CAR-T細胞が固形がんにて安全で有効と示される

Cldn6抗原発現がん細胞を標的とするCAR-T細胞療法にmRNAワクチンを組み合わせる

固形がん患者に対する新しいキメラ抗原受容体(CAR)遺伝子導入T細胞(CAR-T)の単剤投与およびmRNAワクチンとの併用投与を検証する第1/2相臨床試験の予備データから、許容可能な安全性プロファイルおよび有効性の早期徴候が認められたと、 4月8日から13日まで開催された米国がん学会 (AACR)2022年次総会で発表された。

CAR-T細胞療法は造血器腫瘍の治療に変革をもたらしてきたが、固形がんへの適用は困難とされてきた。

オランダがん研究所(アムステルダム)の腫瘍内科医であり発表者のJohn Haanen医学博士は、「固形がん細胞に存在する標的となり得るタンパク質の多くが、正常細胞にも低レベルで存在します。したがって、CAR-T細胞をがん細胞に特異的に誘導し正常な細胞を残すことが難しいのです」と述べた。「その他の課題としては、固形がん内でのCAR-T細胞の残存期間が短いことと、CAR-T細胞の腫瘍局所への到達および腫瘍内への浸潤が困難であることが挙げられます」。

Haanen博士らは、さまざまな固形がんに広く発現するものの、正常な組織では発現が抑制されている、腫瘍特異的抗原CLDN6を標的として、すでに開発されていたCAR-T細胞製剤の安全性と予備的有効性を評価するために、初めてヒトを対象とした非盲検多施設臨床試験を行っている。本CAR-T細胞治療は、CAR-T細胞の増殖を促進するCLDN6をコード化したmRNAワクチン(CARVac)と併せて前臨床研究で検証された。Haanen博士が説明したように、BNT211と呼ばれる本併用療法は、投与するCAR-T細胞を増殖させて血中での残存性を高めたことにより、腫瘍細胞の殺傷能力を向上させた(Science誌)

研究者らは、CLDN6 CAR-T細胞療法単独およびCARVac併用療法を検証するため、再発・難治性CLDN6陽性の進行性固形がん患者を募集した。

本試験は2つのパートで構成されている。体内のT細胞数を減らし、投与するCAR-T細胞のための領域を確保するためにリンパ節除去を行った後、CLDN6 CAR-T細胞の投与量を増やす単独療法(パート1)およびCARVacとの併用療法(パート2)を実施した。パート2では、患者はCAR-T細胞移植後100日まで2〜3週間ごとにCARVac投与を受け、1人の患者は6週間ごとの投与を受けた。発表の時点で、全16人の患者が本治療を受けていた。

約40%の患者が、神経毒性の徴候を伴わないサイトカイン放出症候群を発症したが管理可能だった。その他の有害事象としては、細胞減少(血球減少)および異常な免疫反応が確認されたが、回復した。CARVac投与により、一過性のインフルエンザ様症状が最大24時間続いた。「CLDN6 CAR-T細胞療法およびCARVac併用療法は、どちらも管理可能な限定的な有害事象のみで安全であると思われます」とHaanen博士は話した。

有効性評価が可能であった14人の患者のうち、投与6週間の時点で、精巣がん患者4人と卵巣がん患者2人に部分奏効(PR)が認められ、全体の奏効率は約43%だった。部分奏効が認められた患者のうち、4人はCAR-T細胞単独、2人はCAR-TとCARVacの併用療法を受けた。病勢コントロール率は86%だった。評価可能な患者のうち、部分奏効が認められた患者において、投与後12週目に奏効の深化が観察された。うち1人に完全奏効が認められ、効果は6カ月間持続した。

「ほとんどの精巣がん患者が用量レベル2で臨床的有用性を示し、現在も完全奏効を維持する1人を含め、深い奏効が観察されたことは注目に値します」とHaanen博士は言った。

「CLDN6 CAR-T細胞療法は、単独またはCARVacとの併用でも安全であり、CLDN6陽性のがん患者さんにとって有望です」と、Haanen博士は付け加えた。「CLDN6を標的とした細胞療法はこれまでありませんでしたが、私達のアプローチは固形がんに対する他のCAR-T試験のデータに比べて優れていて、すでに有効であることを示唆しています」。

しかし、Haanen博士は、これらのデータは、治療を受けた患者はまだ少数であり、非常に初期段階での結果なので、現時点では、明確な結論は出せないと警告している。

本試験は、BioNTech SEの子会社であるBioNTech Cell & Gene Therapies GmbHがスポンサーとなり実施された。BioNTech社はオランダがん研究所に研究助成金を提供している。Haanen博士はBioNTechの科学諮問委員会のメンバーである。オランダがん研究所は金銭的な報酬を受け取っている。

翻訳担当者 為石万里子

監修 加藤恭郎(緩和医療、消化器外科/天理よろづ相談所病院 緩和ケア)

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