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化学療法による神経障害のコントロール

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化学療法による神経障害のコントロール

MDアンダーソン 月刊OncoLog誌2017年11-12月号

MDアンダーソン OncoLog 2017年11-12月号(Volume 62 / Issue 11-12)

 Oncologとは、米国MDアンダーソンがんセンターが発行する最新の癌研究とケアについてのオンラインおよび紙媒体の月刊情報誌です。最新号URL

 

ニューロモデュレーション(神経調節)、薬物療法ががん患者の末梢神経障害治療に有望

 

化学療法による末梢神経障害は、手足の疼痛や感覚喪失が特徴であり、がん患者の治療を妨げ、生活の質を著しく下げる可能性がある。末梢神経障害は残念なことに化学療法で最もよくみられる重篤な有害作用であるが、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究グループは末梢神経障害に対する新しい治療法の試験を行っている。

 

「神経障害は非常に広くみられる問題で、どの種類のがんの患者にも発症し、多くの種類の化学療法によって引き起こされる可能性があります」と、緩和・リハビリテーション・統合医療部の助教Sarah Prinsloo博士は語った。「しかし、市販されている有効な治療薬は多くありません」。

 

Prinsloo博士らはこの状況を変えようとしている。前臨床研究と臨床試験で、薬理学的および非侵襲的なニューロモデュレーション療法で末梢神経障害をコントロールし回復させられるかどうかを調べている。

 

複雑な合併症

化学療法が感覚を支配する神経や、たまに運動を支配する神経を傷つけると、神経障害が引き起こされる。しかし、末梢神経障害がいつ、だれに、どのようにして発症するのかは明らかになっていない。
「末梢神経障害には、患者に固有の感受性、遺伝子構造、化学療法の期間や投与量といった、多くの要因が関与している可能性があります」と疼痛医学部長で教授のSalahadin Abdi博士は述べた。

 

末梢神経障害は発症も期間も患者によって異なる。化学療法の初回投与で神経障害を経験する患者もいれば、治療が進んでしばらくたってから経験する患者もいる。治療が終了してもずっと神経障害が続く患者もいれば、治療終了後すぐに症状がなくなる患者もいる。

 

末梢神経障害患者に何を生じるかも異なる。「末梢神経障害は疼痛症候群として分類されますが、神経障害患者の症状はさまざまです。疼痛がある患者もいますが、違和感だけの人もいます。異常な冷えを感じる患者も、ほてりを感じる患者もいます。重いものが脚に乗っているような感覚を覚えることもあります」とPrinsloo博士は語った。「私たちの患者のほとんどは、しびれやうずき、感覚の完全喪失を訴えます」。

 

脚の神経障害があまりにもひどく、運転の際にペダルを踏む圧力を感じることができず、運転できなくなる場合もあると、Prinsloo博士は語った。バランス感覚がなくなり、歩行器を使わなければならなくなる患者もいる。

 

末梢神経障害の治療には一般に、抗うつ薬、抗けいれん薬、鎮痛薬などが使われる。リドカインなどの局所麻酔薬が使われる場合もあり、極端な疼痛がある場合にはオピオイドが使われることもある。しかし、こうした選択肢はいずれも特に有効というわけではなく、どの治療薬にも有害作用がある。

 

「全体的に、既存の末梢神経障害治療薬は満足がいくものではありません」とAbdi博士は語った。「ほかの選択肢を開発する必要があります」。

 

ニューロモデュレーションが選択肢に

既存の医薬品による介入には限界があり、医薬品以外で神経障害を解決する手段を求める医師や患者が増えている。中でも特に有望な分野がニューロモデュレーションである。

 

「脳は、疼痛の処理など学習できることはすべて他のやり方を学習することができます」とPrinsloo博士は述べた。「ニューロモデュレーションでは、フィードバックや刺激など医薬品以外の手段を使って、現在のやり方とは異なるやり方を脳に覚えさせます」。

 

