【英国NICE】COVID-19迅速ガイドライン:放射線療法の実施

英国国立医療技術評価機構(NICE)ガイドライン[NG162]
 COVID-19迅速ガイドライン:放射線療法の実施 1~7
公開日: 2020年3月28日 最終更新: 2020年4月22日

ガイダンス
本ガイドラインの目的は、放射線治療を必要とする患者の安全性を最大限に高めてNHS(英国医療サービス)のリソースを最大限に活用しながら、医療スタッフの感染を防ぐことである。また、COVID-19パンデミックによって医療サービスが制限された場合に、患者の必要性に応じた放射線治療が受けられるよう調整を可能にする。

NICE(英国国立医療技術評価機構)は、「COVID-19迅速ガイドライン:がん化学療法の実施(日本語訳)」も作成している。

本ガイドラインは、COVID-19パンデミック期間に何を中止または開始するべきであるかに焦点を当てている。NICEガイドラインを用いて意思決定する(英語)場合には、同ガイドラインの記載に従い、通常の専門ガイドライン、基準および法規(平等、安全防護対策、対話、心理的負担など)と併用して行うこと。

本ガイドラインの対象者:
・医療・介護従事者
・医療サービスの企画・提供に携わる医療・介護スタッフ
・医療・介護施設責任者

本推奨事項でまとめられている項目:
・現行の英国および国際的指針、政策
・英国全土のNHSに勤務する専門家らの助言。ここでの専門家とは、現在のCOVID-19パンデミック期間に本ガイダンスの対象となる特定の健康状態にある患者の治療に専門知識と経験を有する人々を含む。

NICEは急速に変化する状況に直接対応してこれらの推奨事項を作成したため、ガイダンス作成における標準的なプロセスを踏むことができなかった。本ガイドライン作成には、COVID-19に関する迅速ガイドライン作成における臨時プロセスと手法(英語)を用いた。本推奨事項はエビデンスと専門家の意見に基づいており、可能な限り検証が続けられてきた。今後も知識ベースおよび専門家の経験が進展するに応じて推奨事項を見直して更新していく。

******

1.  患者との対話

1.1 患者との対話により心の健康を支援しながら、対応可能な慈善団体や支援団体(NHSのボランティアを含む)を案内して、COVID-19に対する不安や恐怖心を和らげるのを助ける。

1.2 対面での接触を最小限に抑える方法:
・可能な限り電話やビデオ相談を行う。
・不要な対面での経過観察を省き、治療の説明を最小限に抑える。
・治療薬の受け渡しには、郵送、NHSボランティア、あるいはドライブスルーでの受け取りなど代替手段を利用する。
・可能であれば、地域サービスを利用して血液検査を受ける。

1.3 体調不良を感じた場合は、NHS 111ではなくがん治療チームに連絡して、症状を適切に評価してもらうよう全患者に助言する。

1.4 現状況下でも医療サービスの利用が必要な患者には、社会的距離(英国各地で異なる)に関する英国政府ガイダンスの関連個所、または医学的理由でCOVID-19に対して極めて脆弱であるとみなされる人々の遮蔽および保護に関する英国政府のガイダンス(英語)に従うよう伝える。

2.  COVID-19と確認されていない患者

2.1 可能であれば、家族や介護者を伴わずに一人で受診し、感染または感染拡大のリスクを減らすよう患者に求める。

2.2 待合室での待ち時間を最小限に抑える方法:
・綿密な日程調整をする
・早く到着しないよう患者に言う
・患者が車内で待機できるように、診察の準備ができ次第、患者にメールを送る

3.  COVID-19と診断された、または疑われる患者

3.1 COVID-19と既に確認された、または疑われる患者に対しては、COVID-19という理由だけで放射線治療を中止してはならない。放射線治療を優先する際に考慮すべき点については、推奨7.1を参照(英語)。

3.2 COVID-19と既に確認された、または疑われる患者が特定された場合は、適切な感染予防と管理に関する英国政府のガイダンス(英語)に従う。これには、患者の移動、搬送、外来診療のオプションに関する推奨事項が含まれる。

3.3  COVID-19 と確認された、または疑われる患者の受け入れ、診察、看護に携わるすべての医療従事者は、感染予防と管理に関する英国政府のガイダンス(英語)に従わなくてはならない。これには、個人用保護具(PPE)の着脱の図解やクイックガイドなど、PPE使用に関する情報が含まれている。

