スマホアプリでがん患者の痛み重症度や入院回数が有意に低減

専門医の見解

「がん患者の大多数はいずれかの時点で痛みを経験しており、痛みを追跡し報告するためのより良いツールが必要です」と2018年臨床腫瘍緩和ケアシンポジウム・ニュース企画チーム司会のJoshua Adam Jones医師(修士)は述べた。「この研究結果により、より多くの痛みを経験している患者がアプリを使用することで、彼らが必要なサポートを受けられるようになることを期待します」。

転移性固形腫瘍患者112人を対象とした今回の研究で、人工知能(AI)ベースのスマートフォンアプリを使用すると、患者の痛みの重症度と入院回数が低減したことが明らかになった。AIを利用したアプリで痛みをモニタリングすることにより疼痛管理を行った患者では、8週間後、痛みの重症度が20%減少し、痛みに関連する入院のリスクはアプリケーションを使用していない患者よりも約70%低くなった。これらの知見は、カリフォルニア州サンディエゴで開催される2018年臨床腫瘍緩和ケアシンポジウムで発表される。

「緩和ケア担当医が大幅に不足しており、この状況は人口の高齢化に従い今後さらに悪化の一途をたどるであろう」と本研究の筆頭著者であるMihir M. Kamdar医師(マサチューセッツ州ボストンのマサチューセッツ総合病院緩和ケア部門副部長、ペインクリニシャン(神経ブロック等専門医))は述べた。「これは、がんの疼痛などの緩和ケアの課題を解決するためにテクノロジーソリューション(コンピュータ技術などによる解決策)が非常に重要とされる理由の一つである」。

研究によると、最大で90%の進行がん患者ががんによる痛みを経験し、このことが生活の質に直接影響している。 研究者らの説明によれば、このアプリは、患者からの自己報告のアウトカムとAIによる臨床アルゴリズムの両方を活用して、痛みを大幅に減少させ、患者のがん関連疼痛による入院回数を減らそうとする初のモバイルアプリの1つである。

研究について

ePALというこのアプリは、Partners Health Care Pivot Labs、マサチューセッツ総合病院緩和ケア部門、マサチューセッツ総合病院がんセンターの協業の一環として設計され、研究された。試験に参加した患者のうち、56人がePALアプリを使用するよう割り当てられ、通常のケアに同じ人数が割り当てられた。ePALを使用する患者は、毎日スマートフォンで、痛み管理のヒントのメッセージを受信し、週3日痛みのレベルを報告するよう促される。ePALに搭載されたAIは、緊急の痛みと、緊急ではない痛みを区別し、直接患者にリアルタイムで適切な指導を行うことができる。アプリは、がんの痛みが重篤であるか悪化している場合、治療を受けるように患者を担当医に繋ぐ。

疼痛は0〜10のスケールで報告され、10が想定できる最悪の痛みである。自己報告された疼痛が1点低下することは、有意な減少とみなさられた。アプリは、痛みの程度が重度の場合、1時間以内に応答した看護師にアラートを出した。痛みが中等度であった場合、アプリは患者に痛みについて尋ね、投薬による厄介な副作用をよりうまく管理するための情報など、その患者に最適な教育的フィードバックをメールで知らせた。

各患者の治療全体に対する姿勢と患者の不安全般を評価するために、8週間の試験の開始時、中間時点、および終了時にすべての参加者に質問票による調査を実施した。

主な知見

すべての患者は、試験開始時に同様の疼痛スコアを示していた。4前後の平均疼痛レベルは、通常のケアを受けた患者では試験の開始から終了まで変化しなかった。しかし、このアプリを使用した患者では、疼痛レベルは8週間後に20%低下して2.99となった。

さらに、ePAL使用患者の疼痛関連入院は、アプリを使用していない患者と比べてはるかに少なかった(4対20)。試験期間中、アプリ使用患者群では、患者1人当たりの疼痛関連入院リスクは69%低下した。