MDアンダーソンで研究中のニューロモデュレーションによる介入には、スクランブラー療法、反復経頭蓋磁気刺激、ニューロフィードバックなどがある。

 

-スクランブラー療法

スクランブラー療法は、損傷した神経が脳へ情報を送ることを阻止し、正常な情報だけを脳へ伝える。その結果、疼痛の認知が低下し、感覚の認知が改善される。

 

「末梢神経障害患者はスクランブラー療法への反応が良いようですが、なぜなのかはわかりません」とAbdi博士は述べた。「わかっているのは患者の気分が良くなり、疼痛が改善し、薬を減らすことができて、手足の感覚が戻ってくるということです」。

 

既知の有害作用がなく繰り返し行うことができるスクランブラー療法は、45分間のセッションを10日以上行う。神経障害が最悪の部位の周囲に電極を置き、感覚の情報を脳へ伝達するC神経線維を刺激する。通常、この治療では5~10分以内に疼痛が減少しはじめ、その効果は長く持続することもある。

 

「効果は数カ月間続きます」とAbdi博士は言った。「疼痛が戻ってきても、治療前ほど悪化することはありません」。

 

Abdi博士は、20人を超える末梢神経障害または帯状疱疹や幻肢痛などほかの疾患による神経障害の患者にスクランブラー療法を行ってきた。ほとんどの患者の反応は良好であるが、末梢神経障害患者での結果は特に有望である。

 

「私たちが見ている結果は驚異的です」とAbdi博士は語った。「末梢神経障害患者10人を調査したところ、疼痛が平均62.5%軽減しました。そのうち9人が薬を減らすことができました。そして8人に感覚の顕著な改善が認められました」。

 

Abdi博士らは、スクランブラー療法のランダム化対照試験を計画しており、約6カ月間以上の追跡調査を行い、この治療法の長期間の効果を判定する予定だと語った。長期的には、スクランブラー療法は末梢神経障害だけでなく、糖尿病性神経障害などほかの神経障害性疼痛症候群にも幅広く使えるようになる可能性があると、Abdi博士は述べた。

 

「スクランブラー療法は末梢神経障害に有効ですが、他のタイプの神経障害にも効果がある可能性が高いのです」とAbdi博士は語った。「有害作用がない治療法で患者を治療する可能性があるのだから、スクランブラー療法の研究を決断するのは容易なことです」。

 

-ニューロフィードバック

ニューロフィードバックはオペラント条件付けの一形態で、望ましい行動で得られたプラスの結果を強化することによって行動を修正する。
「脳は学習したがっています」とPrinsloo博士は述べた。「脳は、ある部分の機能を変化させると報酬が得られることを一度学習すると、その新しい機能を何度も繰り返し行ってその報酬を得ようとします。最終的に、それが脳のその部分の正常な機能となります」。

 

ニューロフィードバック療法は1コース20セッションで、1セッションは1時間もかからない。脳波記録用のセンサーを患者の頭皮の適切な位置に取り付け、神経障害性疼痛が起きている間に活性化している領域の脳波を追跡する。患者に自分の脳波のビデオを見せ、その間の患者の脳波をモニターする。患者は、自分の脳波パターンを望ましい方向に調節するたびに、視覚と聴覚にプラスのフィードバックを受け取る。

 

患者はふつう最初の10セッション以内に症状が軽減されたと感じるが、「フィードバックをやめるのが早すぎるとそれが記憶されません。そこで、次の10セッションで記憶の定着を図ります。神経障害の症状が軽減したら、その記憶が定着するまで強化を繰り返します」とPrinsloo博士は述べた。

 

ニューロフィードバックの予備試験で、Prinsloo博士らは、各がん種、病期の末梢神経障害患者30人をニューロフィードバック群に、別の末梢神経障害患者32人を待機リスト対照群(試験後にニューロフィードバックを受ける患者)にランダムに割付けた。試験終了後、ニューロフィードバック群の患者は、臨床的にも統計学的にも末梢神経障害が有意に低下した。

 

