従来の事前指示書はアドバンスケアプランニングの妨げになる可能性

終末期ケアに関する事前指示書の作成のみに焦点を合わせると、患者が臨床医とケアの目標について話し合う妨げになる可能性があることが、最新の米国の質的研究で示唆された。

都市部の2つの大学病院のいずれかを退院した地域在住の成人20人を対象として半構造化インタビューが行われ、患者の多くが事前指示書を臨床医ではなく弁護士と作成しており、事前指示書の詳細を覚えていない場合も多かったとの結果が研究者らによりJAMA Internal Medicine(米国医師会雑誌)で報告された。

「事前指示書が、よりよい終末期ケアを提供する手段としては不完全であることは、かなり以前から知られています」とCatherine Auriemma博士(フィラデルフィア、ペンシルバニア大学緩和・先進医療研究センター)は述べている。

「本研究で得られたまったく新しい発見とは、事前指示書は不完全であるだけでなく、実際に患者に害を及ぼす可能性があるということです。それは過信を生じさせるとともに、質の高いアドバンスケアプランニングが促進するであろう、困難ではあるが必要な対話をうかつにも患者に思いとどまらせることもあるからです」。

Auriemma博士は、事前指示書を廃止するべきだと提案しているのではない。

「私たちは事前指示書という成果物からその作成プロセスへと焦点を移す必要があります」と同氏は、ロイター ヘルスに電子メールで語っている。「事前指示書の作成において法律用語から離れ、患者がマイペースで目標や価値観を熟考できるよう手助けする、prepareforyourcare.orgやourcarewishes.orgのような、本当に素晴らしい革新的な試みが導入されています」。

「それらのプログラムは、遺産分割協議書に含まれる従来の事前指示書よりは確かに改善されているが、それでもある時点での選択を誘引する傾向があり、患者や代理意思決定者が将来直面する可能性のあるすべての決定事項をカバーすることは不可能です」とAuriemma博士は述べる。「私たちは、患者とその家族が将来の意思決定のためにより良い準備ができるような介入方法を開発し、促進することに重点を移す必要があります」。

Auriemma博士らは、この現状をより詳しく考察するために半構造化インタビューによる質的研究を行った。研究対象は、がん、心不全、肺疾患などの慢性疾患で入院し、インタビュー前に退院した65歳以上の英語圏の成人20人で、インタビューは電話で行われ、人口統計学的情報は参加者の自己申告によるものであった。

研究者らは、まず29人の患者を登録した。年齢の中央値は72歳で、約半数が女性で、約半数は白人以外であった。Auriemma博士らは、事前指示書をすでに完成させたと報告した20人に焦点を当てた。

概して、参加者が完成させた事前指示書は、一般的な書式で、詳細についてはほとんど記載されていなかった。多くの場合、事前指示書は、臨床医や家族ではなく弁護士の助けを借りて記入されていた。総じて、参加者は事前指示書の詳細を思い出すことができず、事前指示書を完成させた後にその内容を再検討したとの報告もなかった。

参加者は、臨床医や家族とケアの目標について話し合わない、または、話し合いを必要としない理由として事前指示書の存在を挙げている。

この新たな研究は、「アドバンスケアプランを完了したり、事前指示書を完成させたりしても、その目標が達成されないことが多いことを示す」過去30年にわたる研究成果を裏付けるものであるとSean Morrison医師(ニューヨーク市、マウントサイナイ大学アイカーン医学部老年医学・緩和ケア学科教授兼学科長)は言う。「さらに言えば事前指示書は、終末期に受けるケアや患者の選択に合ったケアに影響を与えることも、意思決定や意思決定プロセスを改善することも、ケアの質や生活の質を改善することもありません」と同博士は述べている。

「この論文は、従来の事前指示書や従来のアドバンスケアプランニングは、その目的を達成できないばかりか、実際には人生の終わりにおける適切な意思決定を妨げていることを証明しています」と、同博士はロイター ヘルスに電話で語っている。

どうすべきか

「仮説に基づいた対話ではなく、実際に病気を経験している人々との真の対話が必要です」と、この研究に携わっていないMorrison博士は述べている。「10年後、20年後にどうするかについてではなく、まさに今どうするかについて決定すべきです」。

「私が提唱するのは、誰もが自分で意思決定ができなくなったときに意思決定を任せられる医療代理人を指定することです」と同博士は述べた。「私たちは、どのように代理人の意思決定を手助けできるのか、患者はどのような情報を必要としているのか、患者はどのような結果を目指しているのかを今、問うべきです」。

多くのアメリカ人が事前指示書やアドバンスケアプランニングの話し合いは必要ないと思っていることは明らかだとMorrison博士は述べている。

「アドバンスケアプランニングの議論に参加している人の数を見てください」と同博士は言う。「40%より高くなったことはありません。大多数はそのプロセスが役に立つとは思っていないのです」。

「未来はとても複雑で、予測不可能です」とMorrison博士は言う。「患者の多くは、意思決定はそれが必要な時に信頼できる意思決定者によって入手可能な情報に基づいてなされることを望んでいると私は理解しています。私たちは、意思決定者が最終決定を下すのにどのような情報が必要なのか、どのように意思決定者をサポートし、どのように導くのが最善なのかを考えることに重点を置くべきです」。

出典: https://bit.ly/3ETduGQ JAMA Internal Medicine誌 オンライン版 2022年4月25日

翻訳担当者 山口 みどり

監修 佐藤恭子(緩和ケア内科/川崎市井田病院)

原文掲載日 

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