免疫療法の発展に貢献したNCIのローゼンバーグ博士にSzent-Györgyi賞

がん研究の進展に対する2019年Szent-Györgyi賞は、米国国立衛生研究所(NIH)の一機関である国立がん研究所(NCI)がん研究センター(CCR)所属のスティーブン・ローゼンバーグ(Steven A. Rosenberg)医師(医学博士)が受賞することになった。この賞は、National Foundation for Cancer Research(NFCR:全米がん研究財団)が年1回授与するもので、今年はがん治療における養子免疫療法の発展に先駆的な役割を果たしたとしてローゼンバーグ医師が受賞する。

CCRの外科部門長であるローゼンバーグ医師は、一部の進行がん患者に対して有効な免疫療法および遺伝子治療を初めて開発するとともに、外来遺伝子(この場合は、遺伝子操作されているT細胞)を人体に移入することに初めて成功した。ローゼンバーグ医師の臨床試験では、免疫療法によりメラノーマ、肉腫、リンパ腫およびその他のがんを有する患者の遠隔転移を伴うがんが退縮した。

「ローゼンバーグ医師の画期的な業績ががん研究を変え、われわれの治療に関する知識を変えました。しかし、ローゼンバーグ医師の知見はまた、患者の命をも劇的に変えたのです」とNCIディレクターのNed Sharpless医師は述べた。「ローゼンバーグ医師のSzent-Györgyi賞受賞をわれわれは大変嬉しく思っています。この賞は今後も大きな影響を及ぼす研究を評価し、がんの理解を深める基礎研究の重要性を高く評価します」。ローゼンバーグ医師が実施したタンパク質インターロイキン2(IL-2)臨床試験は、1992年に米国食品医薬品局(FDA)ががんに対して初めて承認した免疫療法につながった。ローゼンバーグ医師は遠隔転移を伴うメラノーマ患者においてがんを退縮させるIL-2の機序を研究中に、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)と言われる抗がん特性を有する免疫細胞を同定した。ローゼンバーグ医師率いるチームは、腫瘍から抽出したTILを患者の体外で大量に増殖させ、体内に戻す養子細胞移植(ACT)免疫療法と呼ばれる治療が、進行メラノーマ患者のがん退縮を誘導する可能性があることを初めて臨床試験で示した。

ローゼンバーグ医師はまた、研究チームで患者のT細胞を取り出し、がん細胞にある特定のタンパク質に結合してがん細胞を死滅させるように体外で遺伝子操作してから、それを患者の体内に戻すというACT免疫療法の一形態を初めて開発した。ローゼンバーグ医師は、高悪性度リンパ腫患者の治療を成功させるためにキメラ抗原受容体(CAR)を発現するように遺伝子操作したT細胞を初めて用いた。2017年、FDAは小児・若年成人の急性リンパ性白血病(ALL)患者に対してCAR-T細胞療法を初めて承認し、その後、成人の進行リンパ腫患者に対して承認した。当時、CCR臨床研究サイエンティフィック・ディレクターのWilliam Dahut医師は、CAR-T細胞療法の初承認を「がん免疫療法における歴史的瞬間」と称した。

現在の研究として、ローゼンバーグ医師は一般的な上皮がん患者に対するACTの適応拡大に取り組んでいる。2018年6月、Nature Medicine誌はローゼンバーグ医師がACTの改良型を用いて開発した新手法における研究結果を発表した。その手法により、他のすべての治療に反応しなかった乳がん患者のがんが完全退縮に至った。まだ試験段階ではあるが、この新手法は標的変異次第であり、多くのがん種の治療に用いられる可能性がある。

NFCRによると、Szent-Györgyi賞は「がん領域において今後につながる影響と人々の生命を救う直接的影響を及ぼす科学的知識の新発見または飛躍的解明を成し遂げた」研究者に授与される。この賞は、NFCRの共同創立者であり、ビタミンCおよび細胞呼吸の研究で1937年にノーベル生理学・医学賞を受賞したAlbert Szent-Györgyi氏(医学博士)に敬意を表して2006年に設立された。

「Szent-Györgyi賞を受賞できたこと、そして、受賞で認められた研究者仲間の一員であることを大変誇りに思います」とローゼンバーグ医師は述べた。「われわれは免疫療法ががん患者に対してできることを学び続けており、来たる進展を大変楽しみにしています」。

昨年のSzent-Györgyi賞もNCI所属研究者であるDouglas R. Lowy医師とJohn T. Schiller博士が、ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン開発の功績により受賞している。

「NCI内部研究プログラム(NCI Intramural Program)にとって、この名誉ある賞を2回連続で受賞できたことは大変恐縮です」とNCIのCCRディレクターTom Misteli博士は述べた。「しかし、これはNCIがん研究センター独自の研究環境を反映しています。この研究環境によりスティーブン・ローゼンバーグ医師は免疫療法の可能性を思い描くのみならず実用的な実践につなげることができたのです」。

賞は2019年4月27日にワシントンD.C.の米国記者クラブの授賞式で授与される。

翻訳担当者 太田奈津美

監修 前田 梓(医学生物物理学/トロント大学)

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