高齢者機能評価により医師と高齢患者のコミュニケーションが改善

ASCOの見解

「私たち医療界では、がん治療の価値を生存重視の観点で考えることが多いのですが、高齢患者に関しては、それ以外のことにも目を向ける必要があると思います。高齢者機能評価はその患者のすべてを診て治療するために効果的なツールであることは明確です。それが患者と腫瘍専門医の話し合いのきっかけとなり、がん治療と全体的な健康管理について両者に情報を提供し、相談しながら方針決定できるようになります」と、米国臨床腫瘍学会(ASCO)専門委員でJoshua A. Jones氏(医学士、文学士)は言う。

連邦政府の資金援助により行なわれたランダム化試験によれば、高齢者の進行がんの通常の診療に高齢者機能評価を使用したところ、加齢に伴う懸念に関する医師と患者間のコミュニケーション、そうしたコミュニケーションへの患者満足度が有意に改善された。

高齢者機能評価とは、高齢者に多い健康関連の懸念を評価する方法のことである。本研究で行った高齢者機能評価には、身体能力や認知能力を調べる記述式標準質問票と客観テストが含まれる。研究者らは患者全員を高齢者機能評価により評価したが、診療を行う腫瘍専門医については、高齢者機能評価の結果を受け取る介入群への割り付けを無作為に行った。研究の結果、高齢者機能評価の結果を診察前に受け取った医師は、加齢に伴う懸念について話し合い、それらへの対処法を勧める傾向が高いことがわかった。

著者によると、本研究は高齢者機能評価が医師-患者間のコミュニケーションを改善することを示した初のランダム化試験であるという。本研究は今日の記者会見で報告され、2018年米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会で発表される。

「腫瘍専門医として、私たちはがんにだけ照準を合わせるのではなく、少し引いた視点でみる必要があり、高齢患者の場合には特にそれが言えます。延命も重要ですが、がんに関連しない多くの健康問題があり、それらは延命以上とは言わないまでも同じくらいに重要です」と、本研究の筆頭著者で、ニューヨーク、ロチェスター大学内科学Wehrheim基金受領教授であるSupriya Gupta医師(医学士、理学士)は言う。「患者とその介護者が加齢に関する懸念について腫瘍専門医に相談したがっていることは明らかです。本研究から、高齢者機能評価は腫瘍専門医にこうした高齢患者らのニーズの応えるのに役立つことが分かりました」

がん患者の約70%は65歳以上であり、今後20年で65歳以上のがん患者数の著しい増加が予測される1

高齢者機能評価について

高齢者機能評価では、心身の健康、栄養、社会的支援について加齢に伴う懸念を評価するが、そうした懸念は腫瘍専門医による通常の診察や理学的検査では見逃されることが多い。この評価では、がんに関連しない健康問題が原因で余命が短くなるリスクがある高齢者と、がん治療に伴う副作用のリスクが高い患者を識別することができる。

ASCOが最近発表した治療ガイドラインでも、65歳以上で化学療法を受ける全患者において、通常の腫瘍学的評価では捉えることのできない脆弱性の識別を目的として高齢者機能評価の使用を推奨している。

高齢者機能評価は、高齢者がん治療プログラムを有する主要がんセンターでもっとも広く使用されているが、他の医療現場においてはあまり使用されていない2,3

この研究について

本研究では、ロチェスター大学の「NCI地域腫瘍研究プログラム」に関わっている31カ所の地域腫瘍専門医療機関を無作為に、高齢者機能評価群と通常治療群に割り付けた。これらの医療機関からの患者542人の情報を本試験に組み入れた。患者は全員70歳以上で、治療困難な進行固形がんまたはリンパ腫を患い、研究登録時に実施した高齢者機能評価の少なくとも1項目で機能障害が認められていた。

評価項目として、機能(日常生活活動)、身体能力(平衡感覚、転倒、身体的な健康度など)、合併症(慢性疾患)、栄養、社会的支援、抑うつ、認知機能(記憶障害)等がある。

