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膵臓がん検診の推奨グレード(USPSTF)[2019年8月更新 最新版]

膵臓がん検診の推奨グレード(USPSTF)[2019年8月更新 最新版]

対象:成人
推奨グレード(詳細は、推奨グレードの定義参照)D(推奨しない)
推奨内容:米国予防医学専門委員会(USPSTF)は、無症状の成人に対する膵臓がん検診実施を推奨しない。

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根拠
米国予防医学専門委員会(USPSTF)は、明らかな徴候や症状のない患者に対して特定の予防的ケアが有効であるかどうか、推奨グレードを出している。

推奨グレードは予防的ケアの利益・不利益両方に関するエビデンスと、その2つのバランスの評価に基づいている。この評価を行うに際し、提供コストは考慮していない。

臨床的決定にはエビデンス以外も考慮されることをUSPSTFは認識している。臨床医は、エビデンスを理解したうえで、特定の患者や状況にあわせて個別に判断すべきである。同じように、政策や補償に関する決定では臨床的利益・不利益のエビデンス以外も考慮されることをUSPSTFは認識している。

議論
疾病負荷
膵臓がんの発症率は12.9症例/100,000人・年で、患者数は少ない。予後は不良で、5年生存率は9.3%である(備考1)。生存率を最も改善するであろう治療は早期の外科的介入であるが、膵臓がんは進行した段階で見つかることがほとんどで(備考1)、この段階で手術を行っても生存率の改善は望めない。2019年に膵臓がんと診断される人は56,770人、膵臓がんによって死亡する人は45,750人と推定されており、米国において、がんによる死亡の原因第3位となっている(備考1)。

評価の範囲
2004年に出した膵臓がん検診に関する推奨グレードをアップデートするため、USPSTFは調査を依頼し、膵臓がん検診の利益・不利益、膵臓がん検診方法の正確性、検診で見つかったか無症状の膵臓がんを治療することの利益・不利益に関する体系的な評価を行った(備考12,13)。USPSTFは、家族歴があって膵臓がんリスクが高い人に対する検診に関する研究も考慮に入れ、それらエビデンスが一般集団向け膵臓がん検診に関する推奨を伝えるのに役立つかを判断した。

検診の正確性
米国予防医学専門委員会(USPSTF)は、CTスキャン、MRI、超音波内視鏡(EUS)を膵臓がん検診に使用した場合の感度や特異度を報告した研究をみつけられなかった。

USPSTFは、膵臓がん検診に関する13件のコホート研究をみつけた。そのほとんどは家族歴があって高リスクな人を研究対象としており、CTスキャン、MRIや超音波内視鏡(n=1317)を利用した検診の結果を報告していた(備考14-26)。1件の研究は、家族的・遺伝的リスクを持たない161人を対象にした検診についても報告していたが、この集団から膵臓がんはみつからなかった(備考22)。すべての研究を通じて、高リスク患者のうち、検診すべての段階を含めて膵臓がんがみつかったのは18例で、1000人につき15.6例を検出した(備考12,13)。これらデータが、膵臓がんリスクが高くない人にも当てはまるかどうかは未確定であり、膵臓がん発症率が低い集団においては、検出数も低くなるであろう。もう1つ大切なのは、膵臓がん発症率が低い集団に対して膵臓がん検診を行なった場合、いかなる方法であっても、陽性的中率は低く、偽陽性率は高くなる可能性があるという点である。

早期発見と治療の有効性
米国予防医学専門委員会(USPSTF)は、一般集団に対する膵臓がん検診の有益性、または検診で見つかったか、無症候の膵臓がんを治療する有益性に関する研究をみつけることができなかった。

家族性リスクが高い人に対する検診に関する13件のコホート研究では、検診を受けた患者57名が膵臓手術を受けた。手術を受けた患者57名のうち、膵臓がんだったことが判明したのは14名であり、38名が前駆病変(膵管内乳頭粘液性腫瘍、膵上皮内腫瘍性病変、またはその両方)、5名が神経内分泌腫瘍、肝過形成、または良性漿液性嚢胞腺腫であった(備考12)。前駆病変(特に低悪性度病変)が浸潤がんに進行するリスクは明らかではないため、それを切除するために検査をして膵臓手術を受ける潜在的利益と不利益のバランスは不明である。膵上皮内腫瘍性病変は一般的であり、ほとんどの場合はがんに進行しない。 2件の研究では、膵臓がん以外の理由で切除された膵臓の26~54%でそのような病変が見つかった(備考27,28)。別の後ろ向き研究では、米国の3つのがんセンターにおける膵管内乳頭粘液性腫瘍の外科的切除について述べており(備考29)、膵管内乳頭粘液性腫瘍の管理に関する国際コンセンサスガイドラインの基準は、高度異形成や浸潤がんの予測に高感度(98.4%)であるが低特異度(14.8%)だったことが判明した。これらのデータは、一般集団に検診を実施すると過剰診断と過剰治療につながる可能性を示唆している。

