パルボシクリブがHR陽性進行乳がん治療の新たな選択肢に

ESMO2018プレスリリース

ホルモン療法中に再発または進行したホルモン受容体(HR)陽性HER2陰性の進行乳がん患者においてサイクリン依存性キナーゼ4および6(CDK4/6)阻害薬のパルボシクリブを用いた治療が全生存期間を臨床的有意に改善したことが、ESMO2018で報告されたPALOMA-3試験の全生存期間結果の最終解析により明らかとなった。(1)

HR陽性乳がん患者の多くはホルモン療法に徐々に耐性を示すようになり、HR陽性/HER2陰性進行乳がんにおいてホルモン療法への抵抗を克服するか、耐性が生じるのを遅らせるための標的としてCDK4/6阻害が特定されている。前向きランダム化第3相比較試験であるPALOMA-3試験で、ファースト・イン・クラス(画期的医薬品)CDK4/6阻害薬であるパルボシクリブはフルベストラントとの併用により、過去に受けたホルモン療法で増悪がみられたHR陽性/HER2陰性転移性乳がんを有する女性患者521人において無増悪生存期間(PFS)を有意に改善した。(2)

新たな解析では、全生存期間(OS)がPALOMA-3試験の主要な副次評価項目として評価され、HR陽性/HER2陰性進行乳がん患者521人の追跡期間中央値は44.8カ月であった。過去の内分泌療法中に再発または進行していた患者を、パルボシクリブ(経口で125 mg/日を3週投与、1週休薬のスケジュール)+フルベストラント(標準療法に従って500 mg)投与群またはプラセボ+フルベストラント投与群に無作為に割り付けた。研究者らがOS解析を実施した時点で、本試験参加患者521人のうち約60%(310人)が死亡していた。

全生存期間中央値は、パルボシクリブ+フルベストラント投与群[OS中央値:34.9カ月、95%信頼区間(CI):28.8~40.0]の方が、プラセボ+フルベストラント投与群(OS中央値:28.0カ月、95%CI:23.6~34.6、p = 0.043)よりも6.9カ月長かった。

過去に受けた内分泌療法に対し感受性を示した患者では生存期間がさらに長く、OS中央値の差の絶対値は10.0カ月であった。内臓疾患のない患者では、OS中央値が有意に改善し、11.5カ月長かった。追跡調査期間延長により新たに観察された安全性シグナルはなかった。

「今回、PALOMA-3試験のあらかじめ計画された解析で、CDK4/6阻害薬に対する第3相試験での全生存期間の結果を初めて発表します。重要なことは、これが全集団において生存に関する絶対的利益がPFSに関する絶対的利益と同様であることを明らかにした初の報告であるということです。さらに、生存期間は過去に内分泌療法に感受性を示した患者で特に大幅に延長しました」と、筆頭著者のMassimo Cristofanilli内科学教授(米国シカゴ、ノースウェスタン大学FeinbergメディカルスクールのRobert H. Lurie総合がんセンター)は述べた。

「これは患者にとって非常に重要なことです。これまでの研究で確認されたPFSの改善が、治療の最終目標である全生存に良い影響を及ぼしている可能性があるため、進行期であっても長期生存の可能性が高まることを示しているからです」とCristofanilli医師は述べた。Cristofanilli医師は続けて言う。「全生存期間への良い影響が示されたことから、この併用療法の適切で有効な治療アプローチとしての有用性について、臨床医たちと患者たちの確信も深まります」。

今回の知見についてESMOのための論評として、Carmen Criscitiello医師(イタリアのミラノにある欧州がん研究センター(IEO))は次のように述べた。「これらのデータを待ち望んでいました。なぜなら、CDK4/6阻害薬による臨床的有用性には議論の余地がなかったからです。しかし、PFS改善がOS改善につながるかどうかについては論争がありました。このランダム化第3相試験は、HR陽性/HER2陰性乳がんの転移状態においてCDK4/6阻害薬によるOS改善を初めて示しました」。しかしながら、Criscitiello医師はこうも付け加えた。「本試験はOSに対して検出力不足であったため、慎重に解釈しなければなりません。今回の結果により、PFS改善はOS改善につながる可能性があることが強く示唆されましたが、CDK4/6阻害薬を用いて実施された他の試験が、本試験で観察されたOS改善予測の確認に寄与するでしょう」。

Matteo Lambertini医師(ベルギーのブリュッセルにあるInstitut Jules BordetのESMOフェロー)も同意した。「内分泌療法とCDK4/6阻害薬の併用を研究するランダム化試験からより長い追跡調査での最終OSデータを収集することが、これらの高価な薬剤の有用性をより明確に理解するために極めて重要です。私たちがこれらの試験からこれまでに得ていた限定的なOSデータが、PALOMA-3試験の最新結果によって裏付けられ、この治療法がHR陽性/HER2陰性進行がんを有する女性に対しては広く利用可能になるべきであることを強く示唆しています」。Lambertini医師は述べた。「この条件で利用可能なの治療順序の最適化と、内分泌療法のみで利益を得る患者を特定する方法をよりよく理解するためにさらに研究が必要です」。