重要なことに、ニューロフィードバック群の完遂率は100%で、Prinsloo博士はこれを疼痛緩和を望む患者の強い希望によるものだと考えている。Prinsloo博士らは現在、乳がん患者を対象とした臨床試験(No. 2015-0399)で末梢神経障害に対するニューロフィードバックを調査している。

 

-反復経頭蓋磁気刺激

反復経頭蓋磁気刺激は1980年代ごろに現れた方法で、うつの治療法として初めて米国食品医薬品局に承認され、最近では神経系の外科手術の前の言語および運動マッピングについて承認された。反復経頭蓋磁気刺激が慢性疼痛症候群とてんかんに対して有効であることが実験的に示されており、Prinsloo博士は現在、オキサリプラチンによる神経障害を発症した結腸直腸がん患者を対象とした臨床試験(No. 2016-1134)でこの治療法を検討している。

 

「反復経頭蓋磁気刺激が慢性疼痛に有効であることは多くの論文に示唆されており、末梢神経障害にも有効だということを示す論文もあります」とPrinsloo博士は語った。「しかし、このような患者群では調査されていません」。

 

患者登録を開始したばかりのこの試験に参加する患者は、1時間未満で終了する反復経頭蓋磁気刺激のセッションを10回受ける。セッションでは、患者は座り心地の良い椅子に座り、側頭部に電磁コイルが取り付けられる。標的化磁気パルスによって脳の運動野に電流を生じさせ、その部分の活性度が変化するように刺激する。この治療には、頭皮の炎症など、軽度の有害事象がわずかにあるだけである。

 

-前臨床研究では有望

症状研究部長臨時代理で教授のAnnemieke Kavelaars博士は、齧歯類モデルを用いて、末梢神経障害を予防するためのいくつかの薬物療法の候補を調べている。大半は末梢神経細胞(長さ1 m以下の細胞)のミトコンドリアの保護に関与している。末梢神経細胞は、正しく機能するために、細胞本体でつくられた脊髄付近の後根神経節にあるタンパク質を四肢にある軸索末端まで輸送できなければならない。この過程には、細胞のミトコンドリアによる十分なエネルギー代謝が必要である。

 

「化学療法は、主に末梢にありこのようなエネルギーを産生するミトコンドリアを破壊するので、末梢神経障害はつま先から始まり足に広がることが多く、手にも現れて、悪化すると体幹部の上の方へ広がります」とKavelaars博士は語った。「このようなエネルギー工場が壊れるので、末梢神経の末端は手足の皮膚から退縮しはじめます。おそらくそれが、神経障害患者が感じるしびれの一因なのでしょう」。

 

Kavelaars博士らが研究している薬の一部が、抗糖尿病薬として広く使用されているメトホルミンと、p53とミトコンドリアの結合を阻害する低分子化合物ピフィスリン-μである。

 

「ミトコンドリアをメトホルミンかピフィスリン-μで保護できれば、神経障害によって現れる疼痛や感覚喪失をどちらも防げるということを、私たちは見てきました」とKavelaars博士は語った。

 

Kavelaars博士ら研究チームは、末梢神経障害を回復することができるかもしれない薬剤も研究している。「少なくとも齧歯類モデルで神経障害を予防できる化合物があることを多くの研究者が示してきましたが、すでに破壊されてしまったものを修復するのははるかに困難です」とKavelaars博士は語った。「私たちの最近の研究は、薬物によって神経障害を回復させることができることを示す初めての研究の一つです」。

 

そのような薬剤の一つが、新規の選択的HDAC6(ヒストンデアセチラーゼ6)阻害薬ACY-1083である。「この薬を用いると、末梢へ運ばれる健康なミトコンドリアが増え、損傷した神経末端が再成長する様子が見られます。疼痛としびれは消えます」とKavelaars博士は述べた。「この薬は、原因にさかのぼって問題を修復します」。

 