高リスクの人に対する検診の研究では、膵臓がんが18名で検出された。上で述べたように、このうち14名は手術によって確定した。残りの4名は進行していて切除不能な状態で検出された。12例(66.7%)がステージIまたはIIで検出されたか、「切除可能」と分類された(備考12,13)。膵臓がんがみつかった18名のうち、長期追跡調査が報告されたのは10名にとどまった。この10名のうち、5名は12~63カ月の追跡調査中は生存していたが、そのうち2名は遠隔転移が報告された(備考12)。これらのデータは、検出された症例の追跡報告が不完全であることと、症例数が少ないことから、限定的である。USPSTFは、検診を受けた集団と受けなかった集団の健康成果を比較した研究を見つけられず、検診の有効性が判断できなかった。さらに、これらの結果が高リスクではない集団に当てはまるかどうかは不明である。

早期発見と治療の潜在的な不利益
USPSTFは、高リスクの人に対する膵臓がん検診に関するコホート研究10件を確認し、検診と治療の潜在的不利益を評価した。検診の心理社会的有害性を評価した2件の研究(n = 271)では、参加者の大多数が、すべての時点で通常レベルの苦痛や不安を報告していた(備考31,32)。1件の研究では、膵臓がんリスクのとらえ方、心配や一般的な苦痛がベースライン時と検診後3カ月時点を比較して変わらなかったと報告していたが(備考31)、もう1件の研究では、Cancer Worry Scaleスコアが経時的に減少したと報告していた(ベースラインスコアと比較)(備考32)。

8件の研究が検査に関連した有害性について報告していた(備考14,15,17-22 )。超音波内視鏡を受けた216名の研究では、55名(25.5%)で検査後に軽度の痛みが、13名(6.0%)で麻酔関連の有害事象が報告された(備考22)。2件の研究で診断目的の内視鏡的逆行性胆道膵管造影を受けた150名のうち、15名(10.0%)が急性膵炎を発症し、そのうちの9名は入院を必要とした(備考21,22)。残り6件の研究では検診に伴う不利益は特定されなかった(備考14, 15, 17-20)。膵臓がん以外の偶然の所見の発見率は、一貫した報告がなされていなかった。

6件の研究では手術の有害性について報告していた(手術を受けた方の数= 32人)(備考14,17,18,20,22,33)。1件の研究では、手術後11カ月経過した時点で1名の患者に胆管空腸吻合部狭窄が発症し、別の患者では詳細不明の術後合併症が報告された(備考14)。別の研究では、術後瘻孔2例と糖尿病3例が報告された(備考17)。4件の研究は害がなかったと報告した(備考18, 20, 22, 33)。

膵切除は合併症と死亡のリスクが高いが、手術の有害性に関する追加のデータは、検診で診断された症例に限定していない研究からも入手できる。膵切除(主に膵頭十二指腸切除)を受けた428人の患者を対象としたドイツの研究では、33.6%に何らかの合併症が報告された(備考34)。2003年に実施された米国の研究は、悪性腫瘍で膵切除を行った手術後の死亡率を4.6%と報告し(備考35)、2007年から2010年に行われた21,482の膵切除についての米国の別の研究では、30日死亡率を3.7%と報告した(備考36)。

正味の利益の大きさを推定
USPSTFは、再確認プロセスを利用してエビデンスを検討したが、膵臓がん検診の利点に関する新しいエビデンスは見出されなかった。USPSTFは、膵臓がん検診の有害性や、検診によって発見された膵臓がんの治療の有害性の大きさは、少なくとも中程度はあるという十分な証拠を見出した。したがって、USPSTFは、無症候の成人に対する膵臓がん検診の潜在的な利益は、潜在的な害を上回らないという以前の結論を再確認した。

パブリックコメントへの対応
この推奨グレードの草案は、2019年2月5日から3月4日までUSPSTFのホームページで公開され、パブリックコメントを募った。パブリックコメントに応えて、USPSTFは膵臓がんのステージごとの生存率に関する情報を追加した。USPSTFは、膵管内乳頭粘液性腫瘍の管理に関するコンセンサスガイドラインについての情報と、膵臓がんまたは高度異形成の存在を予測する際のこれらのガイドラインの正確性(すなわち、感度と特異性)を追加した。USPSTFは、膵臓がんの家族性リスクが高い人を対象とした検診に関する研究の長期追跡調査に関するデータも追加した。コメントの中には、USPSTFが家族性膵臓がん歴のある人または膵臓がんのリスクが高いことが知られている遺伝性疾患の人に対する推奨グレードの策定を求めるものもあった。それに対してUSPSTFは、それら集団は今回の推奨グレードの範囲外であり、本推奨はそれらの方々に適用されないことを明確にしたいと考えている。

備考
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翻訳関口百合

監修泉谷昌志(消化器がん、がん生物学/東京大学医学部附属病院消化器内科)

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