大腸がんへのパニツムマブ併用療法が10年ぶりに全生存期間を延長

ASCOの見解

「切除不能進行再発大腸がんに対する一次治療を前向きに検証した第3相試験で、これまでで最長の生存期間が認められました。これらの知見は、進行再発大腸がん診断時に、RAS遺伝子を含む包括的なバイオマーカーと併せて、原発巣占居部位を考慮することの重要性を強調しています」と、ASCOの消化器がん専門家であるCathy Eng医師は述べる。

パニツムマブ(販売名:ベクティビックス)と標準化学療法レジメンmFOLFOX6の併用は、モノクローナル抗体ベバシズマブ(販売名:アバスチン)とmFOLFOX6の併用と比較して、RAS遺伝子野生型で原発巣占居部位が左側である進行再発大腸がん患者の全生存期間を有意に延長した。この試験結果が、米国臨床腫瘍学会年次総会2022(ASCO22)で発表される。

【試験要旨】

目的
進行再発性大腸がんに対する治療に抗EGFRモノクローナル抗体パニツムマブを追加する有用性の検討

対象者
RAS遺伝子野生型進行再発大腸がん患者823人。うち604人は脾弯曲、下行結腸、S状結腸、直腸に多くみられる左側大腸がん、その他は右側大腸がん。

結果
追跡期間中央値は61カ月であった。左側大腸がんの転帰は以下の通り。
・全生存期間(OS)は、パニツムマブ投与群とベバシズマブ投与群でそれぞれ37.9カ月と34.3カ月で、死亡リスクが18%低下した。
・無増悪生存期間(PFS)、すなわち、がんが進行しなかった期間は13.7カ月対13.2カ月で、両群に統計学的に有意な差は認められなかった。
・治療後にがんが縮小・消滅する割合である奏効率(RR)、残存腫瘍が認められないことを示す治癒切除率(R0)は、いずれもベバシズマブよりパニツムマブの方が高い。
・右側大腸がんのOSについては、パニツムマブはベバシズマブと比較して、統計学的に有意な差は認められなかった。

意義
パニツムマブは、ベバシズマブとmFOLFOX6の併用療法に対して生存期間を有意に延長し、この種の大腸がんに対する第一選択となる併用療法を確立した。パニツムマブとmFOLFOX6の併用療法における全生存期間は、切除不能進行転移大腸がんに対する前向き第3相臨床試験において、過去最長の生存期間を示した。

主な知見
RAS遺伝子野生型(RAS遺伝子に変異がない)進行再発左側大腸がん患者における生存期間が、パニツムマブ投与群では37.9カ月だったのに対し、ベバシズマブ投与群では34.3カ月であり、死亡リスクが18%低下した。腫瘍の大きさが安定・縮小している期間である無増悪生存期間は、それぞれ13.7カ月と13.2カ月で、両群で統計学的な有意差は確認されなかった。また、治療後にがんが縮小・消滅する割合を示す奏効率、残存腫瘍がないことを示す治癒切除率は、いずれもパニツムマブがベバシズマブよりも高かった。右側大腸がんのOSについては、パニツムマブとベバシズマブの間に統計的な有意差は認められなかった。

有害事象については、過去に報告された有害事象と同様の内容であった。

「本試験は、遺伝子検査でRAS遺伝子野生型であることが判明した場合、左側大腸がん患者さんに対するパニツムマブとmFOLFOX6化学療法による一次治療が、ベバシズマブとmFOLFOX6化学療法による一次治療より優れていることを示しました」と、国立がん研究センター東病院副院長・消化器内科長の吉野隆行医師は述べる。「長い間、進行再発大腸がん治療において、ある時点で治療を受けるのであれば、治療の順序による差はないと考えられてきました。しかし、本試験の結果は、それを覆すものです」。

米国では、2022年に151,030人の成人が大腸がんと診断されると推定されている。がんの遠隔転移が認められた場合、5年生存率は15%と推定されている。大腸がん患者のうち約22%に、診断時に遠隔転移が認められる。

パニツムマブは、2006年に米国食品医薬品局(FDA)にRAS遺伝子野生型(RAS遺伝子に変異がない)大腸がんに対する治療薬として承認された、上皮成長因子受容体(EGFR)を標的とするヒト型モノクローナル抗体薬である。ベバシズマブは、ヒト血管内皮増殖因子(VEGF)に対するモノクローナル抗体薬である。mFOLFOX6(mはmodified「修正」の略)は、フルオロウラシル、オキサリプラチン、レボホリナートを併用する化学療法レジメンである。

この10年間、診断時にRAS遺伝子野生型で遠隔転移を有する大腸がんに対して、標準治療を超える効果を示す新薬は出てこなかった。これまでに行われてきた 抗EGFR抗体薬とベバシズマブを比較する後ろ向き研究において、一貫性のある結果は確認されなかった。しかし、PARADIGM試験は、パニツムマブの有効性および原発巣占居部位の影響を前向きに評価したランダム化比較試験としては最大規模である。本試験の結果は、大腸がんの原発巣占居部位が治療決定に影響を与える可能性があり、遺伝子検査と併せて標準的な疾患評価の一部とすべきであることを示唆した。

【試験について】

2015年5月から2017年6月にかけて、PARADIGM第3相臨床試験に参加した日本国内の患者823人が、2つの治療群のいずれかに無作為に割り付けられた。追跡期間は61カ月間(中央値)であった。両群ともmFOLFOX6が投与され、パニツムマブ投与を受けた患者が400人、ベバシズマブ投与を受けた患者が402人であった。総患者802人のうち、左側原発大腸がん患者は614人であった。主要評価項目は全生存期間、主な副次的評価項目は、無増悪生存期間、奏効率、治癒切除率であった。

左側大腸がんは、脾弯曲(脾臓の近くで結腸が曲がっている部分)、下行結腸、S状結腸、直腸が原発巣である。右側大腸がんは、盲腸、上行結腸、肝湾曲、横行結腸が原発巣である。

PARADIGM試験は、武田薬品工業株式会社日本オンコロジー事業部メディカルアフェアーズの資金提供により実施された。

【次のステップ】

治療前と治療後の患者から採取した750個のDNAサンプルをもとに大規模なバイオマーカー解析を実施する予定である。パニツムマブおよびベバシズマブに対する耐性メカニズムを解明するとともに、より優れた予測バイオマーカーを模索していく。

日本語記事監修 :野長瀬祥兼(腫瘍内科/市立岸和田市民病院)

翻訳担当者 為石万里子

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原文掲載日 

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