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新しい抗がん剤、新たな副作用、がん免疫療法の合併症

  • 2019年6月4日
  • 発信元:米国国立がん研究所(NCI)ブログ~がん研究の動向~

近年、免疫療法(がんを検出し、破壊する免疫機能を向上させる治療)の恩恵を受けるがん患者数が増加している

免疫チェックポイント阻害薬やCAR-T細胞療法を含むこれら新規免疫療法に対して、顕著で長期的な奏効を示す患者がいる。また、まれに免疫療法後に腫瘍が完全に消失した進行がん患者もいる。

しかしながら、免疫療法薬も他のすべての薬剤と同様に、副作用を引き起こす可能性がある。それら副作用には、一部の患者の生命を脅かす可能性がある、まれな合併症も含まれる。

メリーランド医科大学の救急医であり、がん免疫療法の副作用に関する論文を公表したSarah Dubbs医師は「免疫療法薬に関連する副作用は頻繁に起こり、ほぼすべての器官に起こりうる」と述べた。

「多くの副作用は軽度から中等度で、ステロイドなどの治療が奏効する」とDubbs医師は続けた。「しかし、重篤な健康障害を起こす患者もいるため、免疫療法を受けている患者に対して、医師は注意を怠ってはいけない」と付け加えた。

がん治療として免疫療法がより広範囲に使用されるにつれ、これまでの抗がん剤治療では認められなかった合併症をはじめ、免疫療法に関連した副作用に関する知見が得られている。

それらの研究に基づき、副作用がなぜ、どのように特定の患者に起こるのかをさらに理解することと、副作用に対する管理方法の確立が試みられている。

過度に活発な免疫システム

免疫システムを刺激して腫瘍細胞を攻撃する薬剤は、一部の患者で、免疫システムに健康な組織を異物として認識させ、攻撃させることがある。

免疫療法を受けている患者の一部において、過度に活発な免疫システムに関連する副作用として、結腸の内層、肺、または心筋の炎症が生じる。

「免疫療法に関連した副作用の原因についてさらに理解し、発症リスクの高い患者を特定できれば、将来、医師が免疫療法薬を選択するのに役立つ」とDubbs医師は述べた。

この分野の研究を進めるために、研究者らは免疫療法薬に関連する合併症の記録、生物学的メカニズムの研究、副作用軽減のための免疫療法薬の改良、臨床医と患者を対象とした発生しうる副作用に対する意識の向上を行ってきた。

例えば、テキサス大学MDアンダーソンがんセンター主催のがん患者を治療するための救急医療に関する科学会議においては、免疫療法薬の副作用と新たな管理方法が議論された。

「私たち救急医は、最初に患者の対処に当たる医師であり、医学の新しい技術を習得し、患者を治療する準備ができている必要がある」とDubbs医師は述べた。

「患者の病歴をたずねる際に、どのような免疫療法を受けているかを確認する。治療内容が明確であることが重要である」と続けた。「化学療法の場合、薬剤は体内で同じような作用を示すため、化学療法の種類を正確に知ることはそれほど重要ではなかった」

「しかし、免疫療法剤では重要である。薬剤毎にさまざまな有害事象があり、治療を受けた免疫療法薬によって対処法が異なる可能性があるからだ」と付け加えた。

免疫反応を高める

免疫療法における免疫関連の副作用は、免疫療法薬と他の抗がん剤との根本的な違いが重要である。化学療法などの従来の治療は直接がん細胞を殺すのに対し、免疫療法は直接がん細胞を殺さない。

例えば、免疫チェックポイント阻害薬は、CTLA-4、PD-1、またはPD-L1(PD-1が結合するタンパク質)など、免疫反応の抑制に作用するタンパク質を遮断する。これらのタンパク質の1つを遮断すると、免疫システムの「ブレーキが解除され」、免疫細胞ががん細胞を攻撃する能力が向上する。

CAR-T細胞療法は、同じ目標を達成するために異なるアプローチを使用する。実験室で患者のT細胞のがん細胞に対する認識、結合及び殺傷能力が向上するよう改変する。そして、改変された細胞を増殖させて患者に戻す。

治療関連の副作用は多岐にわたる

免疫療法を受けた人が経験する副作用の種類は、免疫療法の種類、投与量、治療前の健康状態、がんの種類、がんの進行度など、いくつかの要因によって異なる。

免疫療法薬を静脈内に投与される患者にとって、最も頻発する副作用には、痛み、腫れ、ひりひりした痛みなどの注射部位での皮膚反応である。まれではあるが、免疫療法薬による重度の、あるいは致命的なアレルギー反応が起こることがある。

免疫療法薬を受けているすべての患者が免疫関連の合併症を発症するわけではない。また、これらの副作用を発症した患者において、影響を受けた器官は多岐にわたる、とMDアンダーソンがんセンターのSang T. Kim医師とMaria E. Suarez-Almazor医師が「免疫チェックポイント阻害薬に伴う副作用の管理」に対する最近の解説の中で言及している。

