[ 記事 ]

慢性ストレスは乳がん患者の治療完遂率や生存率に影響を与える可能性

ストレスによる慢性的な生理的消耗(アロスタティック負荷)は、治療完遂率や全生存率の低下と関連する可能性があることが新たな研究により示された。また、アロスタティック負荷が、遺伝的素因よりも、化学療法の完遂や全生存期間の予測に優れていることも示唆された。

この研究結果は、10月6~8日にオンライン開催された、人種的/民族的マイノリティおよび十分に医療を受けられないがん患者における健康上の格差の科学に関する第14回AACR会議にて、オハイオ州立大学総合がんセンター アーサー・G・ジェームズがん病院、リチャード・J・ソロブ研究所(OSUCCC – James)のSamilia Obeng-Gyasi医師・公衆衛生学修士によって発表された。

アロスタティック負荷は、長年ストレス因子に曝露することにより身体が消耗、疲弊することであると科学的に定義される。ストレス因子とは、例えば社会的な孤立、貧困、人種差別などで、人種的/民族的マイノリティーで多く見られる。アロスタティック負荷の上昇は、高血圧、肥満度増加、腎臓疾患、関節炎、などさまざまな健康上の負荷に関連する。

「患者の行動や臨床結果は、社会的環境の影響と切り離すことはできません」と、腫瘍外科医であり、OSUCCC-Jamesトランスレーショナル治療研究プログラムメンバーのObeng-Gyasi氏は述べる。「アロスタティック負荷によって、社会的、環境的なストレス因子が患者の生理機能に及ぼす影響を評価できます」。

今回の研究で、Obeng-Gyasi氏およびECOG-ACRINがん研究グループの研究者らは、アロスタティック負荷と遺伝的素因(DNAで特定される)のどちらが患者の生存率と化学療法完遂率に影響を与えるかを解明しようとした。先行研究では、アロスタティック負荷と遺伝的素因が乳がんの予後不良に関与していることが示唆されていたが、ある一つの研究集団において両方の要因を同時に調べた研究はなかった。本試験は、リンパ節転移陽性または高リスクのリンパ節転移陰性HER2陰性乳がん患者に対し、アントラサイクリンとパクリタキセルの順次投与にベバシズマブを追加する術後治療を評価した臨床試験である、ECOG-ACRIN E5103の後ろ向きレビューである。

「試験開始時に、アロスタティック負荷が高い人は、化学療法を早期に中止する可能性が高く、死亡リスクも高いことが観察されました」とObeng-Gyasi氏は述べる。「一方、遺伝的素因と、生存率または化学療法完遂率との間には、関連性が認められませんでした。このことは、化学療法完遂率や全生存率を予測する上で、アロスタティック負荷が遺伝的素因よりも優れている可能性を示唆しています」。

研究者らは今後の研究のため、最初の大規模な乳がん治療試験の一つであるECOG-ACRIN E5103第3相臨床試験のデータを分析し、人口統計やDNAなどの患者情報に関してバイオリポジトリとデータベースを整理した。この試験は、リンパ節転移陽性または高リスクのリンパ節転移陰性HER2陰性乳がん患者を対象に、アントラサイクリン系およびパクリタキセルによる化学療法の順次投与にベバシズマブを追加する効果を検討したものである。

Obeng-Gyasi氏らは、E5103リポジトリのゲノム解析結果とその他患者情報を用いて、アロスタティック負荷で測定した慢性ストレスを、アフリカ系、ヨーロッパ系その他3つの大まかな遺伝的系統別に検討した。解析対象となった348人の患者のうち、約80%がヨーロッパ系、約10%がアフリカ系、約10%がその他の人種であった。

治療開始前に収集した心血管系、免疫系、代謝系のバイオマーカーを用いて、E5103試験の患者のアロスタティック負荷を測定した。バイオマーカーの例としては、肥満度、血圧、クレアチニン、いくつかのサイトカインなどであった。

遺伝的素因を調整した結果、アロスタティック負荷スコアが1ユニット増加するごとに、化学療法を完遂する可能性が15%減少し、死亡リスクが14%増加することがわかった。

Obeng-Gyasi氏は、「これらの結果は、慢性的な社会的、環境的ストレスに長期的にさらされていることが、乳がん患者の予後を悪くしている可能性を示唆しています」と述べている。

さらに研究を進めれば、アロスタティック負荷の測定は、どのような乳がん患者が早期に化学療法を中止したり、生存率が低下したりするリスクが高いかを予測するための有用なツールになるかもしれない、と同氏は説明する。「今後、アロスタティック負荷を繰り返し測定するプロスペクティブな臨床試験で、特に積極的な治療の段階や、治療後のケアの段階でアロスタティック負荷を何度も測定するような場合、治療や生存との関係についてより深い知見が得られる可能性があります」と同氏は付け加える。

本研究の限界は、解析対象が乳がん患者の一部に限られていることであり、したがって、この結果がすべての患者に当てはまるとは限らない。さらに、サンプルサイズが小さいことも限界であった。

本研究は、ECOG-ACRIN Cancer Research Groupが実施し、米国国立衛生研究所NCIの支援を受けている。内容は著者のみの責任であり、必ずしも米国国立衛生研究所の公式見解を示すものではない。Obeng-Gyasi氏は、利益相反のないことを宣言している。

 

翻訳平沢沙枝

監修下村昭彦(乳腺・腫瘍内科/国立国際医療研究センター 乳腺腫瘍内科)

原文を見る

原文掲載日

【免責事項】

当サイトの記事は情報提供を目的としてボランティアで翻訳・監修されています。
翻訳の記事内容や治療を推奨または保証するものではありません。

関連記事