療を受けた小児は、聴覚障害のより高い発現率が認められ重症度もより高度であった。

がしかし、研究者らは、多くのこれらの小児は無視されることになると言う。その試験では、ASHAの基準やCTCAEのグレード・スケールは、聴覚障害進行をどのように定義するかで類似してはいるが、多くの臨床試験の結果はしばしば聴覚障害は治療介入が必要であるとされるCTCAEグレード3の毒性や、人工内耳、および補足的な発話と言語の開発サービスが必要であるとされるグレード4の毒性にのみ照準をあてていることを発見した。その試験では、CTCAEとASHA基準の間の取り決めは「不十分」であると記している。

「慣習的に、多くの雑誌に発表された臨床試験では、CTCAE基準のグレード3と4の毒性を報告するのみである。」とその試験では示された。「聴覚障害の場合において、これはグレード1や2の聴器毒性は報告されず、その結果白金製剤による治療を受けた小児における聴器毒性の程度を過小評価している。われわれは、CTCAEグレード1と2の聴覚障害は、小児に著しく多く存在すると考えられるため、それらのグレードも考慮されるべきでありかつ報告されるべきであると考える。」その試験では、CTCAEグレード3、4のみを含んだ場合、検査を受けた患者の36パーセントは聴器毒性があるとして報告されなかったであろうことを発見した。

科学者らは、近い将来予防可能となる可能性が出てきたため、聴器毒性の意識を高めたいとしている。OHSU医学部神経学部の助教授であり、血液脳関門プログラム-化学療法の成分を腫瘍に送達させるために脳の自然防御システムを破る方法の研究-における研究者でもあるNancy Doolittle医学博士は、血液脳関門突破技術を用いて投与するカルボプラチン化学療法治療を受けた悪性脳腫瘍患者において、チオ硫酸ナトリウム(STS)が聴覚障害を減少させたことを示した。STSがカルボプラチン投与4時間後に投与された場合、聴器毒性は患者の84パーセントから29パーセントに減少した。

OHSU試験チームは、N-アセチルシステイン(NAC)と呼ばれる第二の癌化学療法保護薬候補の臨床試験のプロトコールを開発中である。その薬剤は、タイレノール中毒(*1)の人々の治療に一般的に使用され、2004年中頃に発表された試験では、ラットにおいて白金製剤誘発性の聴器毒性を予防した。NACはシスプラチンの白金分子と結合し不活性化することにより聴覚障害を予防する可能性がある。フリーラジカル捕捉剤として、NACは、騒音外傷により生じた聴覚障害と類似する聴覚障害を引き起こすと考えられている極めて反応性に富む原子集団を追跡して捕らえる。

主な目的は、ヒトにおけるNACの安全な耐量を確定することにある。いったん安全な投与量が確定されれば、NACとSTSを併用し聴覚を保護するか否か検討する第Ⅱ相有効性検討試験も開始される。

「生存率を改善する戦略の一つは、化学療法の投与量を増量することである。」とDoolittle博士は述べた。「というのも、高用量ではより高い毒性が生じる。われわれは毒性について取り組まなければならない。聴覚を維持することで生活の質を維持するのは非常に重要である。」

自身の聴覚を損ないながらもJohnson氏は、他の癌克服者の聴覚障害を予防できるSTSやNACなどの薬剤に期待をかける。Johnson氏はまた、自分と同じ聴覚障害を経験している他者を代弁するために自身の法律の学位や法律司書と法律家補助員としての経験を生かしたいと願う。その聴覚障害によってJohnson氏は、読唇術を学ぶことや字幕でテレビや映画を楽しむことを強いられ、電話がかかるたび恐怖を感じなければならない。そして最終的には人工内耳を右耳に装着する必要があるのだ。

「実際問題として、私は他の人と同様の仕事の質を生産できますが、私は30分時間を多めに必要とするのです。」と、放射線治療と化学療法の結果として失読症を発現したJohnson氏は言う。「実社会では処理されなければならないことに30分余計な時間を与えようとしないのが通常ですが。」とJohnson氏の職業上の実績において、同氏は指摘する。

その他の試験の共同著者は、オレゴン州立大学薬局実務学部助教授Dale Kraemer博士、OHSU医科大学とポートランド退役軍人メディカル・センターの神経学部と脳外科学部教授であり、OHSU血液脳関門プログラムのディレクターでもあるEdward Neuwelt医師。その試験は、National Institute of Neurological Disorders and Stroke(国立神経障害・脳卒中研究所)、米国国立衛生研究所、米国退役軍人局により資金援助が行われた。

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Neuwelt医師、OHSU、ポートランド退役軍人メディカル・センター、退役軍人局は、この研究結果と技術から得られる商業的利益を生み出す可能性のあるAdherexという企業のかなりの株式を所有する。この潜在的な利益問題が検討され、OHSUのIntegrity Program Oversight Councilとポートランド退役軍人メディカル・センターの利害問題調査委員会により承認されたマネージメント・プランが実行された。

(ウルフ 訳・野中希 編集)



参考:*1 アセトアミノフェン中毒解毒剤アセチルシステイン

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