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乳房再建術の進歩

  • 2017年11月16日
  • 発信元:MDアンダーソン OncoLog 2017年10月号(Volume 62 / Issue 10)

MDアンダーソン OncoLog 2017年10月号(Volume 62 / Issue 10)

 Oncologとは、米国MDアンダーソンがんセンターが発行する最新の癌研究とケアについてのオンラインおよび紙媒体の月刊情報誌です。最新号URL

 

新しい乳房再建技術により乳がんの外科的選択肢が増加し整容性転帰が改善

全身療法、外科療法、放射線療法は常に進化しており、乳がん患者の生存転帰を改善している。それに伴って全乳房切除術や乳房部分切除術後の新しい乳房再建術も出てきた。これらの技術は機能上あるいは整容上の転帰を改善するとともに、満足できる再建術の登場により、乳がん治療の選択肢が広がっている。

 

テキサス大学MD アンダーソンがんセンターの形成外科医は、集学的治療チームの一員として、乳がん治療に対し高まる要求に応えるため、全乳房切除または乳房部分切除術後の再建術に複数の新しい技術を採用している。これらの技術には従来の組織採取部位と異なる部位を用いる方法や、血管柄付組織移植皮弁を採取する新しい摘出法、あるいはインプラントを用いた再建術の改善などがある。「形成外科医として、私たちはすべての乳がん治療に適した手技を個別に選択できるようにしなければならない」と形成外科准教授Jesse Selber医師は述べた。

 

乳腺腫瘍摘出後再建術

複数の大規模研究で、乳腺腫瘍摘出術後に放射線治療を行う乳房温存手術は、多くの型の乳房腫瘍で乳房切除術と腫瘍学的に同等であることが示されている。その結果、乳腺腫瘍摘出を考慮する患者が増えている。「当院では乳房切除術の実施例数と比較して、即時に再建する乳房温存術数が多くなってきている」と形成外科助教のMark Schaverien医師は述べた。

 

乳房温存術の一部としての再建術では、非定型乳房縮小術か乳房固定術を用いた乳房組織再編成がもっとも一般的に行われる。これは元の乳房のボリュームが再現されないため通常もう片方の乳房を同じ大きさにそろえる縮小手術が必要となる。これらの技術は、大きく下垂乳房の患者に用いられる。これらの患者では、両乳房の縮小は良好な転帰とみなされ、また縮小術は放射線治療を容易にするために必要でもある。

 

小さいかあるいは普通の大きさの下垂の少ない乳房の患者で、乳房に対する腫瘍体積率の大きい場合は、有茎穿通枝軟部組織皮弁術が部分乳房再建として時に最善の選択となる。乳腺腫瘍摘出術と再建術は、外来手術1回で行い、両乳房を釣り合わせるための手術は必要ない。

 

広背筋穿通枝皮弁術と胸背動脈穿通枝皮弁術は部分乳房再建として十分に確立されている。しかしいくつかの欠点に対してはもっと優れた皮弁が適用される。例えば、外側胸部欠損は外側胸壁から得た、外側肋間動脈穿通枝皮弁か外側胸動脈穿通枝皮弁のような有茎皮弁を用いて修復しうる。下部または内側の乳房欠損は、前胸から得た皮弁、例えば前胸肋間動脈か内側肋間動脈穿通枝皮弁を用いて修復できる。これら進歩した皮弁術では、傷は乳房下部かまたは乳房側面のくぼみでき、ブラジャーや水着の紐で十分に隠れる。

 

「これらの皮弁は主に米国以外で利用され、オンコプラスティック乳房再建を行う形成外科医が使用することができる手段として付加価値があるのは確かです」とSchaverien医師は言う。彼は即時乳房部分切除再建術のために進歩した有茎胸壁穿通枝皮弁をアメリカで初めて紹介した医師のひとりである。「これら胸壁皮弁には筋層を巻き込まないまたは含まないので、組織採取局所の合併症発生率が非常に低い。またもっとも重要なのは、もし将来、全摘出が必要になったとしても、広背筋と広背筋の血液供給が保たれることである」。

 

乳房組織や穿通枝皮弁を用いた乳房部分再建後の放射線治療は、時に再建乳房に拘縮や組織瘢痕を形成する。「放射線治療中におこる変形は脂肪注入、またはわたしたちが自家脂肪移植と呼んでいるもので復元可能である」とこの分野の先駆者である形成外科教授Matthew Hanasono医師は述べた。(New Fat Grafting Technique Improves Aesthetic Outcomes Following Head and Neck Reconstructive Surgery, OncoLog, April 2014)

 

