リンパ節転移陽性の術後乳癌においてドセタキセルを含む多剤併用療法が有効

Docetaxel Combo Effective After Surgery for Node-Positive Breast Cancer
(Posted: 06/28/2005) June 2, 2005, issue of the New England Journal of Medicine.によると、リンパ節転移陽性乳癌の手術のあとドセタキセルを含む多剤併用療法を受けた女性は、従来の薬剤フルオロウラシルを含む同様の多剤併用療法を受けた女性より再発、死亡が少ない。


要約
リンパ節転移陽性(リンパ節まで広がっている)乳癌に対する手術を受け、ドセタキセルを含んだ併用療法で追加(術後補助)療法を受けた女性は、旧来の薬剤であるフルオロウラシルを含んだ同様の併用療法を受けた女性よりも再発または死亡する可能性が低いことが確認されました。

出典  2005年6月2日のニューイングランドジャーナルオブメディスン(ジャーナル要旨参照)

背景
術後補助(追加の)療法は、癌を治癒する可能性を高める、または癌の再発を低減させるため、一次治療後、癌患者に対して頻繁に用いられています。化学療法は乳癌の女性に対する補助療法として重要な役割を果たしています。

1990年代、FAC(フルオロウラシル、ドキソルビシンおよびシクロホスファミド)として知られる併用療法は、この患者群の術後補助治療として有効であると確認され、標準療法となっていました。フルオロウラシルは、代謝拮抗剤として知られる薬剤群に属し、特定の方法で細胞が増殖する能力を妨害することによって作用を現します。

近年、タキサンと呼ばれる別の薬剤群の製品、例えばドセタキセル(タキソテールR)およびパクリタキセル (タキソ-ルR)が、早期乳癌の術後補助治療として有効であることが確認されました。タキサンは、微小管と呼ばれる細胞構造に影響を与えることによって癌細胞の増殖を抑えます。

試験
1997年、乳癌国際研究グループは国際多施設第3相臨床試験を開始し、TAC(ドセタキセル+ドキソルビシンおよびシクロホスファミド)の有効性とフルオロウラシルを含むFACの有効性を比較しました。本臨床試験には、試験登録の60日以内にリンパ節転移陽性乳癌に対する外科手術を受けた18歳から70歳までの女性1,491名が組み込まれました。試験参加者はTACとFACのいずれかを6サイクル受ける治療に無作為に割り当てられました。

結果
中央値55ヶ月の追跡で、FACの治療を受けた女性の68%に対し、TACを受けた女性では75%が無病で生存していました。この結果は、TAC群では再発のリスクが28%減少したことを示しています。

55カ月後の全生存率はTAC群で87%、FAC群では81%でした。これはTACで治療をうけた患者の死亡のリスクが30%減少したことを意味しています。しかし、TACは旧来の治療法よりも毒性のある副作用を引き起こす可能性が有意に高いことが分かりました。例えば、TACを受けた女性は、感染症や血球数の減少、鬱血性心不全を発症しやすい傾向があります。

コメント
フロリダ州ジャクソンビルのメイヨー・クリニックのEdith A. Perez医師は付随の論説の中で「本臨床試験は、旧来のFAC治療の代わりにTACを使用することを支持するものです。」と記載し、また「TACを標準療法と見なすことができる」と付け加えました。

「本臨床試験は、質の高い試験であり、ドセタキセルなどのタキサンが乳癌の女性に対する術後補助療法において役割を持つという証拠をもたらすものである」と米国立癌研究所のCancer Therapy Evaluation Program(癌治療評価プログラム)の腫瘍内科医、JoAnne Zujewski医師は語りました。Zujewski医師はまた、医師達がTACによる恩恵が受けられる可能性の高い患者を特定できるようにし、またどの治療スケジュールが最も有効であるかを決定するためのタキサンに関するより特定の情報を提供しできるような別の臨床試験が必要であると述べました。

制限事項
論説の中で、Perez医師は臨床試験は70歳以下の女性に限定されており、より高齢の女性における(TACの)有効性および忍容性を評価するのは不可能であると強調しました。

Perez医師が他に指摘している点は、1998年以降、米国におけるリンパ節転移陽性乳癌女性に対する標準療法は、ドキソルビシンおよびシクロホスファミドの後にパクリタキセルを投与する療法であるということです。この療法とTACはどのようにして比較できるでしょうか?その回答は、National Surgical Adjuvant Breast and Bowel Project(NSABP、乳癌と大腸癌の術後補助療法に関する国家プロジェクト)が実施中の臨床試験(プロトコル概要参照)を含むその他の臨床試験結果から得られるでしょう。    (ポメラニアン 訳・島村義樹(薬学) 監修 )

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