ASCOが乳がんの統合医療ガイドラインを承認

ヨガ、瞑想、鍼治療など多くの療法が標準治療の副作用緩和のため安全に利用できる可能性がある。

Elizabeth Johnsonさんが、副作用を緩和する方法として統合医療を自身の乳がん治療レジメンに取り入れたいという希望を主治医のがん専門医に初めて伝えたとき、「いいですよ。試すことは可能ですが効果はありませんよ」とその主治医はJohnsonさんに伝えた。

Johnsonさんが幾度となくその希望を伝えても医師の反応はいつも同じであった。

「そのがん専門医はもう私の主治医ではありません」と診断から1年経ち現在も治療中であるミネソタ州在住28歳の主婦Johnsonさんは語った。「いろいろな意味でいい医師でしたが私には合いませんでした。私にとって非常に重要なのは、医師が理性的で偏見のない人であることです。そのがん専門医は化学療法しか頭になく、化学療法しか学ぶ気がなかったようです」。

Johnsonさんのような乳がん患者は、現在、従来の乳がん治療による症状および副作用に対処するエビデンスに基づいた方法として、鍼治療、瞑想、マッサージやヨガなどの統合医療が、世界有数のがん専門医団体である米国臨床腫瘍学会(ASCO)により承認されていることを、主治医に伝えることができる。

6月11日付でJournal of Clinical Oncology誌に発表された承認文書は専門委員会によるものである。専門委員会は、15年の歴史を持つ専門家団体である米国統合腫瘍学会(SIO:Society for Integrative Oncology)が発行した統合医療に関する一連の臨床実践ガイドラインを審査した。

ASCOの総括指導者であるフレッド・ハッチンソンがん研究センターのGary Lyman博士が共同で委員長を務める専門委員会は、SIOのガイドラインが推奨している療法すべてを容認しているわけではない。

しかし専門委員会は「採用可能である」と乳がん患者や治療チームに明確なメッセージを送った。

「患者が、科学的に証明された有効ながん治療に加え統合医療を利用し、医師がそれを承知していれば、我々はそれで満足です」とLyman博士は語った。「唯一問題となるのは、統合医療を主治医に開示しない、または従来の効果的な治療法の代わりに利用している場合です」。

統合医療という新しい分野

統合医療とは、従来のがん治療とエビデンスに基づく補完療法を連携させるものであり、外科手術、化学療法、放射線およびホルモン療法の代わりに鍼治療、ヨガ、瞑想などその他療法を用いることではなく、標準治療と一緒にこれらの補完療法を用いて、報告の多い副作用を緩和させるためのものである。統合医療は事例的証拠ではなく科学的証拠に基づいており、また患者の心、体および精神を満足させることにより、従来の西洋医学よりもホリスティックな方法を取るものである。

統合医療は主に新しい分野であり、各種療法による弊害および利益についての科学的研究が比較的少ないため、SIOがまとめて得られたエビデンスをASCOの専門委員会が入念に審査・更新し、各種療法の利用ガイドラインを提示した。

2017年に発表されたSIOのガイドラインは、科学的調査のゴールドスタンダードであり、専門家による査読を受けた、1990年から2013年にかけて実施されたランダム化比較対照試験の分析に基づいたものである。試験は50%以上の乳がん患者の参加による結果、または乳がん患者に関する別途報告による結果を採用した。また標準治療実施中の介入あるいは診断・治療による症状や副作用への介入として、統合医療を利用していることを条件とした。さらに乳がん患者およびサバイバーにおける臨床的に関連のあるエンドポイントへの対応(すなわち、治療による症状または副作用に対する顕著な効果)を必要とした。

ASCOによる承認が統合医療における画期的な出来事であることを示す一方、長く厳しい研究の道への始まりであるとLyman博士は語った。

「治療による関節痛の緩和および化学療法による嘔気を軽減する制吐薬の補助手段として有効であることを示す科学的証拠が明確な療法は、鍼治療などわずかです」とLyman博士は語る。「しかし、何が有効で何が有効でないかについて患者やその主治医に指示・指導を行うには、科学的根拠がここではさらに必要となります」。