乳房切除術後再建術

乳房切除を要する患者では、インプラントか血管組織皮弁、あるいは両方を用いた全乳房再建術が施行される。Selber医師によると、MDアンダーソンでは、新しい技術を用いることでインプラント、皮弁のいずれの乳房再建であっても美容的かつ機能的に患者の転帰を改善するという。

 

インプラント基準の全再建術

インプラントを基準とした再建術は全再建術の中でももっとも一般的に行われており、1970年代に導入された。古典的には胸筋を剥離し、その下層に組織拡張器を挿入し、その部分にインプラントを固定するように筋を元通りに縫合する。組織拡張器はのちに永久的インプラントと交換する。

 

インプラントによる再建術の最初の大きな革新は2005年、手術部位に無細胞皮膚基質(acellular dermal matrix)を組織拡張器の支持体として使用したものである(のちにインプラントとなる)。インプラントはより自然に見せる必要性からできるだけ下の方に装着できるように、一般的にインプラントの先端部は胸筋により所定部位に支えられ底の部分は無細胞皮膚基質で支えた。しかし無細胞皮膚基質をこのように用いると胸筋は切開された状態のまま再接着され、一時的な疼痛と大胸筋が動く時に乳房が動くという変形が生じる。

 

Selber医師も含め複数の外科医は無細胞皮膚基質を使用して別の方法で試験することを決めた。「約1年半前、グローバルプラスティックサージェリーコミュニティーに参加したわれわれメンバーの一部は、もし、この方法で無細胞皮膚基質を使ってインプラント用の体内ブラジャーのようなものを形成しているのであれば、胸筋を使う必要は一切ないのではないか、と考え始めた」。

 

Selber医師によると、その結果現れた技術、大胸筋前面インプラントによる乳房再建術がインプラントを基準とした乳房再建術の次なるステップになるかもしれない、という。その再建術では、組織拡張器/インプラントが胸筋の上に設置され、無細胞皮膚基質がその前面に接して下からインプラントを支え、安定性を保つために胸壁に対して確実に留置される。

 

Selber医師は現在、自らのインプラントによる乳房再建術はほとんど全例この大胸筋前面技術を用いている。「患者はみなさん、結果に非常に満足しています」胸筋を用いてインプラントを覆う従来の方法と比べると「痛みがかなり軽減され回復時間も格段に短い。早い時期から仕上がりもいっそう美しい。また、技術的にもより短時間で簡単です。患者にとっても外科医にとっても利点が多い。この技術がインプラントによる乳房再建術に革命を起こすと言っても過言ではないでしょう」。

 

皮弁を中心とした全再建術

最近の技術進歩により、全再建術では他にも組織皮弁を用いる方法がある。この中には傷を少なくするものや、採取部位の選択肢を増やすもの、機能を改善するものなどがある。

 

多くの術後乳がん患者にとって主な機能的障害は上肢のリンパ浮腫である。リンパ浮腫は四肢の排液機能を担うリンパ節を除去しあるいは損傷することにより生じる。この症状を改善するためMDアンダーソンの外科医はしばしば血管柄付きリンパ節移植を行う。血管柄付きリンパ節移植では、同時全乳房再建を行う際に、遊離深下腹壁穿通枝(DIEP)皮弁と共にリンパ管を移して吻合する。 ( Advances in Surgical Management of Lymphedema, OncoLog, April 2017)

 

組織解剖学的に遊離深下腹壁穿通枝皮弁の適さない患者の場合、全摘乳房再建には、腹直筋皮弁や、他の腹部遊離皮弁を用いる。形成外科医は他の選択肢も持っている。大腿上部から採取される深動脈穿通枝皮弁や上部横薄筋皮弁と、臀部から採取される臀動脈穿通枝皮弁は、結果的にドナー組織の合併症発生率を最小限に抑えつつ傷を十分に隠すことができる。これらの皮弁とともに、積層皮弁あるいは双茎皮弁を構成させるなどの進んだ技術を使えば乳房再建に十分な組織容積を増やすことができる。「これらの遊離皮弁や技術は、乳房再建に十分な腹部組織を採取できない患者や、既に腹部外科手術を複数箇所で行った患者の選択肢を広げる」とSchaverien医師は述べた。

 

全乳房置換術の組織皮弁としてもっと一般的な採取部位は広背筋で、インプラントカバー用に覆う皮膚の要不要にかかわらず使用することができる。Selber医師は、皮弁が不要な患者に対しては広背筋を採取し侵襲を最小限にする方法を利用している。(Robotic Surgery Makes Tissue Harvest for Breast Reconstruction Less Invasive, OncoLog, May 2013)

 

侵襲を最小限に抑える方法として、外科医は周辺組織から広背筋を分離させるためにロボット機器を使用する。のちに有茎皮弁を乳房皮膚の下へ移植する。「もし皮膚移植が必要ないのであれば、皮膚を切開する必要はありませんから」とSelber医師は言う。

