リンチ症候群がMSI-H腫瘍患者に多いことがゲノム研究で判明

数種の新たながんとリンチ症候群の関連性が研究で示される

ASCOの見解
「本研究は、プレシジョン医療の進歩のおかげで、以前には見過ごされていたリンチ症候群を発見する可能性を大きくするものです。これは、リンチ症候群をより早く、より正確に診断し、患者さんの将来のがんを予防する貴重な機会をもたらすものです」と、ASCO専属のShannon Westin医師は述べた。

15,000を超える腫瘍サンプルのゲノム研究により、腫瘍内の多数の遺伝子変異に関連するゲノムマーカーである、高いマイクロサテライト不安定性(MSI-H)腫瘍を有する人々は、リンチ症候群である頻度が高く、多くの異なる種類のがん発症リスクが高まる遺伝的状態にあることを意味する。MSI-H腫瘍を有する患者のうち、16%がその後リンチ症候群であることが判明した。研究者らはまた、リンチ症候群がこれまで考えられていたよりも多くの種類のがんに関連していることも発見した。

本研究は、本日の記者会見で大きく取り上げられ、2018年の米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会で発表される。

「われわれの研究では、MSI-H腫瘍を有するすべての患者は、がんの種類や家族歴、がんの病歴にかかわらず、リンチ症候群を検査する必要性を示唆しています」と、研究の統括著者であり、Clinical Genetics Serviceの院長で、ニューヨークのスローンケタリング記念がんセンターの腫瘍医であるZsofia Kinga Stadler医師は述べた。「リンチ症候群を診断することは、がん検診の頻度を増やし、場合によっては予防的な手術を行うことによりがんのリスクを低下させる可能性があるため、がん患者だけでなく、リスクのある家族を助ける唯一の機会を与えるものになります」。

リンチ症候群とMSIについて

一般市民の300人に1人(0.3%)の人々がリンチ症候群であると推定され、何らかのがんを発症する危険性が増大する。リンチ症候群に関連する最も一般的ながんは大腸がんおよび子宮内膜がんであるが、リンチ症候群の人々は、他の消化器(大腸以外)、卵巣、脳および皮膚がんを発症するリスクも高い。リンチ症候群関連腫瘍の特徴はマイクロサテライト不安定性が高いこと(MSI-H)である。

MSIは、変異の蓄積により、損傷したDNAを修復する細胞機能の欠損を示すゲノムマーカーである。伝統的にMSI検査は、大腸がんおよび子宮内膜がんに対して、リンチ症候群のリスクがある患者を特定するための初期スクリーニング試験として行われてきた。2017年にFDAが腫瘍の種類にかかわらず、すべてのMSI-H腫瘍に対し免疫療法であるペムブロリズマブ(商品名:キートルーダ)の使用を承認して以来、ペムブロリズマブの効果が見込める可能性のある患者を特定するために腫瘍のMSI検査が広く用いられるようになった。

研究について

研究者らは、MSK-IMPACTと呼ばれる包括的なゲノム試験を使用して、50以上の異なる種類の進行がん患者から収集した15,000を超える腫瘍サンプルを分析した。すべての試験参加者は、MSK-IMPACTの前向き試験の一部であり、ニューヨークのスローンケタリング記念がんセンターでがん治療を受けた。この試験では、MSIを含む数多くのがん関連遺伝子の変異や他の分子変化を探索するために、次世代シークエンシング(NGS)を用いている。

研究者らは、DNA修復に関与する遺伝子(MLH1、MSH2、MSH6、PMS2およびEPCAM)の遺伝的変異を調べるために、研究参加者からの血液サンプルも検査した。これらの遺伝子変異がリンチ症候群を引き起こす。リンチ症候群によって生じた腫瘍は、ミスマッチ修復欠損(MMR-D)を有し、MSI-Hである。

主な知見

ゲノム解析の結果に基づいて、腫瘍サンプルを3つのグループに分類した。これには、MSI安定性(MSS、MSI不安定性が認められない)、MSI不確定性(MSI-I、中等度のMSI)、およびMSI-Hが含まれる。腫瘍の大部分(93.2%)がMSSであることが判明した。4.6%がMSI-Iであり、2.2%がMSI-Hであった。

リンチ症候群関連遺伝子の遺伝的変異は、MSI-I腫瘍患者では1.9%、MSS腫瘍患者ではわずか0.3%であるのに対し、MSI-H 腫瘍患者では16%に認められた。

予想通り、MSI-H / MSI-I腫瘍1,025例の約25%が大腸がん、または子宮内膜がんであった。これらはリンチ症候群に関連する最も一般的ながんであり、そのような腫瘍に対してMSI検査が日常的に行われている。しかし、リンチ症候群が確認されたMSI-H / MSI-I腫瘍の患者の約50%に、中皮腫、肉腫、副腎皮質がん、メラノーマ、前立腺がん、および卵巣胚細胞腫瘍といった以前にはリンチ症候群とは関連付けられなかった、あるいはめったに関連付けられることのなかった種類のがんが含まれていた。これらの患者のうち45%は、家族または個人のがん病歴に基づくリンチ症候群の遺伝子検査基準を満たしていなかった。著者らによると、これはリンチ症候群が以前考えられていたより広範囲のがんに関連しており、MSI-H / MMR-Dは、がんの種類にかかわらずリンチ症候群を予測できることを示唆している。

研究の最終段階では、57のMSI-I / MSI-H腫瘍サンプルもまた、異常なDNA修復タンパク質について検査され、これらの腫瘍のほぼすべて(98.3%)にMMR-Dが見出された。これらの知見は、MSI-HまたはMMR-Dのいずれかが腫瘍中に見出された場合、リンチ症候群の遺伝的検査を実施すべきであることを示唆している。

次の段階

リンチ症候群に関連した特定のがんを発症する機会は、頻繁なスクリーニング(例えば、年1回の消化管がんに対する大腸内視鏡検査および内視鏡検査)および予防手術(例えば、婦人科がん予防のための子宮および卵巣の摘出)によって低下させることができる。リンチ症候群に関連する他のがんのスクリーニングおよび予防戦略の進展には、さらなる研究が必要である。

本研究は、Romeo Milioリンチ症候群財団、Marie-JoséeおよびHenry R. Kravis分子腫瘍学センター、遺伝的がんゲノミクスのRobert and Kate Niehausセンター、Fieldstone Family Fund、Cancer Colorectal Cancer Dream チームトランスレーショナル研究助成金(SU2C-AACR-DT22-17)、およびNIH / NCIがんセンター支援助成金(P30 CA008748)による。

試験の概要

疾患名複数のがん
試験の相、種類ゲノム研究
試験患者数15,000人以上
主要結果MSI-H腫瘍患者の16%がリンチ症候群
副次的結果リンチ症候群患者の50%はリンチ症候群とは関連付けられなかった、あるいはめったに関連付けられることのなかった種類のがんを有する

参考(英語):
・リンチ症候群

・がんリスクの遺伝子検査

翻訳担当者 橋本 奈美

監修 畑 啓昭(消化器外科/京都医療センター)

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原文掲載日 

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