4. 来院時にCOVID-19の症状がある患者

4.1 すべての患者に対して診察とトリアージを行い、COVID-19への感染の可能性、あるいはCOVID-19に感染している可能性がある人との接触の有無を確認する。

4.2 COVID-19と確認されていない、あるいは疑われていない患者が来院時に症状を示した場合、一般的にはCOVID-19の可能性例の調査と初期臨床管理に関する英国政府のガイダンス(英語)に従うことが推奨されている。これには、検査や患者の隔離に関する情報が含まれている。

4.3 特定のがんに対する放射線治療を受けている患者は免疫抑制状態であり得るため、COVID-19の非定型症状を呈する可能性があることに注意する。全身への抗がん治療を受けている患者については、全身への抗がん治療の実施に関するNICE(英国国立医療技術評価機構) COVID-19ガイドライン(英語)を参照。

4.4 放射線治療を受けて免疫が抑制されている患者で、発熱(呼吸器症状の有無にかかわらず)がある場合は、好中球減少性敗血症を疑う。好中球減少性敗血症に関するNICEガイドライン(英語)に従う。推奨事項は以下のとおり。
・好中球減少性敗血症が疑われる患者が二次または三次医療で診察を受けられるように直ちに紹介する。
・好中球減少性敗血症が疑われる場合には、急性救急救命事案として治療を行い、直ちに経験的な抗生物質治療法を施す。

4.5 入院や診察時に隔離されていない患者で、後にCOVID-19と診断された場合は、医療およびソーシャルケアの現場において暴露の可能性のあるスタッフおよび患者の管理に関する英国政府ガイダンス(英語)に従う。[2020年5月22日更新]

5. リスクを減らすために患者をグループ分けして分離

5.1 交差感染を最小限に抑えるために、設備や治療日程を設定し、見直し、患者のCOVID-19の状態に合わせて治療日程を決めることができるようにする。オプションは以下を含む。
・COVID-19と既に確認された、または疑われる患者に対しては、特定の時間帯に治療日程を調整する。
・COVID-19による重症化リスクが特に高い患者(肺がんの患者など)に対しては、COVID-19の患者とは別の時間に治療日程を調整する。

5.2 可能であれば、COVID-19の非感染患者と、感染患者もしくは感染が疑われる患者とで入口と設備を別々にする。

5.3 COVID-19の患者が使用したあらゆるエリアで必要な消毒が適切に実施できるように、治療日程を組む。

6.  自己隔離しているスタッフを含む、スタッフへの支援

6.1  医療従事者に自己隔離が必要な場合は、以下の方法で支援を継続できるようにする。
・電話やビデオによる相談や集学的チーム会議を可能にする
・遠隔での健康状態の監視と経過観察に適した患者、および支援が必要な脆弱な患者の特定
・遠隔で就業可能な業務に携わる。

6.2 自己隔離中のスタッフと可能な限り連絡を取り合い、精神面の健康を支援する。

6.3 すべてのスタッフに対して目に見える形でリーダーシップを発揮し、支援的なメッセージを発信しながら士気を維持する。

6.4 COVID-19対策のための地域計画を策定する際に、NHS(国民健康保険)Employersウェブサイト(英語)に掲載されている、良好な連携取り組みと考慮すべき問題点に関する情報にも配慮すること。

7.放射線治療における優先順位付け

7.1 放射線治療に優先順位をつけるならば、表1を参考に判断するとよい。

以下を考慮すること:
・最適ながん治療を受けられないリスクと、COVID-19による重症化リスクとの兼ね合い
・併存疾患やあらゆる免疫抑制リスクを含む、患者固有の危険因子
・限られた資源(人員、施設、麻酔、機器)による、提供可能なサービスの問題

表1 放射線治療の優先順位

優先度治療
1

治癒を目的とした根治的放射線治療または化学放射線療法(以下すべてに該当する場合):
・カテゴリー1(急速に増殖する)腫瘍を有する
・治療をすでに開始している
・治療間隔の空白を補う可能性がほとんどあるいはまったくない