 

ロボット手術はMDアンダーソンの再建アルゴリズムの中の「一次二期再建」に特化した位置付で行われる。つまり患者が1回の手術のうちで乳房切除のために組織拡張器を挿入し、次に放射線照射を行ってから最終再建を完了する場合である。最終再建の間に、拡張器は永久的インプラントに取り換えられるかもしれないので、このような場合にはインプラントをカバーするために血管柄付組織が必要となることが多い。

 

Selber医師はロボット手術による組織採取法を複数の同僚やMDアンダーソンの研修生に指導してきた。中には他の施設から異動して初めて指導を受けた者もいた。この方法を日常的に行っているのはMDアンダーソンだけである。

 

集学的治療

Selber医師、Hanasono医師、 Schaverien医師らは集学的治療チームの一員として形成外科医が参加することの重要性を強調する。腫瘍外科手術のタイプと放射線治療の必要度が再建手術の選択に影響する。逆の場合もしかりで、再建術の種類が、たとえば組織拡張器が大胸筋前面配置か標準配置か、などによって放射線治療のプラン設定に影響する。

 

「乳がんの治療と乳房再建には多くの選択肢があります。したがって、内科、外科、放射線科の腫瘍専門医と形成外科医が互いにしっかりとコミュニケーションを取り続けることが重要です。治療開始の時だけでなく治療中継続的に、です。なぜなら、患者の状態が変わればその時に必要な治療も変わっていくのですから」とSelber医師は述べた。

 

【囲み記事訳】

可視光分光法が組織皮弁術後の経過観察を改善

MDアンダーソンの外科医らによる最近の研究によると、術後組織の経過観察手法として可視光分光法を用いるほうが、標準法を用いるよりも血管柄付組織移植遊離皮弁による血栓症の発見に対する感受性と特異性が高いことがわかってきた。

 

血管柄付組織遊離皮弁は通常、乳がんや他のがん腫の腫瘍学的切除後再建術に用いるが、血栓症が発現することがあり米国内では遊離皮弁の失敗率は9%にのぼる。もし血栓症が早期に発見されれば、通常損傷した皮弁を助けることができる。しかし、目視とドップラー超音波検査による皮弁観察の標準法では、著しく制限される。これら手法はいずれも継続的というよりは断続的に行われ、目視観察は担当者の経験レベルにばらつきがあり、ドップラー超音波検査では動脈による損傷しか検出しない(静脈ではない)。

 

可視光分光法は非侵襲性で毛細血管レベルの組織ヘモグロビン飽和と総ヘモグロビン濃度を継続的にモニターすることができる。ヘモグロビン飽和の低下は動脈の損傷を示し、総ヘモグロビン濃度の上昇は静脈の損傷を示す。

 

Selber医師らが行った最近の研究では、患者68人、81皮弁に対し可視光分光法と標準的術後経過観察を併用した。患者3例で可視光分光法により皮弁損傷が検出されたが、目視観察もドップラー超音波検査でも検出されなかった。この3例はすべて再手術を行いこの損傷した皮弁は助けることができた (脱落壊死を防ぐことができた)。

 

「可視光分光法は最近、私たちMDアンダーソンで採用し始めた技術で、外側にスキンパッドがあるあらゆる遊離組織移植に使うことができる。これは人の観察力を超えた皮弁観察の次世代技術です」と Selber医師は述べた。

 

【図キャプション訳(上段)】

有茎胸壁穿通枝皮弁を用いた新しい乳房部分切除術を示す。前胸壁(オレンジ)から採取した皮弁、すなわち前肋間動脈穿通枝皮弁や内側肋間動脈穿通枝皮弁などを、内側(A) や下側 (B)の乳房欠損部に使用する。外側胸壁(青)から採取した皮弁には外側肋間動脈穿通枝皮弁と外側胸動脈穿通枝皮弁が含まれ、外側の乳房欠損に使用する(C)。(画像: Mark Schaverien医師の厚意により提供)

 

【写真キャプション訳(下段)】

外科手術ロボット、ダ・ヴィンチを操り乳房再建術の広背筋を採取する先駆者Jesse Selber医師。ロボット採取術は最終的に切開術よりも採取部位の傷が少なくてすむ。

 

For more information, contact Dr. Matthew Hanasono at 713-794-1247 or mhanasono@mdanderson.org, Dr. Mark Schaverien at 713-794-1247 or mvschaverien@mdanderson.org, or Dr. Jesse Selber at 713-794-1247 or jcselber@mdanderson.org.

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翻訳宮地 優子

監修小坂 泰二郎(乳腺外科/彩の国東大宮メディカルセンター)、

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