高齢者機能評価の中で、身体能力および認知機能の項目は、訓練を受けたコーディネーターが実施する客観テストで評価した。その他の項目は有効な質問票による自己申告とした。平均で質問票の回答に約30~45分、客観テストは受診施設で10分を要した。

両群とも患者は高齢者機能評価を受けるが、高齢者機能評価群の腫瘍専門医だけが評価結果概要と各患者向けの介入推奨事項(転倒歴のある患者に対する理学療法など)をウェブを介して次回診察前に受け取った。通常治療群の医師には、高齢者機能評価で患者に認知機能障害や抑うつといった著しい障害が認められた場合には報告されるが、評価結果の全体概要や治療に関する推奨事項は伝えられなかった。

高齢者機能評価後4週間以内に診察が行われた。研究者らは両群ともに、各患者につき1回の診察時の会話から録音、文字起こしをした記録をもとに医師-患者間のコミュニケーションの内容と質を評価した。医師が加齢に伴う懸念についてより多くの情報を集め、患者の不安に対して十分に対処している会話を「質の高いコミュニケーション」と定義した。医師-患者間コミュニケーションに対する患者満足度は、受診後の患者への電話による聞き取りで評価した。

主な知見

高齢者機能評価群は、通常治療群と比べて、診察時に加齢に伴う懸念を平均3.5回多く話し合っていた。高齢者機能評価群の医師-患者間では、通常治療群と比べて平均2回多く質の高い会話がなされており、高齢者機能評価群は通常治療群より2回多く介入が行われた。

介入内容には、転倒歴のある患者に対する理学療法評価、5種類以上の処方薬を服用する患者に対する高リスク薬剤の服用量減量または服用中止の指示、顕著な認知障害のある患者の意思決定能力の評価が含まれる。

高齢者機能評価群の患者は、高齢者機能評価の評価項目のうち加齢に伴う懸念のほぼ全項目について顕著に頻繁に話し合いをもった。医師とのコミュニケーションについての患者満足度は、高齢者機能評価群は通常治療群より1.12ポイント(統計的に有意な差)高く、患者が加齢に関連する不安について話し合いをもてたと評価したことが示唆される。

次の段階

研究者らは、高齢者機能評価の結果として行われる介入が患者の機能や生活の質、および介護者の満足度や生活の質に対してプラス効果があるかどうかを評価している。進行中の別の研究では、高齢者機能評価は高齢の進行がん患者の意思決定能力を改善することにより化学療法の副作用を減らせるかどうかを評価している。他の複数のランダム化臨床試験では、高齢者機能評価が他の転帰に及ぼす影響を調査中である。

本研究はPatient Centered Outcomes Research Institute(PCORI:患者中心アウトカム研究所)と米国国立がん研究所(NCI)から資金援助を受けた。本研究に掲載された所見、結論も含め発言内容すべては、研究著者によるものであり、必ずしも資金援助団体、PCORI、その理事会または方法論委員会の公式見解を表しているわけではない。

研究の概要

疾病名

進行固形腫瘍およびリンパ腫

研究の種類

クラスターランダム化臨床試験

患者数

542人

検討された介入

高齢者機能評価

主要な知見

高齢者機能評価は、加齢に伴う懸念に関する高齢患者とその腫瘍専門医のコミュニケーションの改善に役立つ

副次的な知見

高齢者機能評価を使用すれば、より多くの加齢に関する問題に対処できる

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参考文献:

1 Smith BD, Smith GL, Hurria A, et al: Future of cancer incidence in the United States: burdens upon an aging, changing nation. J Clin Oncol 27:2758-65, 2009
2 McNeil C. Geriatric oncology clinics on the rise. JNCI 2013 May 1. 1;105(9):585-6.
3 Mohile SG. Community Oncologists’ Decision-Making for Treatment of Older Patients with Cancer. JNCCN. 2018 March; 16(3):301-309

翻訳担当者 廣瀬千代加

監修 太田真弓(精神科・児童精神科/クリニックおおた 院長)

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原文掲載日 

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