50歳未満の米国人で非噴門部胃がんの頻度が上昇

ここ数十年間で胃がん全体の頻度が減少しているにもかかわらず、胃の下部に生じるタイプのがんが、50歳未満の米国人の一部で増加していることが、米国国立がん研究所(NCI)主導の新たな研究から明らかになった。

本研究は、非噴門部胃がんと呼ばれる胃の下部に生じるがんの米国における頻度を追跡調査した。

1月18日に発行されたJournal of the National Cancer Institute誌での研究者らの報告によると、1995~2003年の間に、一般集団での非噴門部胃がんの頻度が1年ごとに約2.3%低下した。しかし、生年でのデータを解析したとき、特徴的な傾向を2つ特定した。

50歳以上の米国人では頻度が年2.6%低下していたが、50歳未満では年1.3%上昇していた。

「これは驚くべき結果でした」と、本研究を主導している、NCI がん疫学・遺伝学部のM. Constanza Camargo博士は述べた。非噴門部胃がんの頻度が全体的に低下したために、高齢者と若年者との相違に当初気づかなかった。

リスク要因および頻度の推移

非噴門部胃がんの主な原因は2つある。ヘリコバクター・ピロリ菌の感染、および本人の免疫系が胃の内膜を攻撃して生じる自己免疫性胃炎である。

ヘリコバクター・ピロリ菌感染の有病率が、米国では過去1世紀にわたり明らかに低下している一方で、自己免疫性胃炎はここ数十年間で多くみられるようになっている。

これらの傾向が非噴門部胃がんの頻度におよぼす影響を把握するため、研究者らは北米中央がん登録室協議会のデータを解析した。

これらのレジストリは45州、米国人口の約80%を網羅している。

50歳未満での非噴門部胃がんの頻度上昇は、非ヒスパニック系白人、特に女性で最も顕著にみられた。

本研究期間中、若年のヒスパニック系白人の頻度もわずかに上昇した。しかしながら、非ヒスパニック系黒人など他の人種では、上昇はみられなかった。

新たな胃がんのタイプ?

総合すると、今回の知見は「新たな(タイプの)胃がん」、すなわち、主に胃体部に生じるがんで、特に50歳未満の女性に発現するがんがあることを示唆していると、ニューヨーク大学医学部のMartin Blaser医師およびYu Chen医学博士は付随論説に書いた。胃体部は胃の主な部分である。

Blaser、Chen両医師は、これらのがんが新たなタイプの胃がんであるという考えを裏づけるエビデンスとして、年齢層の影響(若年世代の頻度上昇)、胃における腫瘍の部位(主に胃体部および隣接部位)、性別の強い影響という3要素を挙げた。

「若年女性での急増は特に憂慮すべきことです」と論説委員らは書いた。このがんの本質を真に理解するために、さらに研究を進めることが大いに必要であると論説委員らは付け加えた。

頻度上昇:抗生物質が関与?

今回の新規研究は頻度上昇の原因を特定するためにデザインされていなかったが、研究著者らは、頻度の傾向が変化し始めたのは、抗生物質が普及し始めた1950年代頃であったと指摘した。

「1950年以降に生まれた人々でのこのがんのリスクが上昇することが分かっています。これは、抗生物質の導入と一致しています」とCamargo医師は述べた。「非噴門部胃がんの頻度上昇は、男性より女性で顕著であり、男性より女性の方が多く抗生物質を服用していることが分かっています」。

抗生物質の使用により、胃の中に微生物や微生物叢が蓄積するのが妨げられる可能性があるとCamargo医師は述べた。「理論上、ヘリコバクター・ピロリ菌の欠失などのこれらの変化が自己免疫性胃炎の原因となり、非噴門部胃がんのリスクが上昇します」とCamargo医師は付け加えた。

さらなる研究で胃がんのリスクに対する抗生物質の潜在的影響を調べる必要があるものの、これらの薬剤は人命を救うものであり、医療上必要なときには用いられるべきであるとCamargo医師は強調した。

現況頻度は改善の予測

研究者らはこの種のがんを生物学的により良く理解することに加え、そのがんの診断戦略を立てる必要がある。胃がんは病期が進んでから診断されることが多く、その時にはがんの治療がより難しくなっている可能性がある。

「これらのがんの分子生物学的的特徴についてさらに学ぶ必要があります」とCamargo医師は述べた。「そして非噴門部胃がんが発現するリスクが高い人々を特定することに努めています」。

それらの結果に基づき、研究者らは米国におけるこのがんに関する主な変化を2つ予測している。まず、2025年頃には、頻度は男性より女性の方が高くなり、現在の傾向が逆転すると考えられる。次に、2030年までには、非噴門部胃がんの全頻度は、低下するどころかむしろ上昇するとみられる。

Blaser、Chen両医師は論説で、そのような変化が起こりえることに同意見であり、「増大する脅威について警告を発する鋭い観察」をしている研究者らをほめたたえた。

翻訳担当者 太田奈津美

監修 中村能章(消化管悪性腫瘍/国立がん研究センター東病院 消化管内科)

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