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肺がん術前化学療法+ニボルマブ免疫療法により治療成績が向上

≪研究共著兼監修者注はこちら≫ 

世界のがん死亡原因で第1位の手術可能な非小細胞肺がん(NSCLC)患者に対し、手術前化学療法(ネオアジュバント)に免疫療法薬のニボルマブ(製品名:オプジーボ)を追加することで、がんの再発または死亡リスクが1/3以上減少したことが、第3相CheckMate-816試験の結果で明らかになった。さらにこの療法で、病理学的完全奏効(腫瘍摘出時に生存しているがんが残存しないことを意味する)は、化学療法のみを受けた患者と比べて約12倍増加した。

  ジョンズホプキンス大学キンメルがんセンターとブルームバーグ・キンメルがん免疫療法研究所の研究者が主導した本臨床試験の結果、手術可能なNSCLC患者に対する免疫療法薬と化学療法薬の併用療法が、初めて米食品医薬品局(FDA)の承認を受けた。これは早期NSCLCに対するネオアジュバント免疫療法の初めてのFDA承認でもある。

画像はこちらを参照】画像説明文:根治手術前に肺腫瘍の大きさが70%縮小したことを示すAstroPathプラットフォームの多重免疫蛍光染色画像。この画像では、残存腫瘍はオレンジ色、抗腫瘍T細胞は黄色、マクロファージは赤紫色で示されている。出典:Alexander Szalay, Ph.D., Janis Taube, M.D., M.Sc., and the AstroPath team

この研究結果は、4月11日付のNew England Journal of Medicine誌オンライン版で報告された。また米国がん学会(AACR)の年次総会において、臨床試験プレナリーセッションでも同時に発表された。

 「この試験により、標準的なネオアジュバント化学療法にニボルマブを追加することで、がんの再発または死亡のリスクが3分の1以上減少することがわかりました。またこの療法は、より狭い範囲の切除で済み、出血を減らし、手術時間を短縮するなどで手術成績の向上とも関連しました」と、本試験の責任医師であるPatrick Forde氏(M.B.B.Ch. 同キンメルがんセンター上部気道・消化器がん部門の共同ディレクター、腫瘍学准教授、ブルームバーグ~キンメルがん免疫療法研究所准教授)は述べた。

  切除可能な肺がんの標準的な治療法は、手術による腫瘍の切除だとForde氏は言う。しかしほとんどの患者は手術後に肺がんが再発する。そうなると通常は治癒不能となる。シスプラチンやカルボプラチンなど、いわゆる白金製剤を手術前または手術後に投与する化学療法も、5年生存率をわずか5%しか改善しないと同医師は指摘する。

 「新たに診断されたステージ1-3のNSCLCに対し手術前に化学療法に加えることで、免疫療法が治療成績を本当に改善できることをはじめて示しました。この療法で再発率は40%近く減りました。つまりこの試験参加者で、肺がんで死亡する可能性が高かった人が、この療法で今や治癒した可能性があるのです」とForde氏は述べた。

 本試験では、ステージ1Bから3Aの切除可能なNSCLC患者358人を、白金製剤を含む2剤の化学療法を3サイクルという標準治療に、抗PD-1免疫療法薬ニボルマブを360ミリグラムを追加する群としない群にランダムに割りつけ、その後、手術を行った。化学療法のみを受けた患者では病理学的完全奏効率が2.2%だったのに対し、併用療法を受けた患者では病理学的完全奏効率が24%で、手術成績も良く、がんの再発・死亡のリスクも37%減少した。病期分類は、腫瘍の大きさと広がりに基づいて決定された。本試験におけるステージ1Bから3Aの腫瘍は、4cm以上であるか、または原発肺腫瘍に近いリンパ節に転移しているが、遠隔部位への転移はないものだった。

 病理学的完全奏効とは、手術後に肺腫瘍とリンパ節を検査した際に、生存腫瘍が残っていないことと定義した。病理レビューは盲検化されており、病理医は検体がどちらの群から採取されたものか知らなかった。このレビューは、皮膚科および病理学教授のJanis Taube医学博士(M.Sc.、皮膚病理学部長、ブルームバーグ・キンメルがん免疫療法研究所メンバー)が主導した。収集されたデータは、今後の肺がん臨床試験で重要な評価項目(エンドポイント)として、病理学的効果を使用する上での基礎となる可能性があると、Forde氏は述べた。