免疫チェックポイント阻害薬を投与されている患者の中で、最も一般的に副作用が認められる器官は、皮膚、結腸、内分泌系、肝臓、肺、心臓、筋骨格系、および中枢神経系である、と両医師は付け加えた。

CAR-T細胞療法を受けている多くの患者は、サイトカイン放出症候群として知られる症状を発症し、特に、発熱、頻脈、低血圧および発疹が認められる。この症候群は、免疫療法の影響を受けた免疫細胞からサイトカインと呼ばれるタンパク質が大量に急速に血液中に放出されることによって引き起こされる。

サイトカイン放出症候群は、一般的に注入後数時間から数日以内に発症する。ほとんどの患者が注入に対して軽度の反応を示すが、重度の反応を示す患者もいる。混乱、振戦、または意思疎通の困難などの神経学的症状を示す患者もいる。

まれで、予期しない副作用

免疫療法に関連した副作用の発現時期は、他のがん治療よりも予測が困難である。免疫療法を受けている患者は、初回投与後すぐに副作用が発症することもあれば、治療サイクル終了後しばらくして発症することもある。

例えば、MDアンダーソンがんセンターの医師は、肉腫の治療を受けている患者が、免疫療法薬ペムブロリズマブ(キイトルーダ)の単回投与を受けてから約3週間後に糖尿病の重篤な合併症を発症したと報告した。

糖尿病の既往歴のない、免疫療法未治療の47歳女性は、緊急治療室へ搬送中に糖尿病性ケトアシドーシスと診断された。

「この急性成人発症1型糖尿病の症例は、免疫チェックポイント阻害薬への短時間曝露後に現れる可能性がある望ましくない副作用の一例である」とPatrick Chaftari医師らは、本患者に関するケースレポートの中で述べている。

生命を脅かす可能性のある合併症を早期に診断し治療することができるよう、免疫チェックポイント阻害薬を投与されている患者は「注意深く観察する」べきである、と著者らは付け加えた。

定期画像検査の数年後に、臨床試験に参加している83歳の男性の肺に疑わしい腫瘤が認められた。男性はメルケル細胞がんと呼ばれる皮膚がんを治療するために約5ヵ月間ペムブロリズマブを投与されていた。

さらに検査を行ったところ、全く予想外のことが明らかになった。がんに対する免疫反応を強化する薬物を受けている間に、患者は結核を発症した。

「もちろん、驚いたよ」とNCIの臨床試験の副作用をモニターしていた、NCIのがん治療評価研究プログラムのElad Sharon医師・公衆衛生学修士は述べた。患者の既往歴には、結核を引き起こす細菌、結核菌(Mtb)に感染していたことを示すものは何もなかった。

感染症の専門家と腫瘍専門医が密接に協議しながら、患者に結核とがんの両方の治療を行い、患者は現在生存している、とSharon医師は述べた。

何が起こったのかを理解するために、Sharon医師らは、マウスでMtbと免疫反応の研究を行っている、アレルギー感染症研究所(NIAID)のDaniel Barber博士と共同し、患者の疾患の分析を行った。

結果は、免疫反応を高める免疫療法薬の使用が結核のリスクまたは重症度を高める可能性があることを示すマウスを用いた研究結果と一致していた、とBarber博士らは昨年、2例目の免疫療法後の結核発症例とともに報告した。

「免疫細胞の反応を高めると、良いことも悪いことも起こりうることが昔から知られている」とBarber博士は述べた。Mtbに感染した人に対し、免疫反応を高めることは「有害であるかもしれない」と博士は付け加えた。

患者における治療関連の副作用の管理

がん免疫療法薬は比較的新しいため、治療関連の副作用の管理方法に関しては臨床試験から得られる限られたエビデンスしかない。「これらの薬剤は非常に新しいものなので、多くの救急医、さらには一部の腫瘍専門医でさえ潜在的な副作用に気づいていない可能性がある」とDubbs医師は述べた。

知識のギャップが存在することから、2018年に米国臨床腫瘍学会およびNational Comprehensive Cancer Networkは、臨床医のための免疫チェックポイント阻害薬による合併症の管理に関するガイドラインを発表した。ガイドラインには、たとえばステロイドを使用する時期や免疫療法を中止する時期などに関する推奨事項が含まれている。

専門家委員会が科学文献のレビューに基づきガイドラインを作成した。これらのガイドラインは、限られた科学的根拠の制約内で免疫関連の副作用を管理するための「ベストプラクティス」を提供している、と論説の中でKim医師およびSuarez-Almazor医師は述べている。他の組織も免疫療法の副作用をいかにうまく管理するかについてのガイダンスを作成した。

免疫関連の副作用の管理に関して多くの疑問が未解決のままであるとしても、深刻な合併症に進行する前に免疫関連の副作用であることを診断することの重要性に議論の余地はない。