ASCOがSIOのガイドラインを承認した理由は、すでに統合医療を利用している大多数の患者を考慮する極めて重要な段階である追加調査への土台作りおよび基準設定のためである。

「多くの患者が統合医療をすでに利用しており、そして、エビデンスが十分ではない療法が多くある一方で、リラクゼーション、瞑想またはヨガなど、害をもたらす可能性がほとんどなく、効果を示す可能性のある療法もあります」とLyman博士は語る。「効果があるというエビデンスがあり、また害をもたらすというエビデンスがない、または合理的な予測がないのであれば、我々は、少なくともこういった療法を考慮することができます、と抵抗なく言えます」。

乳がんのガイドラインは始まりに過ぎない

SIOが乳がんを選択した理由は患者集団が最大であり、科学的データが最も多かったからである。

「その他多数の悪性腫瘍についてのデータはほとんどありません」とLyman博士は語った。「乳がんから始めるのが自然でしたが、これが最後になってはいけません」。

米国統合腫瘍学会の前理事長でSIOガイドラインの共同委員長であるフレッド・ハッチンソンがん研究センターの疫学者Heather Greenlee博士は、ASCOの承認を「統合医療の分野にとって非常に重要な段階」と称した。

「およそ60~80%のがん患者が、診断後に補完医療、代替医療または統合医療のうち少なくとも1種類を利用していることを示唆するデータがあります」とGreenlee博士は語った。「しかし、ここには何が有効で何が安全かという情報が不足しています」。

ASCOがSIOガイドラインを承認することにより、臨床医が患者に話す必要のある情報を得られ、施設は安全で効果的なやり方で統合医療を実施するのに必要な情報を得られるでしょうと、乳がん患者における治療誘発性関節痛の緩和に鍼治療が役立つことを明らかにした最新研究の共同著者であるGreenlee博士は語った。

調査によると、米国国立がん研究所が指定するがんセンターの多くが統合医療を患者に提供している。

統合療法の有効性の判定

ASCOの委員会は多くの療法について審議を行った。等級の文字は科学的根拠の量と有効性を示す。

推奨グレードAおよびBは、正味の利益がA(相当程度)かB(並程度)のいずれかであることがかなり確実であることを示し、がん専門医に当該療法を実施するよう勧めるものである。グレードCは専門家の判断および患者の意向・希望に基づき個別の患者に「選択的に実施」すべき療法である。グレードDは正味の利益がなく推奨できない療法である。グレードHは有害である可能性が高く推奨できない療法である。グレードIは利益・不利益のいずれについても推奨できるエビデンスが十分でない療法である。

各種療法の位置づけ

不安軽減のため、瞑想、音楽療法および集団ストレスマネジメントプログラムのすべてが推奨されたが、鍼治療、マッサージおよびリラクゼーションは個別の患者で選択的に実施可能である。

・指圧療法、電気鍼治療、ショウガおよびリラクゼーションは、化学療法時の嘔気および嘔吐に対して制吐薬と共に個別の患者で選択的に実施可能である。グルタミンサプリメントの使用は、効果欠如のため推奨されない。

うつ病および気分障害の治療のため、瞑想(特にマインドフルネスに基づいたストレス軽減)、リラクゼーション、ヨガ、マッサージおよび音楽療法のすべてが推奨されたが、鍼治療、ヒーリングタッチおよびストレスマネジメントは個別の患者で選択的に実施可能である。

治療に関連する倦怠感への対処のため、催眠、人参(ジンセン)、鍼治療およびヨガは個別の患者で選択的に実施可能である。しかし、人参(ジンセン)やその他あらゆるサプリメントを使用する前には、医療チームによる指導を求めるよう、ASCOは患者に勧めた。人参(ジンセン)の中にはエストロゲン特性を持つものがあり、特定の乳がん患者に害を及ぼす可能性がある。倦怠感に対処するためアセチル-L-カルニチンおよびガラナを使用することもASCOは推奨していない。

