薬剤リポジトリ・プログラム指針を提示―高額費用、入手、廃棄の課題を解決

米国臨床腫瘍学会(ASCO)は本日、州の薬剤リポジトリ・プログラムに関する意見表明をした。クローズドシステム内での管理を条件とする、経口薬のみに限定した薬剤リポジトリ・プログラムをASCOは支持するという内容である。ASCOはまた、これらのプログラムが適切に運用され、十分な患者保護策が講じられるよう指針を示した。

スローンケタリング記念がんセンターの研究者らにより、年間30億ドル近い額が抗がん剤廃棄で失われていることが判明している(脚注1)。ASCOメンバーが示す廃棄の例としては、薬剤給付管理会社が投与量または薬剤の種類を誤って送付する場合や、薬剤が患者自宅へ直接送られたものの、受け取った患者が服用する前に有効期限が切れている場合がある。がんに対する投薬ミスや使われない処方薬が出るたびに、医療システムの追加費用が発生するうえに、患者に必要な治療の開始が遅れたり中断したりすることもある。使われなかった薬剤をクローズドシステムで管理すれば、がん治療に不可欠な薬の費用を払う余裕のない患者が入手可能になる。

「腫瘍医の最優先事項は常に患者が適切な治療を適切な時期に受けられるようにすることです」とASCO会長のHoward A. “Skip” Burris III医師(FACP、FASCO)は言う。「残念ながら、がん患者の中には、彼らに必要なケアの前に大きな障壁が立ちはだかっている患者さんもいます。適切に運用される薬剤リポジトリ・プログラムがあれば、薬剤を受け取る人の安全を守りながら抗がん剤治療を低コストで提供する機会が増え、そうした患者さんを助けることができます」。

未使用の抗がん剤、必需品、および機器について、現在13の州で薬剤リポジトリ・プログラムが利用できる。これらのがん特化プログラムは、処方薬廃棄という問題の解決を目的としており、ASCOは、このようなプログラムの普及により、患者と医療費支払者の負担額が抑えられ、抗がん剤が高額であるために受けられない人々も治療を受けやすくなるうえ、外来診療で未使用となる薬剤の量を減らすことができると主張する。

ほとんどの薬剤リポジトリ・プログラムでは、規制薬物、期限切れの薬剤、不正加工、虚偽表示、劣化、なんらかの不備、不純物混入の徴候がみられる薬剤は除外される。また、同プログラムでは通常、調剤前に有資格専門員による点検を義務付けており、通例、薬剤の提供者および受領者に賠償責任を問わない。ただし、州のプログラムは、受け入れる薬剤の種類、寄付された薬剤を受け取る患者の適格基準などの項目に関して州によって異なる。ASCO意見表明に含まれる複数の詳細な表に、薬剤リポジトリの方針とプログラムに関する詳細情報が州別に示されている。

クローズドシステムとは、ある医療施設からの処方薬の引き渡しや返却が、患者ではなく医療関係者の監督と制御の元で管理されるシステムである。クローズドシステムでは、システムで明確に特定された者以外が該当の薬剤を取り扱うことはない。クローズド・ディストリビューション・システム内で運用される薬剤リポジトリ・プログラムは、未使用処方薬の返却に関する食品医薬品局(FDA)方針に準拠しており、受け取った使われなかった薬を安全で効果的かつ非公開の方法で管理し、処方医師の指示に従って調剤できるようにする(脚注2)。

州の薬剤リポジトリ・プログラムが適切に運用されるように、ASCOは次のように推奨する。

・こうした法律がない州は、参加者に対して賠償責任を問わないリポジトリ・プログラムを、各州の健康管理当局に従って実行するべきである。

・患者に対しては、彼らが受け取る薬が寄付された処方薬であることを適切に通知するべきである。

・ASCOおよび他の専門医療団体は、こうしたプログラムの存在と価値について医師に教えるよう努めるべきである。

・薬剤リポジトリ・プログラムの運用においては、メディケイド(米国公的保険)の標準薬局調剤報酬に基づく手数料を上回る追加費用が患者にかからないようにするべきである。

上記の提言は、抗がん剤の低価格化に関するASCOの2017年意見表明と、「がん患者が治療に不可欠な薬を処方され、その費用を支払えるようにする実用的政策による解決を支持、推進する」というASCO公約を支持するものである。さらにASCOは、「抗がん剤薬価に対するいかなる政策も、治療の受けやすさ、治療に不可欠な薬剤の低価格化、および創薬の革新を促進するものでなければならない」と考える。推奨される特定の政策提言に関わらず、決定的な価値で薬価決定の議論を下支えしなければならない」。

全文PDFは、こちら「薬剤リポジトリ・プログラムに関する米国臨床腫瘍学会(ASCO)の意見表明」(英文)。

1 Bach, Peter et al (2016), Overspending driven by oversized single dose vials of cancer drugs BMJ 2016; 352 doi: https://doi.org/10.1136/bmj.i788

2  Food and Drug Administration. Sec. 460.300 Return of Unused Prescription Drugs to Pharmacy Stock (CPG 7132.09)

翻訳担当者 山田登志子

監修 花岡秀樹(遺伝子解析/イルミナ株式会社)

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