組織内照射を併用した外照射放射線治療(以下すべてに該当する場合):     
・カテゴリー1(急速に増殖する)腫瘍を有する
・外照射放射線治療をすでに開始している

まだ始まっていない放射線治療(以下すべてに該当する場合):
・カテゴリー1(急速に増殖する)腫瘍を有する
・通常であれば、臨床上の治療の必要性や、現在のがん治療の待ち時間に基づいて治療が開始される予定である

2悪性疾患による脊髄圧迫があり、かつ救済可能な神経機能を有する患者への緊急緩和的放射線治療
3

カテゴリー2(悪性度の低い)腫瘍に対する根治的放射線治療
(放射線治療が治癒を目的とした初回治療である場合)

術後放射線治療:
・悪性度の高い腫瘍を有する
または
・手術を受けたが、残存病変を有する

4緩和的放射線治療(症状改善により、他の治療介入の必要性が減ると見込まれる)
5補助的放射線治療(以下全てに該当する場合):
・病変の完全切除
・10年後の局所再発リスクが20%未満
ネオアジュバントホルモン治療を受けている、前立腺がん患者に対する根治的放射線治療

表は、『急性期治療を必要とする非コロナウイルス患者の管理のための臨床ガイド: がん』英NHS(日本語訳)からの引用。

腫瘍カテゴリーの定義は、英国王立放射線学会の「予定外の治療中断の管理に関するガイダンス」(英語)を参照のこと。

7.2 生命または機能に対する差し迫った脅威がない限り、良性疾患への放射線治療は行わないこと。

7.3 集学的チーム業務の一環として優先順位の決定を行い、必ず各患者に対して個別に配慮すること。必ず各決定の背景にある理由を記録すること。

7.4 可能であれば文書を用いて、優先順位の決定とその理由を、患者、その家族、介護者に明確に伝えること。

8. 通常診療の変更

8.1 患者のCOVID-19への曝露を減らすために通常診療をどのように変更し、資源(人員、施設、麻酔、機器)を最大限に活用するかを考える。

8.2 各施設は、運用上の配信網の中で、標準的ながん治療における選択肢の変更について議論すべきである。これは、放射線治療技術が特定の場所で利用できない場合には、適切な経験を有するセンターと代わりの線量分割スケジュールや放射線治療技術について話し合うことが含まれる。

8.3 各施設は、その地域全体の収容能力の問題を管理するために、各施設の運用上の配信網やがん治療提携組織と連動すべきである。

8.4 組織レベルで通常診療の変更に関する方針決定を行う。

8.5 個々の患者の治療計画を変更する場合、
・患者の臨床状況を考慮に入れる。
・意思決定には、集学的チームの関係者全員を巻き込む。
・それぞれの決定の背景にある理由を記録する。

8.6 COVID-19のために治療を中断しなければならない場合は、英国王立放射線学会の「予定外の治療中断の管理に関するガイダンス」(英語)を利用して意思決定を行う。

8.7 RADS(Remote遠隔, Avoid回避, Defer延期, Shorten短縮)の原則を用いて、個々の患者の治療計画に役立てる。
・遠隔診療:対面ではなく、電話やビデオでの評価を行う。
・放射線治療の回避:有益性がほとんどない、あるいはまったくないことをエビデンスが示唆している場合や、代替治療が可能な場合は、放射線治療を避ける。
・放射線治療の延期:臨床的に適切であれば治療を延期する。放射線治療の優先順位については、表1を参照のこと。
・放射線治療の短縮:治療がやむを得ない場合は、最短で安全な治療法を用いる。

[RADSの原則は、Advances in Radiation Oncology誌 のSpratt D, Dess R他著によるProstate Cancer Radiotherapy Recommendations in Response to COVID-19 (2020)(近刊) からの許可を得て改変されている。]

8.8 英国王立放射線学会は、COVID-19パンデミック時のがん治療(低分割照射を含む)に関する資料集(英語)を作成した。

8.9 患者、その家族、介護者と一緒に、治療スケジュールを変更したり、治療を中断したりすることのリスクと利点について話し合う。

翻訳担当者 佐藤美奈子、水町美和、竹村ルミ子、青葉かお里

監修 小坂泰二郎(乳腺外科/社会医療法人石川記念会 HITO病院)

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原文掲載日 

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