免疫チェックポイント阻害薬の副作用に関する論文を発表したトーマス・ジェファーソン大学の胃腸科専門医であるMonjur Ahmed医師は、「私たちの責任は、免疫療法に関連するあらゆる副作用を早期かつ効果的に治療することである」と述べた。

Ahmed医師は、患者によっては免疫療法薬を少なくとも一時的に休薬し、そして免疫関連の副作用を治療するためにステロイドのような薬を使うことになる、と述べた。

「元の治療を再開する患者もいれば、そうでない患者もいる」とAhmed医師は述べた。

特定の副作用を管理するための最適な対処法を明らかにするには、さらなる研究が必要であると付け加えた。

免疫療法関連の副作用に必要なさらなる研究

自己免疫疾患の何十年にもわたる治療から得られた知識により、免疫関連の副作用を特定し管理するための知見が得られている、とSharon医師は述べた。

しかしSharon医師は、免疫療法関連の副作用は自己免疫疾患とは異なる生物学的メカニズムを介して発症する可能性があることを指摘し、それはこれらの副作用の治療もまた異なる可能性があることを示唆している。

そのような問題をより効果的に探求するために、医師と研究者は免疫療法関連の副作用の定義を確立し、それらの副作用が患者に発現した際に報告するための基準を作成する必要がある、と言及した。

医師らは免疫関連の副作用の定義を利用して、治療の専門医師に紹介する必要がある患者を特定することが可能になる、と付け加えた。

「定義に加えて、免疫関連の副作用を診断するための新しいバイオマーカーと検査が必要であり、それには分野を超えた専門家の協働が必要となる」と述べた。

Sharon医師は、昨年主催者の一人として、さまざまな分野の専門家を集め、免疫関連の副作用を含むさまざまなトピックについて議論するためのがん、自己免疫、免疫学に関する科学ワークショップを開催した。

会議の基調講演の中で、サンフランシスコのカリフォルニア大学のJeffrey Bluestone博士は「我々はまだまだ学ぶべきことがある」と述べた。

他の質問の中でも、なぜ免疫関連の副作用が一部の患者では発症し、他の患者では発症しないのか、あるいはなぜ異なる薬剤が異なる患者で異なる疾患を引き起こすのかは明らかではない、と付け加えた。

治療関連の副作用が、患者が免疫療法に反応している可能性があることの指標となり得るかどうかは、ワークショップで議論された進行中の研究分野である。

「免疫関連の副作用が認められることが患者さんの治療に良い兆候になり得るかどうかを知りたい。どちらにしても、この問題に関する明確な証拠はまだない」とSharon医師は述べた。

そのような疑問に答えるには何年もかかる可能性があるが、研究を進めるための取り組みは続けられている。

例えば、NCIは免疫療法や治療関連の副作用への反応に関連するバイオマーカーの特定に役立つ研究所ネットワークとデータセンターを設立した。また、研究者たちは免疫療法研究のためのマウスモデルと免疫療法の臨床試験に参加する患者のためのバイオリポジトリの開発に取り組んでいる。

2019年4月15日から16日にかけて、米国国立衛生研究所および米国がん学会が主催した、がん、自己免疫、および免疫学に関する第2回ワークショップで、これらの取り組みとそれに関連した進行中の研究が議論された(ワークショップの両日の録音がNIH Videocastウェブサイトで利用可能)。

「昨年と同様に、重要な新しい免疫療法薬をよりよく理解するために私たちはさまざまな分野からの専門家を集めた。このことは患者にとって現実的な進歩である」とSharon医師は述べた。

「私は免疫療法に適格ですか」

2018年に、Emil Lou医師がミネソタ大学の診療所で、がん患者から最も聞かれた質問は、「私は免疫療法に適格か」であった。

「質問した患者の多くは、テレビで免疫療法の広告を見たり、患者の腫瘍が消え去るという話を耳にしたりし、自分が免疫療法を受けられるか知りたがっていた」と胃腸がん患者を診察するLou医師は述べた。

Lou医師の患者の中には、免疫療法薬よって劇的で持続的な反応を得た進行がん患者がいることを耳にしてる人たちがいた。

腫瘍の遺伝的特徴に基づいた免疫療法の候補となった患者はほとんどいなかったが、免疫療法が選択肢の1つとなった時、Lou医師は治療法(そして可能性のある副作用について)患者と話し合ってきた。

患者との話し合いの中で、Lou医師は免疫療法剤には副作用があるということを説明し、「その点で、免疫療法剤はその他のがん治療と同じである」と患者に伝える。「発疹、関節痛、下痢を引き起こす可能性がある。そして、ごく一部の患者では、免疫療法により息切れやその他のより深刻な合併症が起こる可能性がある」。

「免疫療法薬は完璧ではない」と付け加えた。

翻訳後藤若菜

監修田中謙太郎(呼吸器内科、腫瘍内科、免疫/九州大学病院 呼吸器科)

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