将来を見据えて、Cristofanilli医師は述べた。「転移性疾患での無病生存期間および全生存期間におけるCDK4/6阻害薬の著しい効果により、私たちが治癒率向上を目標としている早期乳がんに対するこのクラスの薬剤の潜在性に期待が寄せられます。その点に関して、早期乳がんに対するパルボシクリブの大規模ランダム化術後補助療法試験としてPENELOPE-B試験およびPALLAS試験の2試験が現在進行中です」。

参考文献
1. Abstract LBA2_PR ‘Overall survival (OS) with palbociclib plus fulvestrant in women with hormone receptor-positive (HR+), human epidermal growth factor receptor 2-negative (HER2−) advanced breast cancer (ABC): Analyses from PALOMA-3 ‘ will be presented by Massimo Cristofanilli during Presidential Symposium 1 on Saturday, 20 October, 16:30 to 18:20 (CEST) in Hall A2 – Room 18. Annals of Oncology, Volume 29 Supplement 8 October 2018
2. Cristofanilli M, Turner NC, Bondarenko I et al. Fulvestrant plus palbociclib versus fulvestrant plus placebo for treatment of hormone-receptor-positive, HER2-negative metastatic breast cancer that progressed on previous endocrine therapy (PALOMA-3): final analysis of the multicentre, double-blind, phase 3 randomised controlled trial. Lancet Oncology 2016; 17: 425-439

LBA2_PR – Overall survival (OS) with palbociclib plus fulvestrant in women with hormone receptor-positive (HR+), human epidermal growth factor receptor 2-negative (HER2−) advanced breast cancer (ABC): Analyses from PALOMA-3.

背景:内分泌療法(ET)に耐性を示す進行乳がんは、サイクリン依存キナーゼ(CDK)4/6に依存する。前向きランダム化二重盲検第3相臨床試験であるPALOMA-3試験において、CDK4/6阻害薬パルボシクリブ(PAL)+フルベストラント(FUL)群はプラセボ(PBO)+FUL群と比較して無増悪生存期間(PFS)が有意に改善した[PFS中央値:11.2カ月対4.6カ月、絶対値差分:6.6カ月、ハザード比(HR):0.50(95%CI:0.40~0.62)、P < 0.000001]。ここでは、追跡期間中央値44.8カ月でのOS解析について報告する。

方法:過去に受けた内分泌療法中に再発または進行したHR陽性HER2陰性進行乳がん患者(521人)を2:1の割合でPAL(経口で1日あたり125 mg、スケジュール3/1で投与)+FUL群(標準治療で500 mgを投与)またはPBO+FUL群に割り付けた。主要評価項目は、試験責任医師が評価したPFSであった。主な副次評価項目は、OSであった。OS解析時に521人のうち約60%(310人)が死亡していた。

結果:OS中央値はPAL+FUL群で改善し、PBO+FUL群との絶対値差分は6.9カ月であった(原文の表を参照)。過去の内分泌療法に対して感受性を示した患者では、PAL+FUL群のOS中央値の絶対的改善が対PBO+FUL群で10.0カ月であった。内臓疾患のない患者では、PAL+FUL群のOS中央値がPBO+FUL群と比べ有意に改善した(11.5カ月)。次段階治療終了までの期間は、18.8カ月(PAL+FUL群)対14.1カ月(PBO+FUL群)であった[HR:0.68(95%CI:0.56~0.84)、P < 0.0001]。OS中央値について、事前に設定した値では統計学的に有意ではなかったが、ESR1遺伝子変異の状態または前治療歴にかかわらず、PAL+FUL群でPBO+FUL群と比較して改善がみられた。後続治療の平均期間は両群で類似しており、化学療法の平均期間は17.5カ月(PAL+FUL群)および8.8カ月(PBO+FUL群)であった(HR:0.58、P < 0.000001)。追跡調査期間が長くなったために新たに観察された安全性シグナルはなかった。

結論:HR陽性/HER2陰性進行乳がん患者において、PAL+FUL群で臨床的意義のあるOS改善がみられ(対PBO+FUL群で6.9カ月)、特に過去の内分泌療法に感受性を示した患者において顕著であった。PFSの絶対値差分値は、OSで維持された。

臨床試験識別記号:NCT01942135
試験責任法人:Pfizer Inc.社
出資:Pfizer Inc.社

(著者情報、その他の詳細は下記原文ページを参照のこと。)

翻訳担当者 太田奈津美

監修 原 文堅(乳がん/四国がんセンター)

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原文掲載日 

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