Pivot Labs at Partners Healthcareのシニア・ディレクターであり、この試験の上級責任医師であるKamal Jethwani医師は、「このアプリを使用した患者が、入院回数を有意に減らし、それに伴って外来通院回数が増えることもなかったことは重要である」と述べた。「これらの結果は、モバイル技術やAIなどの技術革新を統合的に使用することで、患者の心身の健康、資源の有効利用、医療コストに大きな影響を与える可能性があることを示している」。

患者の不安スコアは、通常ケア群ではわずかに減少した(21点中5.9から5.03)一方で、アプリを利用した患者では6.67から7.68へと増加した。研究者は、単に痛みについて尋ねることは、一部の患者には不安を引き起こす可能性があるかもしれないと考える。一方、アプリを通じて週2回以上の痛みを報告している人々は、不安の増加を経験しなかった(試験の開始時、終了時ともに不安レベルは6.6であった)。

次のステップ

次のステップとして、著者らはさらに強力なAIテレヘルス(遠隔健康監視)を開発し、他の臨床環境でそれを研究する予定である。

Kamdar医師は、「この種の新しい技術が、緩和ケアへのアクセスが限られている地域で役立つかどうか、特に興味を持っている。われわれの希望は、技術革新と技術を活用して、緩和ケアを最も必要とする人々に緩和ケアが行き渡るように広げることである」

この研究はMcKesson財団からの助成金から資金提供を受けた。

背景:進行性悪性腫瘍患者の70〜90%にがん疼痛が影響し、生活の質が損なわれ、医療利用が増加する。次に医療機関で外来受診するまでの期間にがん関連疼痛に対処する患者のケアを最適化するために、新規のケア提供モデルが必要である。 ePALは、痛みを定期的に監視し、人工知能(AI)を使用して緊急と緊急ではない問題を区別し、リアルタイムで(医療機関に)繋ぐスマートフォンアプリケーションである。 このランダム化比較試験の目的は、疼痛の重症度、がん治療に対する姿勢、およびがん疼痛患者の医療利用に及ぼすePALの影響を割り出すことである。

方法:マサチューセッツ総合病院緩和ケアクリニックで転移のある固形がん患者(n = 112)で疼痛のある患者を募り、通常のケアを受けた対照群(n = 56)と、通常ケアに追加して8週間ePALアプリを使用した介入群(n = 56)に分けて行った。アプリは痛みを週3回評価し、0、4、8週間目に、痛み(BPI)、がん治療に対する姿勢(BQ-II)、不安全般(GAD-7)に関する質問票による調査を実施した。時間の経過とともにどのように結果スコアが変化したかを評価する反復混合モデルアプローチを実施した。ベースラインのうつ病スコア、年齢および性別(α= 0.05)に加えて、登録時とランダム化の傾斜におけるベースラインの差異においてコントロールされたモデルを用いた。

結果:疼痛重篤度(BPI)およびがん疼痛治療に対する否定的姿勢(BQ-II)が、アプリ使用群では対照群と比較して有意に減少した(係数 -0.09、95%信頼区間:-0.17、-0.007、p=0.034および係数 -0.037、95%信頼区間:-0.072、-0.001、p= 0.042)。不安スコアは、対照群と比較してePALを用いた患者で増加した(係数 0.21、95%信頼区間:0.039、0.37、p=0.015)。8週間にわたり、ePAL使用患者の入院回数は対照群に比べて40%少なかった(n=15 vs. n=25, p=0.048)。

結論:われわれが知る限り、これはAIと臨床アルゴリズムを利用して、疼痛を大幅に軽減し、がん関連疼痛を伴う患者の入院を減らす最初のモバイルアプリである。

開示:Mihir M. Kamdar医師:Amorsa Therapeuticsの株式およびその他の所有権をも持ち、Amorsa Therapeuticsのコンサルティングもしくは顧問を務める。

翻訳担当者 山岸美恵野

監修 佐藤恭子(緩和ケア内科/川崎市井田病院)

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