 今回の知見は、Forde氏と、同がん免疫療法研究所所長のDrew Pardoll医学博士、腫瘍学教授で上部気道・消化管プログラム共同ディレクターのJulie Brahmer医学博士が主導した2018年の小規模研究を基礎としたもの。この先行研究では、手術可能な腫瘍を有する21人の肺がん患者が対象で、患者は手術の4週間前までに2回のニボルマブ投与を受けた。その結果、9人の患者で腫瘍内の生存がん細胞の量が90%以上減少した。ジョンズホプキンス大学の分析では、患者の免疫系の一部であるT細胞が刺激されてがん細胞を認識し、死滅させたことが示された。これらの知見は、New England Journal of Medicine誌の2018年5月号に掲載された。

 「これまで治療が困難だったこの患者集団に新たな治療レジメンを追加できる期待に沸いています。この併用療法は、化学療法単独と比べても、全体的な毒性を増加させることも、手術を遅らせることもありません」と、本研究の共著者で同大学の心臓胸部レジデントプログラム副ディレクターで胸部外科医として肺がん患者の治療にあたっているStephen Broderick医学博士(M.P.H.S)は述べた。

 ジョンズホプキンスキンメルがんセンターとブルームバーグ・キンメルがん免疫療法研究所のFordeBroderickTaubeBrahmer各医師に加え、他の研究者は次の通りである:Jonathan Spicer, M.D., Ph.D., McGill University Health Center, Quebec, Canada; Shun Lu, M.D., Ph.D., Shanghai Jia Tong University, Shanghai, China; Marian Provencio, M.D., Ph.D., Hospital Universitario Peurta de Hierro, Madrid, Spain; Tetsuya Mitsudomi, M.D., Ph.D., Kindai University, Osaka-Sayama, Japan; Mark Awad, M.D., Ph.D., and Scot Swanson, M.D., the Dana Farber Cancer Institute, Boston, Massachusetts; Enriqueta Felip, M.D., Ph.D., Vall d’Hebron Institute of Oncology, Barcelona, Spain; Keith Kerr, M.B.Ch.B., F.R.C.Path., Aberdeen Royal Infirmary, Aberdeen, UK; Changli Wang, M.D., Ph.D., Tianjin Lung Cancer Center, Tianjin, China; Tudor-Eliade Ciuleanu, M.D., Ph.D., Institutul Oncologic, Cluj-Napoca, Romania; Gene Saylors, M.D., Charleston Oncology, Charleston, South Carolina; 田中文啓 M.D., Ph.D.(日本 北九州市 産業医科大学); Hiroyuki Ito, M.D., Ph.D. (日本 横浜市 神奈川がんセンター);  以下略

CheckMate-816試験は、Bristol Myers Squibb社の協賛を受けた。

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*研究共著 兼 監修者(田中文啓)注:今回の臨床試験の結果は、切除可能非小細胞肺癌の治療戦略を変える大きな意義のあるものです。非小細胞肺癌は、手術が可能であっても高頻度に術後に再発が生じます。このために手術前(ネオアジュバント)や手術後(アジュバント)に抗がん剤治療を行って手術成績を向上させる取り組みが行われてきましたが、その効果は限定的でした。今回の試験では、手術前の抗がん剤治療に免疫療法(抗PD-1抗体ニボルマブ)を加えることにより、手術成績が顕著に向上することが示されました。この数年、手術後(アジュバント)の治療として、免疫療法(抗PD-L1抗体アテゾリズマブ/IMpower010試験や抗PD-1抗体ペムブロリズマブ/KEYNOTE-091試験)やEGFR遺伝子変異陽性であればEGRF阻害剤(オシメルチニブ/ADAURA試験)の有効性を示す試験が相次いで報告されました。今後、これらをどのような患者さんに使用するかが臨床医にとっての大きな課題になると思います。

最後に、本CheckMate-816試験に治験の段階から参加し、ニボルマブ併用療法の有効性を示す大きなエビデンスつくりに貢献できたことをうれしく思います。本論文の共著者の一人として、本治療法によって一人でも多くの肺がん患者さんが救われることを願うばかりです。

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翻訳片瀬ケイ

監修田中文啓(呼吸器外科/産業医科大学 第二外科教授)

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