がん患者のオピオイドによる死亡は少なく、術後のオピオイド使用は減量可能

ASCOの見解

「がん患者のオピオイドの使用に関連する死亡のリスクが、一般集団よりも低いと示唆する信頼できるエビデンスが発表されました。これは、医師が疼痛治療の処方をする際に重要な情報です」ASCO 専門委員でクオリティケアシンポジウム・ニュースプランニングチームのメンバーであるWilliam Dale医学博士は述べた。「同時にオピオイドには依存性を生じる可能性があるので、オピオイドの使用、特に手術直後の使用を減らすための代替治療法を見つけて新たなアプローチを受け入れる必要があります。オピオイドの慎重な使用法と方針を考えた場合、苦痛が強いがん患者へのオピオイドの必要性と過剰投与リスクのバランスをとることがぜひとも必要なのです」。

全国的にオピオイドが頻用されている現在、この新たな2件の研究では、がんケアに対するオピオイド使用について調査されている。その研究では、がん患者と一般集団のオピオイド死を比較し、腫瘍手術後のオピオイド使用を減らすための新たな取り組みが検討された。筆者は得られた結果を、9月28~29日にフェニックスのJWマリオット・フェニックス・デザート・リッジで開かれる米国臨床腫瘍学会(ASCO) のクオリティケアシンポジウムで発表する予定である。

以下はオピオイドに関するこの主要な2件の研究のサマリーである。

がん患者のオピオイドによる死亡数は一般集団の10分の1

デューク大学の研究者による新しい後向き試験によると、がん患者のオピオイド使用による死亡数は一般集団の10分の1であるという。その研究は、10年間(2006年~2016年)にわたり実施されたものだが、がん患者のオピオイド使用に関連したリスクを広範囲に調査した最初の研究である。

「がん患者は治療中の痛みを管理し、疾患を持ちながらも安楽に過ごすためにオピオイドに頼ることが多くみられます。十分に痛みを管理できないと、患者は生命を救うための治療を休むことを余儀なくされたり、あるいは副作用のために入院が必要になるかもしれません。この研究は、オピオイドががん関連の痛みを管理するための安全で効果的な選択肢であるという保証を、医師と患者の両者に提供するはずです」と本研究の筆頭著者でありデュークがん研究所の放射線腫瘍科医であるFumiko Chino医師は述べた。

がん患者のオピオイドによる死亡数を測定するために、米国立衛生統計センターの死亡診断書で、オピオイドが死亡の主要な原因であり、がんは寄与した原因であるとリストされた症例を評価した。同センターの研究者らは一般集団に対しては、死亡診断書でオピオイドが主な死因であり、がんに関しては記載されていない症例を調査した。Chino医師によると、本研究には、死亡時のがんのステージや治療状況が提示されていないという限界があるという。加えて最近の報告では、死亡診断書で報告されているオピオイド系薬剤の過量摂取死が、死因報告が不完全であるために、実際よりも少ない可能性があることが指摘されており、記載された数よりも実際のオピオイド関連死数は多いと示唆される。

死亡診断書によれば、2006年から2016年のがん患者のオピオイドによる死亡数は、一般集団の193,500人に比べ895人にすぎない。研究者らは一般集団のオピオイドによる死亡率は有意に増加している(10万人あたり5.33人から8.97人)が、がん患者ではわずかにすぎない(同0.52人から0.66人)ことを明らかにした。オピオイド使用による死亡は、肺がんで最も高く(22%)、以下消化器がん(21%)、頭頸部がん(12%)、血液がん(11%)、尿生殖器がん(10%)であった

Chino医師らは、オピオイドクライシスに取り組むための規制が、がん患者のオピオイド入手やがん関連の疼痛管理に有益なこれらの薬剤を処方する主治医の能力に、どのように影響するかをさらなる研究で調査すべきであると指摘している。

新しいアプローチにより腫瘍外科患者のオピオイド使用の減量に成功

スタンフォードヘルスケアにより実施された研究で、研究者らはさまざまな種類の泌尿器の手術を受けたがん患者443人が痛みや不安を増悪させることなしにオピオイド使用を46%減量させることに成功した。彼らは次の2つの柱となるアプローチでこの減量を達成した。(1)最大限に市販の非オピオイド薬を使用し、(2)患者との術後の話し合いの本質を変えることである。

「オピオイドはがん患者の痛みを管理する効果的なツールになり得る一方で、依存のリスクがあります。特に手術を受けたばかりの患者にみられます」筆頭著者でありスタンフォードヘルスケアの臨床看護師Kerri Stevensonは述べた。「医師が、利用可能な非オピオイド療法や、オピオイドに関連する潜在的なリスクなど、痛みのコントロールについて患者と話し合うと、患者は自分自身がケアに参加していることを正しく理解し、その後はオピオイド薬の必要性が減ることがわかりました」。

多くの患者は術後、急性疼痛の管理のために初めてオピオイドを処方され、オピオイドを常用していなかった患者のおよそ6%が、術後新たに依存するようになる。

研究者らの戦略の最初の柱は、第一選択肢としてオピオイドによらない薬や治療法などを利用した術後の疼痛コントロールに対するケア手順を確立することであった。これには治療計画の利用可能性および有効性について医師や看護師を教育することも含まれた。患者は依然としてオピオイドが処方されていたが、用量が減り、必要時のみ増量された。

2番目の柱は、患者との術後面談を変えることであった。看護師が患者に、何らかの鎮痛剤、つまりオピオイドが必要かを機械的に尋ねるのではなく、患者が痛みに対して受けている非オピオイド薬と、その服薬頻度、用量について検討し、それらの薬が十分であるかを尋ねた。さらにケアチームは、患者が気付かないかもしれないオピオイドの潜在的な副作用について話をするトレーニングを受けた。

著者らは、4カ月間(2017年11月から2018年3月)かけて、泌尿器がんの手術から回復中の患者を対象に、日常のオピオイド使用状況、疼痛スコア、不安スコアを再調査し、また過度のオピオイド使用の要因となるファクターを分析した後に、これらのプロセスを確立した。さらに非オピオイド薬のさまざまな組み合わせを用いた、痛みに対する処方計画を作成した。研究者らは、新しいプロセスの導入後、既存のアプローチと比較して、術後24時間と48時間での患者の疼痛や不安が増強しないことを明らかにした。

「新しいアプローチでは、オピオイドが差し控えられたというわけではなく、オピオイドは患者や医師にとって必ず使用する治療薬ではなくなりました」Stevenson氏は述べた。「私たちの研究では、術後のオピオイドに対する患者の依存を軽減することは可能であり、医療従事者がオピオイドの頻用に立ち向かう全米規模の取り組みにおいて重要な役割を担っていることが示されました」。

著者らは彼らのアプローチがさまざまな疾患の別の種類の手術に適応できると確信しているが、それには異なる環境下で、より多くの人数の患者を対象に試験する必要がある。

本年のシンポジウムには、がん患者に対するケアの質を向上させる取り組みに焦点を当てた340を超えるアブストラクトが含まれている。記者のための現場の施設には、ニュース編集室や、質の高いケアを提供する一流の専門家への窓口が用意される予定である。

翻訳担当者 白鳥理枝

監修 野長瀬祥兼(腫瘍内科/近畿大学医学部附属病院)

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