胃酸逆流治療薬の長期服用は胃がんリスクの増加と関連

英国医療サービス(NHS) 

2017年11月1日水曜日

「胃酸逆流の治療に一般的に用いられる薬が、胃がん罹患リスクの2倍以上の増加と関連している」とThe Guardian紙が報じました。

研究者らの調査の目的はプロトンポンプ阻害薬(PPI)として知られる薬と胃がんとの間に関連があるかどうかを調べることでした。よく使われるPPIとしては、エソメプラゾール、ランソプラゾール、オメプラゾール、パントプラゾールおよびラベプラゾールなどがあります。

PPIは胃酸逆流の治療と胃粘膜保護の目的で用いられていて、以前に胃がんとの関連が指摘されたことがあります。

しかし、PPIはヘリコバクター・ピロリ感染の治療にも使用されています。ヘリコバクター・ピロリ感染も胃酸逆流のような症状を引き起こし、胃がんのリスクを高めることが知られています。これが事をやや複雑にしています。

香港の研究者らは、胃のヘリコバクター・ピロリ感染の治療を受けた63,397人の患者を調査しました。

ピロリ菌除去ができたとしても、長期的にPPIを服用した人は、服用後7〜8年間の追跡調査において胃がんと診断される確率が高いことがわかりました。

研究デザインの構成上、PPIが胃がんリスク増加の原因なのかどうかはわかりません。他の要因が原因になっているかもしれません。

結果を冷静に捉えることが重要です。PPIの長期服用は、1万人につき年間約4人の胃がん症例増加と関連していました。

PPIは最も広く処方されている種類の薬です。とはいえ、PPIを服用されている方がこの研究を特別に心配する必要はありません。非常に小さなリスクが増加しても、リスクが非常に小さいことには変わりありません。

研究の出典

査読付き学会誌であるGutに掲載されたこの研究は、香港大学およびロンドン大学の研究者によって行われました。資金提供に関する情報は記載されていませんでした。

ほとんどの英国のメディアは、この研究で報告されたリスク値の高い方を報じました。この値は、3年以上にわたって毎日PPIを服用した場合の数字です。

たしかに統計的に有意なリスク増加は示唆しましたが、これが必ずしも臨床的に有意なリスク増加と解釈されるものではないことは見出しに明示されるべきでした。

とはいえ、ほとんどの記事には、がんの絶対的リスクは低く、そのリスクの原因がPPIだとこの研究が証明したわけではない、という専門家の意見は含まれていました。

研究の種類

集団ベースのコホート研究は、因子間(PPIや胃がんなど)の関連性を調べるのに優れた研究である一方、ある因子が他の因子を引き起こす原因となっていることを証明することはできません。

研究の内容

研究者らは、香港のデータベースでヘリコバクター・ピロリ菌感染の治療に成功したすべての人を特定し、平均7年間追跡しました。

除菌は、3種類の抗生物質を組み合わせて使用することから、しばしば3剤併用療法として知られています。

研究者らは、ヘリコバクター・ピロリ除菌後にPPIを服用した人と胃がんに罹患した人を特定しました。

そして、考えられる交絡因子を考慮して数値を調整した後、PPIを服用している人の胃がん発症リスクが高いかどうかを調べました。

また、研究者らは、PPI服用中でヘリコバクター・ピロリに対する3剤療法を受けたことがない142,460人の集団を同定しました。

PPIは胃酸逆流によって引き起こされる胃の不快感を治療するために使用されています。ということは、既に胃がんの症状を呈しているためにPPIの服用を始めた可能性があります。

PPIによる影響の過大評価を避けるため、研究者らは、胃がんの診断を受ける前の6ヶ月間にPPIを処方された人を対象から外しました。

研究者は、年齢、性別、その他の病気については考慮に入れて数値を調整しましたが、食生活、がんの家族歴、社会経済的地位によって数値を調整することはできず、またアルコールや喫煙歴や肥満によって数値を調整することは十分にできませんでした。これらの因子は通常データベースに記録されていないためです。

基本的な結果

研究対象者合計63,397人のうち、153人(全体の0.24%)が胃がんに罹患しました。

  • ヘリコバクター・ピロリの治療が成功し、PPIを週に1回以上服用した人は、胃がんと診断される可能性が高くなりました。この患者群の胃がん罹患リスクは2倍以上(244%)に増加していました(修正ハザード比[aHR] 2.44,95%信頼区間[CI] 1.42〜4.20)。
  • H2ブロッカーを服用している患者(異なる種類の胃酸逆流薬)については、リスク増加を認めませんでした。
  • PPIによるリスク増加は、10,000人あたり年間4.29人(95%CI 1.25〜9.54)に達しました。
  • 長期間および毎日PPIを服用している人についてはよりリスクが高く、8倍(834%)の増加でした(リスク8.34,95%CI 2.02〜34.1)。

ヘリコバクター・ピロリ治療歴がなくてPPIを服用した人とヘリコバクター・ピロリ治療歴があってPPIを服用した人の胃がん罹患率を比較すると、以下のことがわかりました。

•胃がん症例数は、ピロリ菌治療歴のない場合は10,000人のうち1.0人であり、ピロリ菌治療歴のある場合は10,000人のうち8.1人でした。

結果の解釈

研究者らは以下のように述べました。「我々が知る限り、今回の研究はヘリコバクター・ピロリ除菌治療が終わっている場合においても、PPIの長期服用が胃がんリスク増加と関連していることを示す最初の研究です。」

「医師は、そういった患者にPPIを長期にわたって処方する際、注意をするべきです」と付け加えました。

結論

PPIは、胃酸逆流によく使用される医薬品です。本記事の内容はPPIを服用する多くの英国人に警鐘を鳴らしているように思えるかもしれませんが、胃がんの全体的なリスクは依然として非常に低いことを覚えておくことが重要です。

この研究にはいくつかの限界があり、結果の取扱いには注意が必要です。

  • このタイプの研究では、PPIががんのリスク上昇を引き起こしたと証明することはできません。リスクの増加は他の要因によって引き起こされている可能性があります。
  • 研究者は、アルコールや喫煙の有無などの関連する交絡因子を考慮に入れて数値を調整することができませんでした。これら因子が日常的に記録されていなかったからです。
  • 研究対象となった患者のほぼ全員が中国人でした。アジア人は他の集団よりも胃がん罹患リスクが高いことが知られています。そのため、この結果が一般の英国人には当てはまるとは限りません。

しかし、PPIは、ほとんどの薬のように、副作用があります。PPIは通常、長期間の服用を意図しているわけではありません。

PPIを定期的に服用している場合は、今後も服用を続ける必要があるかどうか、かかりつけ医と相談する価値があるのではないでしょうか。より有益な他の治療法が存在する可能性があります。

分析:Bazian

編集:NHS Choices

翻訳担当者 関口百合

監修 中村能章(消化管悪性腫瘍/国立がん研究センター東病院 消化管内科)

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原文掲載日 

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