リンパ浮腫への対応のため、低出力レーザー療法、徒手リンパドレナージおよび圧迫包帯療法は個別の患者で選択的に実施可能であることをASCOは明らかにした。

疼痛管理のため、鍼治療、ヒーリングタッチ、催眠療法および音楽療法は、個別の患者で選択的に実施可能である。

生活の質改善のため、瞑想およびヨガが推奨され、鍼治療、ヤドリギ、気功、リフレクソロジーおよびストレスマネジメントが考慮可能および選択的に実施可能である。しかしヤドリギは、その実と葉の大量摂取が重篤な有害事象を引き起こすため、皮下投与などの注入のみで使用するようASCOは警告した。

ガイドライン全文はこちら

懐疑的な態度を改めて患者のために働く

LymanおよびGreenlee両博士は、がん治療従事者の中には統合医療の利点に懐疑的な人もいることを認めているが、がん患者は医師の承認の有無に関わらず統合医療を利用しているため、臨床ガイドラインは重要であると両博士は語った。

「ほとんどすべての患者についてこのような疑問が浮上しています」と30年近くにおよぶキャリアを持つ乳がん専門医のLyman博士は語った。「患者が従来の治療以外に何を摂取し何を実施しているのかを医師が知っておくのは非常に重要です。オープンダイアローグ(率直な対話)を行うことが重要です。私たちは患者や医師を指示・指導する必要があります」。

統合医療を一蹴するがん専門医は、患者の要望を尊重し、統合医療の利用をカルテに記録し、その結果についても、特に副作用が見られた際には共有することを奨励すべきであるとLyman博士は語った。

「医師は患者をサポートし連携する必要があります」とLyman博士は語った。「医学的に完全に対処できない副作用を緩和したいと願う患者を、医師は責めてはいけません」。

Greenlee博士はガイドラインを執筆および審査する際の厳格さを指摘した。ASCOの専門委員会は最新のガイドライン承認文書に提示された推奨事項を支持するエビデンスをより一層批判的に審査・更新した。

「私たちは全エビデンスを批判的な目で検討しました」とGreenlee博士は語った。「統合医療を評価するため私たちは非常に高い制約を設けており、SIOおよびASCOと共に厳格な手続きに従いました。療法を審査するさまざまな専門分野の見方がありました」。

否定論者はどの代替療法も同列に扱う傾向があるが、効果のある療法と効果のない療法を明確にするため、ASCOおよびSIOはこれらの療法をふるいにかけようと努めているとGreenlee博士は語った。

「効果や安全性の有無を示す臨床試験があれば、私たちは生物学的メカニズムが明確な療法を報告するつもりです」とGreenlee博士は語った。「臨床試験をより多く実施する必要があり、ガイドラインもより多く発表する必要があります。さらに患者および医師のためにここで情報を公開する必要があります」とGreenlee博士は語った。

<画像キャプション訳>

米国臨床腫瘍学会は本日、米国統合腫瘍学会が発行した乳がん患者が従来の乳がん治療による副作用に対処する手助けをするエビデスに基づくわずかな療法(ヨガ、鍼療法および瞑想など)についてのガイドラインを承認した。

<画像キャプション訳>

Elizabeth Johnsonさんは3人の子供を持つ主婦であり、27歳の時にトリプルポジティブ乳がんと診断された。

<画像キャプション訳>

フレッド・ハッチンソンがん研究センターのGary Lyman博士は乳がん患者の統合医療を審査したASCO専門委員会の共同委員長のである。「乳がん患者が科学的に証明された有効ながん治療に加えこのような統合医療を利用し、医師がそれを承知していれば、我々はそれで満足である」とLyman博士は語る。

<画像キャプション訳>

Heather Greenlee博士は新ガイドラインを「統合医療の分野にとって非常に重要な段階」と称した。

翻訳担当者 松長愛美

監修 大野智(補完代替医療/大阪大学・帝京大学)

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原文掲載日 

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