乳がん治療と心血管疾患リスク上昇を関連づける大規模研究

乳がんサバイバーと主治医に、心臓の健康状態を観察するよう研究者らは促す

一般的な乳がん治療のうち特定の治療を受けている患者では、心臓発作、脳卒中、心不全、その他の心血管イベント、そして死亡のリスクが高い可能性があることが、Journal of Clinical Oncology誌に掲載された新しい研究によって示された。

治療効果の向上によって多くの女性が乳がんを克服しているにもかかわらず、抗がん治療と心血管イベント増加とが関連しているということは、ただちにそのメカニズムと毒性についての理解を深め、乳がんサバイバーの心血管の健康を守る臨床戦略の開発に集中的に取り組む必要があることを意味する、と著者らは述べている。

「乳がんサバイバーの女性は、包括的で継続的な経過観察や診察と同時に心血管リスクのモニタリングを受ける必要があり、研究者や医師はリスクを低減するための研究を優先的に行う必要があるという認識を高めたいのです」と、JCO論文の筆頭著者でフレッド・ハッチンソンがん研究センターの公衆衛生研究者であるHeather Greenlee医師は述べている。

Greenlee氏は、上席著者でカイザーパーマネンテ北カリフォルニア研究部門の研究員であるMarilyn Kwan医師とともに、乳がん治療と心血管危険因子発現との関連についての新しい研究も主導しており、この研究もまたJCO誌に掲載された。

「この論文は、抗がん治療と心血管疾患のリスクそのものとの関連について、新たな一歩を踏み出す報告となりました」とKwan氏は述べている。「米国女性の主要な死因である心血管疾患は、乳がんサバイバーの健康上の大きな懸念として浮上してきています」。

多くの乳がん治療が心臓組織に対して毒性をもつことは知られているが、その根本的なメカニズムや関与していると思われる他の要因、あるいはそれらに対処する方法についてはほとんど分かっていない。この分野の研究のほとんどは1種類の乳がん治療と少人数の患者に注目したものだったが、KPNCで進行中の前向き研究Pathways Heart Studyの一部であるこの研究では、乳がん女性13,642人と乳がんでない女性68,202人が解析の対象となった。両群の年齢、人種、民族構成はほぼ同じで、フォローアップ期間は最長14年、平均は7年だった。Pathways Heart Studyは、米国国立がん研究所から資金提供を受けている。

KPNCの電子カルテのデータを用いて、研究者らは、乳がんでない女性と比較して乳がんサバイバーに発症するリスクの高い心血管疾患の種類は、受けた特定の治療や治療の組み合わせによって異なることを発見した。これらの治療には化学療法、ホルモン療法、放射線療法など、一般的に用いられる治療が含まれる。

化学療法については、アドリアマイシン(ドキソルビシン)などのアントラサイクリン系薬剤とモノクローナル抗体製剤のトラスツズマブ(販売名:ハーセプチン)に注目した。どちらも乳がん治療に広く使用されており、心毒性があることでも知られている。放射線治療については、体の左右側どちらに照射を行った場合でも解析の対象としたが、特に心臓病のリスクが高いとされる左側への照射に注目した。ホルモン療法は、アロマターゼ阻害剤投与群とタモキシフェン投与群に分けて解析が行われた。この2つの療法は、エストロゲンによる乳がん増殖促進作用を抑える働きが異なり、心血管系への影響も異なるからである。

結果として:

・アントラサイクリン系薬剤とトラスツズマブの一方または両方の投与を受けた女性は、乳がんの既往がない女性と比較して、心不全または心筋症のリスクが高いことが示された。最も高リスクだったのは、両方の薬剤を投与された患者だった。

・放射線療法とアロマターゼ阻害剤を併用した女性もまた、乳がんの既往がない女性と比較して、心不全または心筋症のリスクが高いことが示された。

・リスクの程度は治療法によって異なるが、乳がん治療を受けた女性は、乳がん歴のない女性と比較して、脳卒中、不整脈、心停止、静脈血栓塞栓症(深部静脈の血栓)、心疾患関連死、および全死因による死亡のリスクが高いことがわかった。

今回の解析では、異なる治療法の併用、薬剤の投与量、治療期間についての調査は行われなかったが、今後の研究でこれらの詳細についても取り上げていくという。

「米国には現在、380万人以上の乳がんサバイバーが存在し、その数は急速に増加しています。しかし、治療法の進歩により乳がん患者の寿命が延びる一方で、サバイバーたちは心臓病という新たなリスクに直面しています。この研究は、がん治療が心血管の健康に及ぼす影響を認識する上で重要なステップではありますが、病気に至るメカニズムを理解し、患者さんを守るための新しい戦略を開発するには、さらに多くの研究が必要です」と、シアトル・キャンサーケア・アライアンスで治療を行う乳がん専門医のJennifer Specht医師は述べている。

Fred Hutchinson Cancer Research Center、ワシントン大学医学部、Seattle Cancer Care Alliance、Kaiser Permanente Northern California(オークランド)、Oakland Medical Center(カリフォルニア)、Walnut Creek Medical Center(カリフォルニア)、Xiamen University(中国)、コロンビア大学Irving Medical Center(ニューヨーク)からの追加執筆者がこの論文に貢献した。

本研究は、国立衛生研究所、国立がん研究所、 R01CA214057 および U01CA195565 の支援を受けて行われた。

研究者は、追加の免責事項や潜在的な利益相反はないことを宣言している。

日本語監修 :小坂泰二郎(乳腺外科・化学療法/医療社会法人 石川記念会 HITO病院)

翻訳担当者 岩佐薫子

原文を見る

原文掲載日 

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

乳がんに関連する記事

HER2陰性進行乳がんにエンチノスタット+免疫療法薬が有望の画像

HER2陰性進行乳がんにエンチノスタット+免疫療法薬が有望

ジョンズホプキンス大学ジョンズホプキンス大学キンメルがんセンターの研究者らによる新たな研究によると、新規の3剤併用療法がHER2陰性進行乳がん患者において顕著な奏効を示した。この治療で...
英国、BRCA陽性の進行乳がんに初の標的薬タラゾパリブの画像

英国、BRCA陽性の進行乳がんに初の標的薬タラゾパリブ

キャンサーリサーチUKタラゾパリブ(販売名:ターゼナ(Talzenna))が、英国国立医療技術評価機構(NICE)による推奨を受け、国民保健サービス(NHS)がBRCA遺伝子変異による...
乳がん術後3年以降にマンモグラフィの頻度を減らせる可能性の画像

乳がん術後3年以降にマンモグラフィの頻度を減らせる可能性

米国がん学会(AACR)  サンアントニオ乳癌シンポジウム(SABCS)50歳以上で、初期乳がんの根治手術から3年経過後マンモグラフィを受ける頻度を段階的に減らした女性が、毎年マンモグ...
早期乳がんにリボシクリブとホルモン療法の併用は転帰を改善:SABCSの画像

早期乳がんにリボシクリブとホルモン療法の併用は転帰を改善:SABCS

MDアンダーソンがんセンターアブストラクト:GA03-03

Ribociclib[リボシクリブ](販売名:Kisqali[キスカリ])とホルモン療法の併用による標的治療は、再発リスクのあ...