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白血病の毒素治療に対する抵抗性を予防する薬

以前の臨床試験において、細菌毒素成分を含有するがん治療薬が、小児で最も多いがんであるB細胞性急性リンパ性白血病(ALL)の治療に有望であることが示唆されていた。しかし、米国国立がん研究所(NCI)で開発されたこの薬は、すぐに効かなくなるという欠点があった。

 

今回、新たな研究により、再発または化学療法抵抗性(難治性)ALL患者に対する当該薬moxetumomab pasudotox[モキセツモマブ パスドトクス]すなわちMoxeの有効性を改善する可能性のある治療戦略が突き止められた。

 

NCIの研究者らによる本研究において、アザシチジン(AZA)とMoxeとの併用がALLマウスモデルでの毒素治療への抵抗性の克服に寄与していることが示されたのである(AZAは既に一部の血液がんの治療に用いられている)。

 

この結果から、AZAを用いることでALL小児患者のMoxeに対する効果が改善される可能性があることが示唆されていると本研究の責任医師であるNCIがん研究センターのIra Pastan医師は述べた。

 

以上の新たな知見は2018年2月20日、Proceedings of the National Academy of Sciences誌で発表された。

 

本研究で得られたエビデンスは、白血病患者を対象としたAZA + Moxe併用に関する臨床試験を後押しするものであるとダナファーバーがん研究所の白血病研究者Andrew Lane医学博士(本研究には携わっていない)は述べた。

 

細胞表面分子を標的とする白血病治療

Moxeは二種類以上の治療歴のある有毛細胞白血病成人患者の治療に有望であることが示された。二種類以上の治療歴のある再発または難治性有毛細胞白血病成人患者を対象にMoxeによる治療を評価した第3相単一群主試験で、主要評価項目である長期完全寛解が達成されたのである。

 

再発または化学療法抵抗性小児ALLは比較的まれであるとはいえ、再発した場合、治療が難しくなる。また、小児ALLに対し現在行われている初回治療すなわち一次治療には重篤な副作用が伴う。それゆえ、従来よりも更に標的を絞った毒性の少ない治療法の開発に力が注がれている。その標的候補の一つがCD22である。CD22は、ALLの腫瘍細胞表面上に高頻度で認められる分子であり、Moxeと結合する。

 

「急性白血病で著しく高レベルで認められる細胞表面分子を狙い撃つ標的治療は、標準化学療法に追加される重要な治療であるとされています」とテキサス州立大学MDアンダーソンがんセンターのALL研究者Marina Konopleva医学博士(本研究には携わっていない)は述べ、さらに、Moxeによる治療は、開発中である多くの標的治療の一つにしか過ぎないと付け加えた。

 

Moxeは、CD22を標的とする抗体の一部と緑膿菌由来の毒素の一部という2つの構成要素を融合して作られた抗毒素である。本薬は、CD22と結合し、そのがん細胞内に入り、細胞のタンパク質合成を阻害する毒素を放出することにより、このがん細胞を殺傷する。

 

一次治療後に再発、もしくは化学療法抵抗性になったALL若年患者を対象として以前実施されたMoxeの早期臨床試験では、患者のわずか約3分の1でしか病勢の後退が認められなかった。しかも、最初はMoxeの効果が得られても、間もなく抵抗性になり、再燃に至った患者もいるとPastan医師は述べた。

 

Moxeは、有望な開発中の微生物毒素融合薬の一つであることから、「なぜ、それらの微生物毒素融合薬が特定のがん細胞では作用するのか、あるいは作用しないのかについて探究していくことが不可欠です」とLane医師は述べた。

 

抵抗性が生じる機序と抵抗性克服法の探究

Pastan医師のチームによる以前の研究では、実験室で培養したヒトALL細胞株のMoxeに対する抵抗性の機序が確認された。さらに、AZAを用いることで、Moxe抵抗性を予防、もしくは一部戻せる可能性が示された。

 

