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LGBTQ患者に対するがんケアの改善に向けて

英国には、LGBTQ+(レズビアン(lesbian)、ゲイ(gay)、バイセクシャル(bisexual)、トランスジェンダー(transgender)、クィア、クエスチョニング( queer or questioning)の総称)に属していると自認している人が約230万人います。これらの人々は、がんに関して検診から治療、終末期ケアに至るまで不平等を経験し続けます。

2019年のある研究で、外科以外のがん専門医にLGBTQ+患者に関する知識や態度を質問調査しました。その結果、大半の臨床医はLGBTQ+患者の治療に抵抗を感じていないものの、患者に対して日常的に性的指向(5%)、性自認(3%)、使ってほしい代名詞(「彼」または「彼女」)(2%)について尋ねる割合は低いことがわかりました。

こうした事項を診察や相談の一環として尋ねることは、LGBTQ+患者を受け入れる環境を作り、彼らのサポート体制や個々の医療ニーズをより明確に把握するために重要です。

回答者の4人に3人が、LGBTQ+医療に関する教育・研修の充実を求めており、68%の回答者が、LGBTQ+医療ニーズを卒後医療研修の必修項目にすべきだと答えています。

こうしたことから、Joint Collegiate Council for Oncology(腫瘍学合同評議会)とAssociation of Cancer Physicians(ACP:がん専門医学会)は、LGBTQ+の人々が直面している障壁と、彼らのケアの改善に必要な取り組みについて論じる声明を最近発表しました。

どうすればLGBTQ+の人々のがんケアを改善できるかについて、性自認の問題に特に関心を寄せる腫瘍内科医であり、上記声明の主執筆者であるAlison Berner医師にお話を伺いました。

LGBTQ+がん患者はどんな不平等に直面しているでしょうか?

LGBTQ+の人々は、検診や診断、臨床ケア、コミュニケーションなど、がんと向き合う生活のあらゆる局面で不平等を経験します。

「その原因の多くは、医療機関が教育や文化的な謙虚さを欠いているため、同一のケアが公平なケアであると思い込んでいることにあります」とBerner医師は言います。

LGBTQ+であるという社会的側面は、患者の経験にきわめて大きな影響を与えます。例えば、自分のパートナーを、友人でも親戚でもなくパートナーとして認めてもらうこと。これは単純で期待できることのように思えるかもしれませんが、いつもそうなるとは限りません。

「それがきっかけとなって患者と医療者の関係がもろくなることがあり、そこから起こる波及効果は私たちが計り知れないほど数多くあります」ともBerner医師は言います。例えば何か問題があっても患者はその医師に相談をしにくいということでしょうか。

「一般的にがんは心の健康や幸福感にのしかかる重荷となるものですが、患者の親密な人間関係をひそかに傷つけることでどれだけ負担を上乗せしていることでしょうか」。

克服すべき歴史的差別や烙印も多数あります。

現在、がんになるリスクが高い高齢者世代は、セクシュアリティや性自認に関するすべてを秘密にしなければならない時代を生きてきたので、彼らが医師に打ち明ける内容にも影響していることがあります。

また、LGBTQ+の患者たちが一つの均質グループではないことを認識する必要があります。人種やセクシュアリティなど、アイデンティティの複数の側面が重なり合うインターセクショナリティ(交差性)を特に考慮した、個人を中心としたアプローチが必要です。

黒人トランスジェンダー女性など、一部のグループは、他のLGBTQ+の人々と比較して過度の不平等を経験しています。また、トランスジェンダー患者の性関連がんの管理など、非常に特殊な問題を抱える患者グループもあります。

トランスジェンダーとノンバイナリー*の人々のためのがん検診

子宮頸がんと乳がんの検診は、トランスジェンダーやノンバイナリー*の人々にとっていくつかの障壁を伴います。

検診対象者に関する情報不足、検診案内が届かない、性別違和感などは、治療可能な早期段階でがんを発見できる検診の受診を妨げる障壁のほんの一例です。

トランスジェンダーおよびノンバイナリーの方のがん検診については、こちらをご覧ください。

*ノンバイナリー:(身体的な性に関係なく)自身の性自認・性表現に「男性」「女性」といった枠組みをあてはめようとしないセクシュアリティ

どうすればLGBTQ+患者ケアを改善できるでしょうか?

今回の声明を発表することは、重要なステップです。主要な医療機関がLGBTQ+の人々とそのケアについて認識しており、改善に取り組んでいることをLGBTQ+の人々が知ることは、誰をも歓迎し尊重する環境を作るために不可欠です。

「LGBTQ+の患者さんにとって、自分たちが大切な存在であり、そのケアについて医療機関で反映されていると見聞きすることは重要なことです。長い間、性的指向や性自認について話すことはタブーとされてきましたが、今では医療において考慮されるべき、個人のアイデンティティの一側面となっています」とBerner医師は言います。

では、LGBTQ+の人々のがん治療を改善するために次にすべきことは何でしょうか。

声明では、教育・研修、データ収集、研究、多様性尊重という4つの主要分野について記述しています。

教育は、医師がLGBTQ+患者特有のニーズを理解する上でのギャップを埋めるのに役立ちます。そして、こうした配慮事項をさらに理解するためには、研究および医療現場の構成人員における多様性を奨励することが求められます。

例えば、臨床試験のデザインや開発に医療従事者または患者としてLGBTQ+の人々を組み入れることは、LGBTQ+の人々にとって試験が包括的かつ快適なものであることを保証するために不可欠です。そうすれば、より多くのLGBTQ+の患者が試験に参加するようになり、その結果、そうした試験に基づいて出された推奨事項はいずれも、新しい治療法であれ働き方であれ、影響を受けると思われるすべての人々を包含するものとなる可能性が一層高くなります。

しかし、この問題を十分に理解していない限り、解決策の提案は容易なことではありません。

「LGBTQ+の人々ががん治療で不平等に直面していることは明らかですが、その全体像がまだわかっていないことが大きな障壁となっています」とBerner医師は言います。

医療データ、特にがん登録において、性的指向や性自認の記録が日常的に行われていないため、LGBTQ+患者のがんケアに関する質の高い、英国独自のデータを収集することは困難です。

患者は、不適切な質問や差別を恐れて、自分の性的指向や性自認を積極的に伝えようとはしないかもしれません。

医師は、このような情報を共有することのメリットについて患者に話すスキルと自信をもつことがきわめて重要です。

「質問をしなければ、何かを見落としているかどうかわかりませんし、その人の個性を尊重することは、個人を中心としたケアの鍵となります」とBerner医師は言います。

「こうした取り組みが起点となって、がん治療において個々の患者のニーズが優先される一大変革が起こり、真の個別化医療が実現し、LGBTQ+患者だけでなく、あらゆるマイノリティグループの治療成績が向上することを願っています」。

声明の全文は、The Royal College of Radiologistのウェブサイトでご覧いただけます。

翻訳山田登志子

監修前田梓(医学生物物理学/トロント大学)

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