フレイル(虚弱)評価ツールが多発性骨髄腫患者の生存を予測

実年齢だけでなく、身体機能と生活の質(QOL)の2要素を考慮するフレイル(虚弱)インデックスが高齢患者の治療意思決定に役立つ可能性

「多発性骨髄腫やそれ以外のがんを発症している高齢患者の治療合併症のリスクが高いことはわかっています。ですが、このフレイル(虚弱)インデックスは実年齢以外の要素も考慮に入れた指標です。がん専門医がこの情報を知っていれば、患者と予後予測についてより多くの情報に基づいて話し合うことができます。その結果、患者やその家族は治療選択肢を選ぶことができるので、治療に対して主体的に取り組めます」

「新しく作られた“フレイル(虚弱)インデックス”により、多発性骨髄腫と新たに診断された患者の全生存期間が予測できる」、という研究がJCO Clinical Cancer Informatics(JCO、CCI)で本日発表となった。多発性骨髄腫は高齢者で多発するがんであり、虚弱性が治療に関する意思決定において重要な要素となる患者が多いため、フレイル(虚弱)インデックスは重要である。著者らによると、多発性骨髄腫の全生存期間の予測において、実年齢のみに基づいた評価だけではなく、「加齢に関連した疾患や障害などをまとめて参考にして虚弱性を評価する」、という点でフレイルインデックスはこれまでになかったツールである。

「手元にあるデータを使って幅広く利用できるツールを作ることを目標としました。また、そのツールを使えば医師は患者により多くの情報が提供でき、それに基づいた治療に関する推奨を行えるのです」、と研究著者であるワシントン大学 セントルイス校医学部のTanya S. Wildes医師(科学修士)は述べた。「本研究結果により、多発性骨髄腫患者にとって、歴年齢のみでは全般的な健康を評価する有効な指標とならないないことが示されました」。

多発性骨髄腫患者のうち75歳以上の患者が35~40%を占める。新規治療法および高度な対症療法により転帰は有意に改善した。一方で、これらの積極的治療を受けても安全な患者と、より虚弱な患者を区別するという課題は未解決で現在研究されている。虚弱性の強い患者は侵襲性の低い治療法を利用した方がより多くの恩恵がもたらされ、全般的な健康およびQOLも維持できる。

「骨髄腫およびがん全般において多くの新しい治療選択肢があり、興奮させられます。ですが、“個々の加齢に伴う問題を有する個々人の体内でがんが発生している”、という事実を見失ってはなりません」とWildes医師は述べた。「背景となるがんとその治療法を見つけることだけではなく、高齢患者の虚弱性についても考慮しなければなりません」。

本研究について

本研究は、連邦政府の資金援助を受けている。研究チームは、 Medicare Health Outcomes Survey(MHOS)および1998~2009年の間のサーベイランス・疫学・最終転帰(SEER)-MHOSデータをリンクしたデータベースの66歳を超える非がん患者2,692,361例のデータを解析した。

MHOSでは、メディケア・アドバンテージ・プランに登録しているメディケア受給者の自覚症状、身体機能状態、および健康関連 QOLに関するデータを年に1回集めている。SEER-MHOSをリンクさせたデータセットでは、MHOSのデータをSEER-MHOSに参加している登記所14カ所の担当地域在住でがん診断を受けた患者の人口統計学的特性、腫瘍特性、生存に関してリンクさせた。

これらのデータを利用して、著者らは25の尺度と評価法よりなるdeficit accumulation frailty index(DAFI:虚弱性累積指数)を作成した。この指数は虚弱性評価における次の5分野のクライテリアより成る:日常生活動作(例、着衣や食事が困難であること)、慢性疾患、身体機能(例、歩行困難、あるいは階段を何階か上るのが難しいこと)、一般健康状態、および精神的健康。DAFIスコアが一定の閾値を超えた患者は「虚弱」となる。

次に、SEER-MHOSデータベースにおいて骨髄腫と新たに診断された患者305例にDAFIを適用し、全生存を予測した。

主な結果について

多発性骨髄腫と新たに診断を受けた患者と非がん患者にフレイルインデックスを適用したところ、研究チームは次の事象を確認した:

• 多発性骨髄腫患者において、年齢は虚弱性スコアが高いことに弱  い相関を示した。しかし、非がん患者においては年齢の高さが虚弱性スコアと強い相関を示した。

• 総合的には、非がん患者の42%が虚弱とみなされた。それに対し、多発性骨髄腫患者では52%であった。

• 虚弱とみなされた患者の全生存期間中央値は26.8カ月であった。それに対し虚弱とみなされなかった患者では43.7カ月であった。

• 非がん患者において、フレイルインデックスのスコアが10%高まるごとに死亡リスクが40%高まった。

• 多発性骨髄腫患者において、フレイルインデックスのスコアが10%高まるごとに死亡リスクが16%高まった。

「これらの結果から、多発性骨髄腫では、生物学的年齢と実年齢の比較に、より注意を払う必要があることが強調されます。というのも、フレイルは動的なものであり、疾患そのものより多くの要素を含んでいるからです」とWildes医師は述べた。「最終的には、この方法によって患者の全体像に基づいて患者個別の治療を決められればと期待しています。そうすれば、より強度の高い治療に耐えられる高齢者に対する治療が不十分であったり、治療毒性に対して影響を受けやすい高齢者への治療が過剰であるということが避けられます」。

次のステップ

フレイルインデックスのデータ最適化に関し複数の選択肢がある。たとえば、コンピュータ・プログラムに変換し、すでに多発性骨髄腫の診断を受けている患者、何度も再発している患者、疾病負荷、治療毒性に関して検討するというものである。

本研究は、全生存期間についてのみの事実報告に限られ、無進行生存期間、化学療法毒性、あるいは入院率については扱っていない。さらに、多発性骨髄腫集団データはメディケア・アドバンテージ・プログラムに登録した患者のデータである。このプログラムは低医療費の登録者参加促進により、全般的なリスクが低い患者(余り医療費のかからない集団)を選択している可能性がある。

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翻訳担当者 三浦恵子

監修 廣田裕(呼吸器外科、腫瘍学/とみます外科プライマリーケアクリニック)

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