メトホルミンやピフィスリン-μ、ACY-1083は、神経損傷の修復に加えて、in vitroだけでなくin vivoでも、ほかのがん治療の抗がん作用を増強することが示された。実際、ACY-1083より選択性の低い別のHDAC6阻害剤ricolinostat(リコリノスタット)は、MDアンダーソンの臨床試験(No. 2011-0167、登録は終了)で、抗がん増強作用についてすでに試験中である。

 

希望の兆し

ニューロモデュレーションによる治療法が臨床試験で前進し、既存の薬剤だけでなく新しい薬剤による有望な前臨床データが蓄積されているものの、神経障害の謎は残ったままである。
「神経障害がふつうどのように解消されているのかについて、理解しなければならないことがたくさんあります。かなりの神経障害患者が化学療法終了後にも問題を抱え続けていますが、治療終了後に疼痛が消える患者もたくさんいます」とKavelaars博士は語った。「なぜ問題を抱え続ける人とそうでない人がいるのかはわかりません」。

 

こうした疑問が解決できれば、さらに有効な末梢神経障害療法が開発できるかもしれないと、Kavelaars博士は考える。

 

「何年間もの落胆の後で、私たちはとうとう、本当に末梢神経障害を治療できる方法を見つける方向に進みはじめました」とKavelaars博士は述べた。「このような患者に、本当の救いが見え始めています」。

 

写真キャプション訳(上)】

シスプラチンによる神経障害を発症したマウスに対照溶媒(左)とHDAC6阻害薬ACY-1083(右)を投与し、そのマウスの足から採取した生検検体を顕微鏡写真法で調べたところ、ACY-1083が軸索病態の初期の徴候である表皮内神経線維喪失を回復させたことが明らかになった。点線は基底膜、矢印は基底膜に交差する表皮内神経線維を示す。この検体は、表皮内神経線維に対する抗体(赤)とコラーゲン(緑)で染色された。画像はAnnemieke Kavelaarsh博士およびJiacheng Ma博士の厚意による。

 

キャプション訳(下)】患者一人につきニューロフィードバックを20セッション行った後に撮像した標準化低解像度脳電磁波トモグラフィ画像の群別患者データから、頭頂葉皮質(疼痛シグナルを処理する脳の領域で、ニューロモデュレーションの標的)における活性度の低下(紫)が示唆されている。脳の活性度のこの低下は、患者による自己報告の疼痛評価の低下と関連しており、患者が脳の活性度の修正を学習し、神経障害の症状を軽減させたことを示唆している。Sarah Prinsloo博士の厚意による画像。

 

For more information, Dr. Salahadin Abdi at 713-792-0883 or sabdi@mdanderson.org, Dr. Annemieke Kavelaars at 713-794-4453 or akavelaars@mdanderson.org, or Dr. Sarah Prinsloo at 713-563-9627 or sprinsloo@mdanderson.org. For more information about clinical trials for patients with neuropathy, visit www.clinicaltrials.org and search for study No. 2015-0399 or 2016-1134.

 

The information from OncoLog is provided for educational purposes only. While great care has been taken to ensure the accuracy of the information provided in OncoLog, The University of Texas MD Anderson Cancer Center and its employees cannot be held responsible for errors or any consequences arising from the use of this information. All medical information should be reviewed with a health-care provider. In addition, translation of this article into Japanese has been independently performed by the Japan Association of Medical Translation for Cancer and MD Anderson and its employees cannot be held responsible for any errors in translation.
OncoLogに掲載される情報は、教育的目的に限って提供されています。 OncoLogが提供する情報は正確を期すよう細心の注意を払っていますが、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターおよびその関係者は、誤りがあっても、また本情報を使用することによっていかなる結果が生じても、一切責任を負うことができません。 医療情報は、必ず医療者に確認し見直して下さい。 加えて、当記事の日本語訳は(社)日本癌医療翻訳アソシエイツが独自に作成したものであり、MDアンダーソンおよびその関係者はいかなる誤訳についても一切責任を負うことができません。

原文掲載日

翻訳粟木 瑞穂

監修佐藤 恭子(緩和ケア内科/川崎市井田病院)

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