新たな研究に備え、この研究チームはALLのMoxe抵抗性を研究するためのマウスモデルを開発した。マウスモデルでのMoxe抵抗性は、患者でのMoxe抵抗性に、より類似していると推測したのである。ヒトALL細胞株を注入した免疫不全マウスにおいて、血液および骨髄で白血病の発症が認められた。これらのマウスモデルは最初、Moxeに対し反応したものの、急速に抵抗性を示したとPastan医師は述べた。

 

Moxe抵抗性細胞は、マウス骨髄内の特定の場所で生き残った後、身体の他の部位に広がったことが確認された。これらの細胞では、その表面上にあるMoxeの標的、CD22の発現レベルが低下していた。これらのMoxe抵抗性細胞は、実験室で培養することはもはや不可能であり、重大な遺伝子発現の変化および染色体変化が認められた。

 

「Moxe抵抗性細胞でCD22の発現レベルが低下しているという発見は興味深いものです。なぜなら、CD22のような標的を有し、標的治療が用いられる他の白血病でも、再発した場合、患者の腫瘍細胞上でその標的が失われているのを我々は頻繁に認めてきたからです」とLane医師は述べた。

 

Pastan医師のチームは、事前にAZAを投与したマウスにおいてMoxeに対する効果が大幅に改善されたことを示した。しかも、1匹のマウスモデルでは、AZAがMoxe抵抗性の発生を防ぎ、AZAとMoxeを用いたこの治療法により白血病が完全に消滅した。

 

抵抗性予防にこれほど効果的な薬を動物モデルにおいて確認できたことは「驚嘆」に価するとPastan医師は述べた。

 

前述とは異なるヒトALL細胞株を用いて作られた第2のマウスモデルでは、AZAがMoxe抵抗性の発生を遅らせ、生存期間を延長させた。

 

しかし、AZAがどのように作用してマウスの抵抗性が克服されるのかについては、依然として不明であるとKonopleva医師は述べた。

 

マウスでの研究に基づく臨床試験の必要性

「AZAは忍容性が良好なため、白血病の臨床試験では他の新薬と併用されることが多い」とLane医師は述べる。Lane医師は、再発または難治性急性骨髄性白血病(AML)の患者を対象とした、AZAともう一つの毒素融合薬であるDT(388)IL3融合タンパクSL-401の早期臨床試験を主導している。

 

この試験は、Lane医師らが昨年12月頃会議で報告した「AZAがいくつかの異なるAML細胞株でSL-401抵抗性を戻した」という知見に基づいて実施されている。

 

Konopleva医師は、がんの薬剤抵抗性に関する動物研究では、理想的には、実験室で培養したがん細胞株よりもむしろ、患者由来の異種移植片、すなわち患者からマウスに移植した腫瘍組織を用いるべきであるという。Lane医師も同意見ではあるが、そのような研究の実施は、がん種によっては現実的ではないと考えられると述べた。

 

「新しい治療を喫緊に必要とする白血病患者がいます。ヒトでの安全性が確認された2つの薬があり、それらが実験室の培養皿上やマウスモデルで何らかの相加効果を示したとすれば、その実験モデルが完璧であるかの確認を待たずに臨床試験に進むことが望まれるでしょう」

 

AstraZeneca社の子会社であるMedImmune社は、NCIからMoxeのライセンスを得、NCIのがん治療評価プログラム(Cancer Therapy Evaluation Program)と共同でMoxeの臨床開発の進展に取り組んできた。しかし同社はMoxe・AZA併用に関する臨床試験を推し進めるか否かについては言及していない。

 

Pastan医師は、Moxe単独治療もしくは他の治療との併用治療は、最終的には有毛細胞白血病や、もしかするとCD22高発現の他のがんに対する一次治療として考慮される可能性はある。しかし、標準治療に不応のがん患者においてMoxeの安全性と有効性が示されることが先決であると述べた。

翻訳八木佐和子

監修野﨑健司(血液・腫瘍内科/大阪大学大学院医学系研究科 )

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